米新聞業界に激震――大手2社の統合が促す再編の行方は

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 (注)米国第1と第2の新聞大手であるガネット、ゲートハウス・メディアの両社が8月5日、合併で合意したと発表した。後者が前者を約14億ドル(約1500億円)で買収し、これにより米国最大の新聞社が誕生する。以下の記事は発表を前提に4日、配信され、合併の狙いと業界に及ぼす影響について考察している。

前例のない規模

 ガネット、ゲートハウス・メディアの両社は、米国の日刊ジャーナリズムでは前例のない巨大企業を生み出すことになる合併をかねてより模索していた。新会社はガネットの名前と首都ワシントン近郊のバージニア州マクリーンにある本社社屋を引き継ぎ、全米で265の日刊紙と数千に及ぶ週刊発行物を所有し運営することになる。これは米国の日刊紙全体の6分の1を超す規模だ。

 発行部数は総計870万部となり、新たに業界第2位となるマクラッチーの170万部を圧倒する。デジタル読者でも2位以下を大きく引き離し、全国規模の広告販売促進にもつながるとみられる。

 宿願の統合を果たした新ガネットは、ニュース産業そのもののほかに何百という市町村や何百万人もの読者、さらにはジャーナリズムという仕事の未来像にも多大な影響を及ぼそう。

 一方、合併によりいくつもの疑問が生まれる。その最たるものは、次はどの会社かというものだ。新聞業界で整理統合が進む中、マクラッチーとトリビューンやMNGエンタープライズの動きが関心を呼んでいる。

小が大を飲んだ合併

 ガネットとゲートハウス・メディアは、新会社により年間2億~3億ドルのコスト削減が見込まれるとする。よく言われるように、「デジタルへの移行」に向けて、より多くの時間が稼げることになる。

 ゲートハウス・メディアは今回、同社を傘下に置く投資ファンド「ニュー・メディア・インベストメント・グループ」を通じて買収する側になった。これには多くの人が驚いた。ガネットの方が発行部数も資金繰りも収入も時価総額も大きかったからだ。だが同グループは、業界有数の買収仕掛け人マイク・リード最高経営責任者(CEO)の下、合意に向けて活発に動き、資金を調達して主導権を握った。

 リード氏は今後、新会社の実権を握ることになる。昨年のニーマン・ラボとのインタビューで「新聞業界の再編は避けられない」と話した同氏は業界のリーダーに押し上げられた。

政府はすんなり合併を承認するか

 では、この新会社、すなわち巨大化したガネットはどのようなものになるのか。私の聞くところでは、詳細は監督機関の承認審査がすべて終わった時点で発表されるという。

 合意は米政府の承認が必要な案件で、独占禁止法(ハート・スコット・ロディノ法)に基づく審査が待ち構えている。司法省による審査で合意成立が阻まれることは考えにくいが、予期しない展開もあり得る。トロンク(現トリビューン)も数年前、司法省からオレンジカウンティー・レジスターとシカゴ・サンタイムズの2件の買収を妨害されている。この2件では、単一の市場における広告もしくは購読、あるいはその両方の面で独占的制限が生じるとされたことが焦点となった(具体的には、<1>ロサンゼルス・タイムズとオレンジカウンティー・レジスター <2>シカゴ・トリビューンとシカゴ・サンタイムズの統合――を巡るものだった)。

 しかし、ゲートハウス・メディアとガネットの場合、発行する新聞の数が多いだけに、どこか一つの市場で競合しているとは見なされないだろう。より大きな問題は、司法省が合意のもたらす事実上の地域市場統合をどう見るかだ。フロリダ州南部やオハイオ州を例にとっても、ガネットとゲートハウス系の新聞の統合がもたらす意味は大きい。一方で、全国の多くの場所でのこうした統合はコスト削減の相乗効果をもたらし、それこそがこの合意の財政面での目的なのだ。

 司法省がそのような地域的統合に反対するのか。新聞広告主が不当な値段を付けられる可能性がありと判断したり、購読料の上昇は、それでも購読をやめない人に対して不公平だと主張したりするのか。そもそも合併をもってしても、体力の落ちている新聞に、「不公平」と称されるほど市場を席巻する力があるのか。

 仮に、司法省が審査開始から30日以内に懸念を示せば、新ガネットは問題となる地域の新聞をいくつか売却するだろう。リード氏がすでに、司法省の顔を立て、かつ合意成立に必要な負債削減を進めるような売却を検討している可能性もある。その場合、他の新聞社が、自らの統合促進につながるような買収に関心を示す可能性もある。

関心を集める「次の合併」

 今回の合意発表は他社を合併交渉に駆り立てるのか。

 業界ウォッチャーは、トリビューンがより大きな圧力を感じるようになるだろうとみる。ゲートハウス・メディアとガネットの合意により、トリビューンは潜在的な合併相手を失ったからだ。トリビューンは旧トロンク時代も含め、ガネットとの提携を巡って長く、時に苦々しい闘争を続けてきた。今後、トリビューンはカリフォルニアの州都サクラメントに再び目を向け、この地に本社を置くマクラッチーが繰り返す合併話に向き合わざるを得ないと考えられる。

 マクラッチーは合意のためには、昨年12月にトリビューンに提示した取引額を少々値引きもするだろう。引き続き障害となるのは元トリビューン会長マイケル・フェロ氏の存在だ。12月の合意を阻んだ同氏は依然、トリビューン株の4分の1を支配する。トリビューンとマクラッチーが統合を必要とするのは、ガネットとゲートハウス・メディアと同じ理由――コスト削減と時間稼ぎ――にある。

 そこで登場するのがニューヨークのヘッジファンド、オールデン・グローバル・キャピタルだ。同社は今年1月、ガネットに敵対的買収を仕掛けて、利益を挙げようとし、失敗した経緯がある。

 オールデンが今後、傘下のMNGエンタープライズ系の新聞を使って、どう動くのか。特に20紙以上を有するカリフォルニア州で何をしようとするのか。新たなパートナーを探すのか、厳しい状態にある新聞業界から撤退するのか、が注目される。

コスト削減相乗効果の源泉とは?

 新ガネットで働く記者、読者の双方にとっては近い将来の見通しが立たない。財政面での現実が合意の原動力であり、その意味するところは解雇だ。合併する2社は2億~3億ドルの削減相乗効果を期待しているとされるが、果たして実現可能な数字なのだろうか。

 事情通はこう説明する。「初年度は2億ドルから1億ドルを引く。退職金と上乗せで1億ドルが必要となるからだ。だが、その後は年間正味2億ドルの削減ができる」

 新聞収入が安定しているならそうかもしれないが、現実は逆だ。収入は2020年に5%以上の割合で落ち、以降も減少が予想されている。では相乗効果はどこから生まれるのだろう。順を追って検討すると、
・2大企業が一つになることで資金繰りから人材、技術その他多くを統合して行うことができ、数千万ドル規模の経費削減が可能になる。
・印刷、製造、販売の施設が合理化できる
・広告とデジタルサービスを統合できる
・販売網の整理が進む
・編集部門でも統合が進む。地域的な新聞統合が進めば編集管理部門も統合され、両社は共通の紙面デザインと編集方針を追求できる

 この相乗効果こそ両社の合意の核心にある。

 仮に合併がうまくいけば、新会社はさらなる業界再編を主導することになろう。この合併は、レースの終わりに振られるチェッカーフラッグではない。むしろスタートの号砲なのだ。

(8月4日配信、原文は こちら

プロフィル
ケン・ドクター( Ken Doctor
 米ジャーナリスト。報道機関のアナリストとしても知られ、「ニュースの経済学」などデータを駆使した歯切れのいいメディア評論には定評がある。「ニーマン・ラボ」には定期的に特別コラムを寄稿している。

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759610 0 ハーバード ジャーナリズム報告 2019/08/24 10:00:00 2019/08/24 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190823-OYT8I50012-T.jpg?type=thumbnail

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