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ドイツで、新型コロナウイルスワクチンの接種義務化を巡る議論が連邦議会(下院)で近く始まる。ショルツ首相が18歳以上には必要だとして法制化を要請した。成人全般の接種義務化は主要国では珍しい。他国では司法が政府判断を覆した例もあるほか、連立政権内でも異論があり、昨年12月に就任したショルツ氏の指導力を問う試金石となる。(ベルリン支局 中西賢司)
「社会経済活動進める前提」
ショルツ氏は今月12日の議会討論で「啓発だけでは接種率を向上できない。(接種は)自分だけでなく、8000万人(の国民)のために決断することだ」として義務化は不可欠だと訴えた。ドイツの接種率は約73%で、約79%の日本より低い水準にある。年明けからは変異株「オミクロン株」の感染者が急増し、1日あたりの感染者は21日に過去最多の14万人超となった。
ドイツでは、未接種者に対し、飲食店の利用を禁じるなど行動制限を強めてきた。それでも、集中治療室(ICU)の患者の6割は未接種者とされ、病床不足のしわ寄せは手術の延期などで一般患者に及ぶ。警察官や消防士らの感染や濃厚接触による欠勤で、行政運営への負担も増している。このためショルツ氏は、社会経済活動を進める前提として、接種の義務化という大きな政策転換を主張する。
割れる連立与党
一方で、ドイツの基本法(憲法)は「身体を害されない権利」を明記し、日本と同様、自己決定権を保障する。重症化リスクが高い高齢者の88%は任意でも接種に応じた。接種が義務化されても、反対派は法廷闘争を視野に入れており、従う見通しは薄い。抗議デモの過激化を招く恐れもある。
医師らの団体からは、接種台帳の整備や未接種者への連絡で現場の負担がさらに増すことへの懸念が上がっている。「強制によらない手法で接種率を上げるべきだ」との意見は根強い。
公共放送ZDFの世論調査では、成人の接種義務化に賛成する人の割合は昨年11月に69%だったが、昨年12月68%、今月14日は62%と減少傾向にある。接種者の「ブレイクスルー感染」が増え、ワクチン効果を疑問視する声が強まっていることも影響したとの見方がある。
連邦議会での論戦は1月26日に始まり、関連法案の議決は3月になりそうだ。ショルツ氏の社会民主党と3党連立政権を組むリベラル派の自由民主党は義務化には否定的だ。一部は反対案を議会に提出しており、連立与党は割れている。ショルツ氏は、政府として法案を提出せず、議員立法に委ねる考えを表明し、地元メディアの間では「与党をまとめ切れなかった」(有力誌シュピーゲル)との批判も出ている。
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