完了しました
米欧などで自然災害に備え、行政が住宅の移転を支援する取り組みが行われている。洪水などに繰り返し襲われる地域からの退避を促す試みだ。東日本大震災から10年となった日本と同様、各地で防災の模索が続いている。(国際部 松尾彩花)

米政府は、水害の常襲地帯など被災リスクのある地域を指定し、地方自治体と共に希望者の土地と家屋を買い上げることで、内陸部などへの移転を図っている。ミズーリ川など中西部で洪水が相次いだことを背景に1989年に導入された制度だ。
米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」によると、2017年までに約4万3600件の買い上げが行われた。近年は、ハリケーンの襲来が相次ぐ東海岸で増加傾向にあるという。
イリノイ州のベルメイヤー村もその一例だ。93年の大洪水で被災し、住民は近くの高台に集団で移転した。当時村長だったデニス・クノブロックさん(67)は取材に「また被災し、あのつらい思いをすることはもうないだろう。移転は正しかった」と話した。
ノースカロライナ大のミユキ・ヒノ助教(環境社会学)によると、将来の被災を防ぐために計画的に移転を図る試みは「マネージド・リトリート」(管理された退避)と呼ばれ、豪州やオランダ、インドネシア、ブラジルなどでも行われている。居住に制限をかけて宅地を買い取る、日本の「防災集団移転促進事業」もこれに含まれるという。
台風が毎年のようにやってくるなど災害に頻繁に見舞われる地域は世界的に少なくない。しかし、複数の専門家によると、住民が退避するのは、ほぼすべて、住宅が損壊するなど実被害を受けてからだという。米デラウェア大のエイ・アール・サイダース助教(減災学)は「地球温暖化を背景に自然災害は増えている。被害を未然に防ぐために、被災前の退避を促していくことも重要になる」と話す。