グーグル、欧州でニュースサービス撤退の構え

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物議呼ぶEU新法

2019年1月22日、ドイツの首都ベルリンの新設オフィスを訪れたグーグルのサンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)=右、ロイター
2019年1月22日、ドイツの首都ベルリンの新設オフィスを訪れたグーグルのサンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)=右、ロイター

 欧州連合(EU)が検討する一連のデジタル著作権法改正案は、物議をかもすものだ。その中の一つが、グーグルなどのプラットフォーム事業者に「最小限度の抜粋(スニペット)」以上の検索結果を表示する際の掲載料を報道機関などパブリッシャーに対して支払うよう義務付けるものだ。一部報道によると、グーグルは、改正が実施されるなら欧州ではグーグルニュースから撤退する構えだという。

 過去にも、似たような状況はあった。2014年にスペインで成立した「スニペット税」は現在、EUが検討中のものと似ているが、グーグルはこの時、スペイン版グーグルニュースを閉鎖している。その結果何が起きたかといえば、17年に実施された研究によると、グーグルニュース以外のパブリッシャーのページビューが10%減ったほか、ニュース全体へのアクセスも20%減少した。

 どちらの立場を取るかによって言い方は変わってくるが、欧州は今、「報道機関が、自分たちの仕事の成果にただ乗りしてきた巨大IT企業から、ようやく補償が得られるようになる」、あるいは、「開かれたウェブという原則が崩れ、利用者もパブリッシャーも、そして民主主義そのものも同時に打撃を受けようとしている」――という状況にある。

 EUの新法は私には悪い考えのように見える。ただ、今の状況が14年とは若干、異なることを指摘しておきたい。

広告から購読収入重視への流れ

 2014年には、ニュースを流すパブリッシャーには希望があった。デジタル広告が、新聞やテレビなどの従来型メディアにおける広告料のような役割を果たすようになり、順調に伸びて主な収入源になる、という希望だ。

 当時、独占的な2大勢力と恐れられていたのはアップルのiOSとグーグルのアンドロイドだった。グーグルとフェイスブックは14年には合計で約310億ドルの広告収益を上げた。18年にはそれが計約650億ドルになった。

 今やパブリッシャーはグーグルとフェイスブックに広告で対抗しても得られる物はほとんどないと気付いている。今、重要になっているのは購読料収入だ。ページビューを追求して広告収入を狙うのでなく、継続的な顧客を得て購読料で稼ぐということだ。

 2016年に在欧州のパブリッシャーを対象に実施した調査では、購読料収入の占める割合は47%で、広告収入の40%を少し上回る程度だった。それが2年後の18年の調査では、購読料収入が52%で、広告収入の27%よりも明確に増えた。

 スペインの例では、グーグルニュースがなくなると人々のニュース需要が減った。つまり、仮にグーグルニュースが明日、突然欧州から撤退すると、必ずやパブリッシャーにも悪影響が及ぶだろう。ただ、一方で、それほど悪いことにはならないと考える者もいるだろう。ニュースに飢えた読者が、単に検索機能を使うのではなく、ニュース専門サイトを訪れたり、ニュースのためのアプリを起動したりするようになれば、今のニュースによる収入モデルと合致することになるからだ。

検索の主戦場はモバイル

 2014年ともう一つ状況が違うのは、モバイル機器で行うニュース検索の比重が大きくなっている点だ。

 14年当時、検索はもっぱらデスクトップやラップトップのパソコンを使って行うものだった。それが15年になって、モバイルを使ったグーグル検索がデスクトップを上回り、今日では圧倒するようになった。米国では、約70%の検索が携帯電話を使って行われている。

 デスクトップでは、すべてのウェブサイトが平等の市民権を得ている。だがスマホでは、アプリこそが王様だ。ブラウザーは、多数のアプリのアイコンが並んでいる中の一つでしかない。そして他のアイコンの大半はグーグル、フェイスブック、またはアップルに牛耳られている。

 何か、気になるニュースを耳にした人は、パソコンの前にいれば、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどの定評あるブランドのニュースサイトをまずは探すだろう。だが、スマホだと、おそらくはSNS(「ツイッターで人々が何を言っているのか見てみるか」)か、検索エンジンの検索ボックスを見ることになるだろう。

 この変化はおおむね、プラットフォームの勝利を意味していた。基本ソフトウエア(OS=iOS、アンドロイド)でも、SNS(フェイスブック、ツイッター)でも、あるいは検索(もっぱらグーグル)でも、そうだ。アプリで行われる作業が増えると、ブラウザーは自らに残される作業を確保するべく、さらに多くのことができるようにしなければならなくなった。つまらないニュース検索だけで満足することは許されなくなっているのだ。

グーグル対アップル、EU

 検索分野で、グーグルの成功が約束されている最大の要因は、携帯電話製造各社がデフォルトの検索機能としてグーグルを機体に埋め込んでいることだろう。最も重要な取り決めはアップルとの間のものだ。グーグルは推定で年間120億ドルを支払い、iPhoneとiPadの検索エンジンとなっている。アップルの営業収益全体の15%ほどに相当する額である。

 検索におけるグーグルの独占的地位を脅かし得る存在が2つだけあるとすれば、アップルとEUの両者だ。

 アップルは、これまでのところ、グーグルから何十億ドルという小切手を受け取ることに満足している。一方で、グーグルに対して何十億件もの検索情報を送っていることは、アップルが顧客の通信プライバシーを守る企業であるというアピールをしていくうえで大きな落とし穴となっている。仮に欧州の人々がサファリでニュースを探しても有益な結果を得られなくなるとすれば、アップルは黙って見過ごすだろうか。

 そしてEUだが、仮にグーグルが欧州全体でニュース表示をやめた場合、EUがこんな対抗措置を取ることはないだろうか。「情報の流れに過大な支配力をふるう米国企業を追い出すのは欧州にとって幸いだ。この際、新たなEU規制を作り、欧州で販売される携帯電話にはデフォルトで欧州のニュースパブリッシャーを表示し、掲載料も払う検索エンジンを搭載することにする」――。

力関係に変化も

 もちろん、このようなことは起きないだろう。同様に、報道各社が「グーグルニュースなど、なくなっても困りはしない」と言い出すこともない。購読料収入重視にシフトしていくことが最善のやりかたであるとはいえ、それだけでやっていけるパブリッシャーはないからだ。

 こうしたシナリオが示すのは、プラットフォームの力が数年前には考えられなかったほど低下し、具体的な形で挑戦を受けるようになったからだ。すべてのプレーヤーにとって目指すものが少しずつ変わってきた。過去10年を振り返れば、力の優位がパブリッシャーからIT企業に一方的に移ったことは明白だ。その力関係が逆転しつつあるとまで言うつもりはないが、以前よりは興味深いジグザグ模様になってきたことは確かだ。

(1月22日配信、原文は こちら

プロフィル
ジョシュア・ベントン( Joshua Benton
 ニーマン・ラボ代表。米南部ルイジアナ州出身。南部テキサス州の日刊紙「ダラス・モーニング・ニューズ」などで10年間、記者を務めた後、ハーバード大でジャーナリズムを研究。2008年に「ニーマン・ラボ」を設立した。

422726 0 ハーバード ジャーナリズム報告 2019/02/04 16:37:00 2019/02/04 16:37:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190204-OYT8I50003-T.jpg?type=thumbnail

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