完了しました
弾圧恐れ露を出国
【ベルリン=中西賢司】ウクライナ侵攻にソーシャルメディアや報道で反対の声を上げたロシアの人たちが、プーチン露政権の弾圧を恐れ、国外に避難している。長期滞在が認められるウクライナ難民とは異なり、一時保護の対象とはならず、生活の展望を描けないケースが多い。
親にも批判され

「想像以上の批判にさらされ、生まれて初めて身の危険を感じた」。ロシアで人気ブロガーだったレフ・ブラドフさん(29)はドイツの首都ベルリンで、ブログに反戦のコメントを書き込んだ経験を振り返った。
露中部の大都市チェリャビンスクで、住宅事情の改善など都市計画に関するブログを運営し、約10万人のフォロワーがいた。露軍のウクライナ侵攻の翌日の2月25日、状況が一変した。
ブログでプーチン政権与党・統一ロシアの議員らに「抗議の離党」を行うよう求めると、記事は炎上し、ネット上で「外国の手先」などと罵倒された。親にも「裏切り者」と批判された。
ロシアでは3月上旬の法改正で、軍事に関する情報発信が当局に「虚偽」とみなされれば、最大15年の禁錮刑が科されるようになった。侵攻に反対し続ければ、摘発されるのは確実だった。車で国外に逃れ、3月7日にドイツ入りし、知人宅に身を寄せた。
ベルリンではインスタグラムなどでプーチン政権批判を発信している。問題は生計をどうやって維持するかだ。欧州連合(EU)に入域した際の短期訪問ビザは3月末に切れ、仕事のあてもない。ロシアのクレジットカードは制裁で使えない。「刑務所行きは確実で、国にも帰れない」という。
4月下旬、以前に申請した異文化交流プログラムに採用されたとの連絡があり、3か月間はドイツの調査研究機関で研究活動ができるようになった。その先の見通しは立たない状況だ。
150人以上か
国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」によると、侵攻に反対し、ロシアを出国した記者らは3月上旬時点で約150人だったとされる。現時点での詳しい人数は不明だが、さらに増えているのは確実だ。
ブラドフさんらによると、ドイツは出国したロシアの人たちのプーチン政権批判の拠点になりつつある。独政府はこうした人たちが不安定な状況に置かれている現状を踏まえ、4月中旬、総額100万ユーロ(1億3700万円)の緊急支援を実施すると発表した。ブラドフさんのような個人や既存のメディアの関係者を対象に、資金や資材面で支える計画で、「ロシアの人々が真実を知ることが重要だ。プロパガンダと偽情報に対抗する」としている。
欧州へ「記者続けたい」…トルコ経由 地元記者が手助け

ウクライナ侵攻に反対を唱えたロシアの人たちは、ビザなしで入国できるトルコやジョージアなどへも逃れている。独立系テレビ局「TVレイン」のリポーターだったディミトリ・ワルラモフさん(32)もその一人だ。
TVレインはウクライナ側の発表も報道したことから、当局から「社会の平穏を乱す」としてサイトを遮断され、捜査の手が迫った。制裁に苦しむ市民の窮状を追っていたワルラモフさんは3月初め、「今逃げなければ逮捕されかねない」とトルコのイスタンブールに飛んだ。
現地で報道の自由の実現を目指すNGO「MLSA」を知り、紹介された地元記者エゲ・チョクジョシュグンさん(30)のアパートに滞在した。MLSAは30人以上のロシア人記者をトルコ人記者と引き合わせ、欧州への亡命申請も支援してきた。
トルコもメディア規制が厳しく、AP通信によると、タイップ・エルドアン大統領への批判が侮辱罪にあたるとして起訴された記者らは2014年以降、3万人を上回る。チョクジョシュグンさんもSNSへの批判投稿で起訴された経験があり、「強権に立ち向かう者同士、助け合うべきだ」と手をさしのべたという。
ワルラモフさんは結局、欧州の国で受け入れの見通しが立ち、4月13日にトルコを出国した。「安定した仕事を探しながら、記者活動を続けていきたい」と話した。(イスタンブールで、上地洋実)