NYタイムズ式「データに強い記者」育成法

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社員向けデータ講習のノウハウを公開

ジャーナリズムは大量のデータを生かせるか。新たな取り組みが始まっている(写真はAP)
ジャーナリズムは大量のデータを生かせるか。新たな取り組みが始まっている(写真はAP)

 「ジャーナリストはプログラミングの技術を身につけるべきか」――。この問いは以前からあるものだが、納得のいく答えはない。そうするべき人もいれば、するべきでない人もいる、といった具合だ。

 問いかけが脱線してしまう原因の一つは、質問者が「プログラミング」で何を意味しているのかが不明な点にある。市政担当の記者がプログラミング言語「スウィフト」でiPhone用アプリを開発したり、機械学習モデルを締め切りに合わせて作ったりすることはまず考えられない。だが、データ分析に関連する基本的、直接的な技術で、編集部門の誰にも役立つものは必ずある。それは暗号解読でなければ、記者ならば誰もが持っているという技術でもない。

 ニューヨーク・タイムズは、より多くの記者にこうしたデータ処理技術を習得させようとしており、社員向けにカリキュラムを開発した。それをこのほど、記者であれ、編集者であれ、その他多くの人々にも役立つとして外部に公開した。

 以下に紹介するのは、ニューヨーク・タイムズのデジタル編集部門と社内向け講習部門の部長であるリンゼー・ロジャース・クック氏の署名入り記事からの引用だ。

 ――(ニューヨーク・タイムズには)業界最高のデータ処理や画像・図表の担当記者たちがいるが、それでも問題はあった。データ処理の知識が編集局のデスクに広く浸透しておらず、日々の報道に反映されていないということだった。数字とデータに強いことは、かつてなく重要になった。ちょっと前のジャーナリストは「数学が嫌いで逃げたかったからこの仕事に就いた」といった冗談を好んで口にしていたものだ。今や、教育や株式市場、国勢調査から刑事司法まで、実に幅広い取材領域の基盤に数字がある。かつてない量のデータが公表されるようになった。米政府のサイトdata.govだけでも25万近いデータセットが公開されており、政府も政治家も企業も、自分たちの主張を裏付けるため、こうした数字をねじ曲げようとする傾向を強めている。

 ――我々は、社内の記者たちが取材源や政府から得るデータをよりよく理解することを助け、数字を分析するための手段を持たせたいと考えた。従来型の記者と、(データ処理などが専門の)非従来型の記者たちの協力を深化させたかった。競争が激しくなる中、政府や学界、研究機関が管理する膨大なデータベースに眠るニュースを発掘する力を身に付けてもらいたかった。必要な手段と支援を得て、それぞれの記者が担当分野で、気宇壮大な計画の話だけでなく、データをきちんと盛り込んだ報道を日常的に行えるようにしたかった。

 この願いから、ニューヨーク・タイムズは試作的な講習を始め、やがて集中講座を行った。これまでに60人以上の記者が参加し、まずはスプレッドシート(表計算ソフト)の使い方に焦点を当て、学んだ。現在のコースは毎日午前中に2時間、3週間連続で行われ、その後も多くのサポートがある。

「究極の基本」から始まる講習

 アクセス可能な講習用教材を見ると、次のようなことがわかる。

 ▽講習で学ぶデータスキルの概略。講習はすべて、グーグルドックス(ドキュメント作成用ソフト)とグーグルシート(スプレッドシート作成用ソフト)を使って行われる。説明は「究極の基本」レベルから始まり、ピボットテーブル(クロス集計機能)の使い方という一つの山を越えると、データクリーニング(データの重複や誤りの洗い出し)、そしてさらに上級の技術に進んでいく。

 ▽ニューヨーク・タイムズで行う3週間コースの講義項目が詳細に示されているが、もちろん各メディアが必要に応じて自由に改編することができる。

 ▽講習では(スプレッドシートの)セルや行、列についての話ばかりではなく、ジャーナリズムに即した情報も扱われる。例えば、倫理を巡る問題や、背景の理解を深めるためにデータを記事中で効果的に使う方法、画像・図表を専門とする同僚との最も良い連携の仕方などだ。

 ▽データを深読みする時間がない時に、手早く情報に行き着く方法も示されている。

 ▽講習の初級、中級、上級編別になったデータセットには、ジャーナリズムの世界では古典的データと言える国勢調査や選挙資金、米労働統計局(BLS)の雇用統計などがある。

 だが、講習で使われるスプレッドシートを基に本物のニュース記事を書いたりしてはならない。ニューヨーク・タイムズは太文字の注意書きで「注意 データには講習用に様々な改変が加えられている。従って報道の際には必ず、元の情報源からのデータをダウンロードして使うこと」と明記する。

 ▽「どうすれば間違えないか」という項目が、特に役立ちそうだ。

(6月12日配信、原文は こちら

プロフィル
ジョシュア・ベントン( Joshua Benton
 ニーマン・ラボ代表。米南部ルイジアナ州出身。南部テキサス州の日刊紙「ダラス・モーニング・ニューズ」などで10年間、記者を務めた後、ハーバード大でジャーナリズムを研究。2008年に「ニーマン・ラボ」を設立した。

無断転載禁止
656299 0 ハーバード ジャーナリズム報告 2019/06/23 12:00:00 2019/06/25 13:19:59 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/06/20190620-OYT8I50046-T.jpg?type=thumbnail

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