「匿名高官」のトランプ批判が示すメディアの現状とは

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歴史の教訓

 1954年、共産党員やそのシンパを糾弾するジョー・マッカーシー上院議員の「赤狩り」はすでに勢いを失っていたが、同議員は依然35%の支持率を維持していた。4年前の赤狩り全盛期より10ポイントしか下がっていなかった。

 その20年後、ウォーターゲート事件を追及する上院委員会の公聴会が始まり、報道機関にさらし者にされても、ニクソン大統領の支持率は44%あった。その1年後、ニクソン氏が辞任を表明し、ヘリコプターでホワイトハウスを離れる直前になっても、米国民の約4分の1は高い評価を与えていた。

 ほぼ45年たった今、第45代大統領(トランプ氏)は、側近の刑事訴追や極めて非好意的な暴露報道、そして政権内の匿名高官によるニューヨーク・タイムズ紙上での批判(注1)で追いつめられてはいる。ただ、直近の支持率はぎりぎりとはいえ40%台にとどまっている。

 こうした歴史を踏まえておくことは、メディアと大統領の関係が9月に入り、かつてなかったような戦争状態にまで至った事態を把握する上で重要だ。7日付フィナンシャル・タイムズ紙の見出しにあるように「メディアはトランプに、ニュースの流れを支配するのはどちらかを決する戦いを挑んだ」といえる。

 ここで歴史の教訓が役立つ。どこが転換点だったのか、我々にはしばらくの間、特定できない。歴史家の言うところでは、振り返ってみれば歴史上は恥辱にまみれたと認定される者でも、当時は国民の大半から意外と長期間支持された。世論調査が示すのは、誤認された安定感だという説もある。安定、安定、とにかく安定……。そうでなくなるまではずっと「安定」なのだ。

 歴史家で元ニューズウィーク誌編集長のジョン・ミーチャム氏が先日、ラジオのインタビューでこんなことを言っていた。「30%の国民は何があろうと現職を支持する。その人物が逮捕されても30%の人は魔女狩りだとかでっち上げだとか言うものだ」。ミーチャム氏によれば、「何があってもその人物についていく岩盤支持層以外の60~65%の国民がどこに向かうかがポイントだ」。

多数派世論の動き

 刑事訴追や以前にも増して攻撃的な報道が絶え間なく続く中、この(60~65%の)層は動くのだろうか。

 最近の世論調査を見ると、まだ確実ではないが、支持率と不支持率に動きは見られる。ミーチャム氏の指摘に関して言えば、トランプ大統領が、元選対幹部マナフォート氏に恩赦を与えようとしたり、セッションズ司法長官を解任しようとしたり、モラー特別検察官のロシア疑惑捜査をやめさせようとしたりすることへの反対意見が徐々に多数派となりつつあるようだ。

 この劇的展開の中で報道の役割とは何だろうか。

 あるべき最善の姿は、国民に情報をもたらす強く安定した存在であり続けることだ。ニクソン政権時代にウォーターゲート事件で成果を挙げた2大報道機関、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストが引き続きその役割を主導していることは驚くにあたらない。

匿名寄稿と内幕本

 「匿名のトランプ政権高官」が寄稿先に選んだのはウォール・ストリート・ジャーナルでもFOXニュースでもなかった。ウォール・ストリート・ジャーナルも十分権威あるメディアだが、(トランプ氏に近い)ルパート・マードック氏に10年前に買収されて以降も、全国的な地位という観点ではニューヨーク・タイムズの足元にも及ばない。

 ニューヨーク・タイムズへの匿名寄稿で「私はトランプ政権内抵抗勢力の一部だ」と書いた共和党員の筆者は、我々が過去2年間、見てきたことを裏付けた。すなわち、ニューヨーク・タイムズは今なお、信頼され、責任をもってニュースとなるような問題を提起する報道力と分析力を体現する存在であるということだ。右派の、エセ報道機関は反発するが、そうしたメディアも時間がたつにつれニューヨーク・タイムズなどの流れに従う。こうしたメディアはいつも受け身の存在だ。

 ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者の取材に応じ、ホワイトハウスの内幕を語った何十人という人々も、夜11時のインタビュー申し込みなどを断ることはできたはずだが、そうしなかった。なぜか。ジャーナリストのアリシア・シェパード氏が指摘するように、ウッドワード氏は「話をでっち上げないからだ」。過去数十年にわたり、ウッドワード氏が発表した著作やワシントン・ポストの報道(両者はほとんどの場合、不可分なのだが)は、今なお注目され、徹底した事実追求で信頼を得ているのである。

 CNNのゲーリー・タックマン記者がセッションズ司法長官の地元アラバマ州の町を訪ね、食堂にいた客にトランプ大統領が同長官と南部人を見下した発言をしたとされる件について聞いたインタビューを見てみよう。

 ウッドワード氏の新著(注2)にある「間抜けな南部人」いうトランプ氏の言葉について聞くと、ある客は「もしそう言ったのならば怒りを覚えるし、がっかりする」と答えた。記者が「この本を信じるわけですね」と尋ねると、客は「わからない。ワシントンでいったい誰が信じられるというのか」と答えた。記者がたたみかけて、「ボブ・ウッドワードのような人と合衆国大統領のどちらを信用しますか」と聞くと、この客はためらいながらも「正直に言うと、多分ウッドワード氏の方だ」と認めた。

評価は読者の手に

 ニューヨーク・タイムズへの匿名寄稿についても、オピニオン欄編集長のジェームズ・ダオ氏の説明は単純明快で、掲載の是非について何の疑問も湧いてこない。同紙は、機密情報や、匿名だが権威あると認められる情報源が提供するニュースや事実、分析を報道しており、今回の掲載にあたっても、編集者たちの日々の判断基準と同様のものを適用した。ニュース性はあるのか、事実関係の確認は取れているのか、読者の理解に寄与するものか――といったことだ。

 この匿名寄稿者は英雄か、あるいは卑怯者か。伝えようとしたメッセージは何で、読者はどう受け止めたのか。筆者は名乗り出るべきではないか。すべて重要な問いだが、ニューヨーク・タイムズが決めることではない。これこそ「報じるのは我々、評価するのはあなた」というジャーナリズムの現実だ。

新聞ブランドの効用

 支持率は上がることもあれば下がることもある。我々を混迷から導き出すことが出来るのは堅実冷徹な報道だ。だがそれも、報道を支える経営基盤の安定があってこその話だ。

 ニューヨーク・タイムズが購読料収入増進のため、あえてデジタル版ページビューの目標設定をやめて約10年になる。この間、デジタル化の波に何度見舞われても読者ファーストの戦略を貫いてきた。その見返りは今、最も直接的かつ持続的な形で同紙にもたらされている。読者が報道そのものに金を払うようになったのだ。

ニューヨーク・タイムズに掲載された「匿名のトランプ政権高官」の寄稿
ニューヨーク・タイムズに掲載された「匿名のトランプ政権高官」の寄稿

 現在、ニューヨーク・タイムズの収入の63%をもたらしているのが読者(紙とデジタル版で計380万人の購読者)である。今回のオピニオン欄が経営の一助になるか、との問いへの答えはイエスだが、その効果は中長期的に表れよう。大ヒット記事や連載を目玉に、ある1日だけ新聞が大売れすれば良いという時代では、もはやない。

 今もニューヨーク・タイムズの国民社会における卓越した地位を認めているのは共和党の幹部たちだけではなく、読者もまたそうである。同紙は、この効用をどう評価しているのか。

 第一には、同紙の最も重要な目標、すなわちトランプ氏の大統領当選前後に生じた「トランプ・バンプ」と言われる部数増加現象により獲得した、すべての購読者の維持に勢いが付く。第二には、企業買収での一助にもなる。

 これがブランド力の構築ということだ。ニューヨーク・タイムズは、最も重要なニュース源という期待される役割を忠実に果たすことでブランドに磨きをかけられる。そしてブランドは、購読と広告の両面から見て長期的な価値を持つ。

 ニューヨーク・タイムズだけではない。

 「メディアは国民の敵」というトランプ大統領の発言に反発し、ボストン・グローブ紙が主導した、報道機関を擁護する社説を一斉に掲載する動きには400紙以上が参加し、この異例ずくめの時代にあって地方新聞の気骨を改めて示すことになった。

 ジャーナリズムは人気コンテストに勝つためにあるのではない。この仕事は、歴史が破綻するような事態を阻止するためにある。我々が歴史の第1稿を日々書いているというのは、そういう意味だ。

 

 注1(読売新聞による) ニューヨーク・タイムズは9月6日付で、匿名のトランプ政権高官が、「大統領は米国の健全性を損なう振る舞いを続けている」と警告したり、トランプ氏について「衝動的で敵対的、卑しくて役立たず」と批判したりする寄稿を掲載した。外部有識者による論評記事は署名入りが原則で、匿名での掲載を許した判断は異例といえる。

 

 注2 ウッドワード氏の新著「恐怖 ホワイトハウスのトランプ」は米国で9月11日に発刊された。複数の政権高官とのインタビューなどに基づき、トランプ政権の内幕を描く。トランプ氏がシリアのアサド大統領暗殺を衝動的に命じ、側近を困惑させるなど、トランプ氏の横暴ぶりに苦慮する政府高官の姿が詳述されている。

(9月10日配信記事から抜粋。全文は こちら

プロフィル
ケン・ドクター( Ken Doctor
 米ジャーナリスト。報道機関のアナリストとしても知られ、「ニュースの経済学」などデータを駆使した歯切れのいいメディア評論には定評がある。「ニーマン・ラボ」には定期的に特別コラムを寄稿している。

無断転載禁止
41059 0 ハーバード ジャーナリズム報告 2018/09/14 15:00:00 2019/09/14 15:00:03

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