完了しました
【広州=川瀬大介、香港=吉岡みゆき】中国新疆ウイグル自治区を視察したミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官は28日、人権高等弁務官として17年ぶりとなった訪中の日程を終えた。中国当局がバチェレ氏の自治区での行動を大幅に制約したことで、視察には限界があったとみられる。海外のウイグル族団体は、中国政府の対応を強く批判した。

バチェレ氏は28日夜に臨んだオンラインの記者会見で、今回の訪問にあたり、先遣チームが4月25日から中国入りして準備していたと述べた。自治区訪問では、現地高官と会談し、刑務所や学校なども視察した。

しかし、中国当局はこれまでも、外国メディアなどの取材ツアーで質問に答える地元住民や当局者らを事前に用意する手法を取ってきた。さらに、今回の訪問では、新型コロナウイルス対策を理由に、関係者以外との接触を遮断する「バブル方式」が取られた。聞き取りを行う相手は限定され、当局の意向とは異なった現地の声などに触れることは困難だったとみられる。
訪問先は、日本の4倍以上の広さを持つ自治区で西部カシュガルと区都ウルムチに限られ、滞在時間も約2日間にとどまった。こうした懸念から、国連のアントニオ・グテレス事務総長も事前に、形式的な視察とならない「信用に足る訪問」となるよう求めていた。
バチェレ氏はまた、記者会見で、海外に逃れたウイグル族が自治区に残る家族と連絡が取れないと訴えていることについて、中国当局に対して「こうした家族の情報を最優先で提供するよう求めた」と強調した。
しかし、中国外務省は28日、
海外に亡命したウイグル族でつくる「世界ウイグル会議」(本部=ドイツ)は「訪問時の自由な行き来と、当局の監督なしに弾圧を受けたウイグル族と話すことが必要と強調してきた」とした上で、「今回の訪問は正反対だ」として、中国側の対応を非難した。
日本ウイグル協会の于田ケリム会長も本紙の取材に「最初から(視察に)期待していなかった」と語り、「現地の実態を確認できるはずもなく、逆に利用されるだけと思っていた」と、バチェレ氏の訪問自体にも批判的な目を向けた。
◆記者会見のポイント
▽対テロには人権侵害ではなく、国際的な人権基準に基づき対処すべきだ
▽チベットの言語、宗教、文化の独自性は守られるべきだ
▽香港での民主活動家、ジャーナリストらの拘束に深い懸念を表明
▽訪中の目的は調査ではない
▽中国政府との間で、高官による定期的な戦略対話を設立することで一致した