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高級な地区に暮らしたい、4年で倍になったマンション価格…「階層移動」が生んだソウルの異常

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[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「韓国」。

 ソウルのマンション価格が高騰し続けている。4年で倍近くとなる異常さだ。 文在寅ムンジェイン 政権の再三にわたる対策も効かない。理由を掘り下げると、経済の次元を超えた韓国社会の特徴が見えてくる。

富裕層に人気の江南地区

 韓国のKB国民銀行によると、中古を含むソウルのマンションの平均価格は約11億2400万ウォン(約1億1000万円)に上る。文氏が大統領になった2017年5月からの4年間で約8割上昇した計算となる。富裕層に人気の 江南カンナム 地区では築20年近い物件でも軒並み2億~3億円の値をつける。ソウルは今や世界で最もマンション購入が難しい都市の一つだ。

 マンション価格の上昇は賃借者にとっても打撃だ。家賃の急騰をもたらしてきたからだ。

 経済的な背景はもちろんある。文氏以前の保守政権時代に、都市再開発を目的として不動産投資への規制を緩和したため、マンション投資が国民に広まったとされる。中央銀行の政策金利が近年、比較的低く抑えられていることも大きい。

「社会的地位を上げたい」

 しかし、経済だけでこの急騰を説明するのは無理だ。ヒントとなるのは、韓国でよく耳にする「 階層ケチュン 移動」という言葉だ。社会的な地位が上がることを意味し、気にする韓国人が多い。年齢や身分を重んじる儒教の影響だと指摘する人もいる。

 階層は血縁や学歴、就職先で決まる面もあるが、何とか引き上げるため、より高級な地区に暮らそうとする。地方の人はソウル市、 仁川インチョン 市、 京畿道キョンギド で構成される「首都圏」を好む。首都圏の住民はソウル市を目指す。

 韓国では人口の約半数が首都圏に一極集中している。土地に限りがあるため、住まいはマンションが中心となる。地位を上げたいとの必死の思いがマンション需要を膨張させている。

 学歴偏重もマンション価格高騰に拍車をかけている。韓国では一部の例外を除いて高校受験がなく、小学校から高校まで、自宅のある学区内の学校に通うのが原則だ。このため、大学進学実績が良い高校のある地区に引っ越し、子どもを有名大学に合格させようとする家庭が多い。

 小学生の息子2人を持つソウルの会社員男性(47)は今年3月、江南地区の 大峙洞テチドン のマンションに引っ越した。江南地区は教育熱心な親が多く、名門ソウル大進学者が多いことで知られる。大手学習塾の統計によると、19年にソウル大に合格した一般高校出身者のうち、44%がこの地区在住だった。

 大峙洞の一角は「塾通り」と呼ばれる。小学生から大学受験生までを対象に学習塾がひしめくからだ。小学生の頃から、複数の塾に通う子どもも多い。男性は「息子の将来を思えば、お金は惜しくない」と話す。

文政権 対策不発

 文氏は手をこまねいてきたわけではない。所得格差の縮小などを訴えて発足した左派系政権だけに、これまでに発表した対策は20回以上に上る。複数の住宅保有者に対する課税強化や指定地域での転売禁止など多彩な政策を用意してきたが、目立った効果は出ていない。

 マンション問題は、任期満了まで1年を切った文政権の求心力低下に拍車をかけている。韓国ギャラップの世論調査(6月11日発表)によると、文氏の不支持率は52%と、不支持率が支持率を大きく上回る状況が続いている。理由の1位は、回答の30%を占める「不動産政策」だ。国民の不満がさらに高まれば、文氏の後任を選ぶ来年3月の大統領選で、保守勢力への政権交代も現実味を帯びてくる。

 国の社会や文化を一朝一夕には変えられない。じり貧状態の文氏の悩みは深いだろう。

「神話」危うい足元

 韓国では「マンション投資は損をすることはまずない」と自信を持って話す人が少なくない。「不動産不敗神話」なる表現があるほどだ。

 ソウルの調査機関・韓国都市研究所の 崔銀瑛チェウンヨン 所長は、不動産価格はいずれ頭打ちになると語る。資産や所得が少ない若い世代が住宅ローンに頼り、本来なら10年後に買うはずのマンションを先食いして購入しているためだ。「借り入れの前提となる値上がりが実現しなければ、若者たちは耐えられるのだろうか」と話す。

 韓国では近年、マンションを買う若い人たちの行動を指す「ヨンクル」という言葉がはやっている。「魂までかき集める」という意味で、無理な借金をして魂までへとへとになる状況を指す。これで値下がりしたら耐えられないだろう。

 人口動態の変化も影を落としている。

 韓国では他の先進国と同様、子育てに要するお金や時間がないとの理由で結婚しない男女が増えており、住宅需要は長期的には伸び悩むとみられている。2月に発表された政府統計によると、韓国の人口は統計開始以来初めて減少した。昨年の出生数は前年比10%減の27万2400人にとどまった。

  ソウル支局 上杉洋司  ヨハネスブルク支局を経て、昨年12月にソウルに赴任。住宅購入にはとても踏み切れない。

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2126860 0 国際 2021/06/16 05:00:00 2021/06/16 08:46:12 2021/06/16 08:46:12 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210615-OYT1I50121-T.jpg?type=thumbnail

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