米紙デジタル市場はニューヨーク・タイムズの独走か

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ニーマン・ラボ所長 ジョシュア・ベントン

衰えないタイムズの伸び

2007年12月、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の編集局を訪れたニューズ・コーポレーション会長のルパート・マードック氏=AP。WSJはこの年、発行元のダウ・ジョーンズが買収されたことに伴ってニューズ社の傘下に入った
2007年12月、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の編集局を訪れたニューズ・コーポレーション会長のルパート・マードック氏=AP。WSJはこの年、発行元のダウ・ジョーンズが買収されたことに伴ってニューズ社の傘下に入った

 2月6日、ニューヨーク・タイムズ(以下タイムズ)は次のような景気のいい数字を発表した。紙とデジタル版の合計契約数は525万1000件、そのうちデジタル版の契約総数(料理とクロスワードパズルを含む)は439万5000件、そしてデジタル版ニュースの契約は342万9000件――。

 最も印象的なのは、デジタル版ニュース契約の潜在的顧客ベースが頭打ちになったことを示す証拠がほとんど見られなかったことだ。2019年末の342万9000件という数字は、前年同時期の271万3000件から実に26%の伸びだ。

 翌7日はニューズ・コーポレーションの番だった。傘下のウォールストリート・ジャーナル(以下ジャーナル)のデジタル契約数が初めて200万件を突破したことを発表した。ロバート・トムソン最高経営責任者(CEO)はタイムズとの競争にやる気満々と見え、決算報告の最初の6段落で5回もライバル社に言及していた。

 ここで指摘したいのは、タイムズの方が依然、デジタル契約の伸び率でジャーナルを上回っていることだ。ニューズ・コーポレーションによると19年の1年間でジャーナルのデジタル契約数は22万件増えて伸び率は12.8%だった。タイムズは71万6000件増で伸び率は26.4%だった。

ポストは数字を明かさない

 ジャーナルがタイムズに戦いを挑むという構図の中、タイムズとのこの種の競争で、いつも2番手に名前の挙がる全国紙が無視されているという点に注目せざるを得ない。ワシントン・ポスト(以下ポスト)のことだ。ジャーナルとタイムズはニューヨークという同じ都市で争うが、ポストとタイムズには、経済専門でない一般紙同士という共通点がある。両紙は首都ワシントンの政治報道に日々しのぎを削る。一方、ジャーナルはその専門性から独自色が見られることがしばしばだ。

 では、ポストのデジタル契約獲得はどうなっているのか。

 何とも言えない。判断するのが難しい理由はたった一つ。同社と米インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムの間の独特な関係である。

 ポストは契約件数を出し渋る。アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏がポストのオーナーであるため、株式が公開されておらず、四半期ごとにすばらしい数字を公表し、ウォール街の関係者たちをうならせてやる義務も負わない。発行部数監査機関AAM(旧ABC)にもデジタル契約者数を報告していない。アマゾンの電子書籍キンドルと同じで、自社にとって都合の良い時にしか発表しないのだ。

 17年9月には社内連絡メモ(社外にリークされることが期待されていたのは疑いないものだが)で、ポストのデジタル契約件数は同年に100万を超え、前年から「3倍以上」の伸びだったと記されていた。

 その時点では、ジャーナルの直近の契約数は127万、タイムズは230万だった。

 18年12月には別の社内向けメモでポストのデジタル契約が150万件を超えたとされた。この時はジャーナルが約170万件、タイムズは約270万件だった。

 では今はどうなのだろう。ポストの広報に最新の数字がないか照会し続けているものの、自分たちが出したい時にしか数字は出さないようである。

大衆向けのデジタル戦略

アマゾン・ドット・コムCEOのジェフ・ベゾス氏(2018年9月、AP)。2013年にワシントン・ポストの経営権を買い取った
アマゾン・ドット・コムCEOのジェフ・ベゾス氏(2018年9月、AP)。2013年にワシントン・ポストの経営権を買い取った

 ポストのデジタル戦略は元来、どちらかというとエリート層向けのタイムズや、企業を対象に高めの購読料を設定するジャーナルと比べると、一般大衆指向であった。ジャーナルのデジタル購読料は現在月額39ドルで、タイムズは月18ドル強。ポストは月額11ドルで、年間契約ならいつでも100ドルに割り引きされる。

 ワシントン・ポストを貫く遺伝子は「地元紙である」ということで、その傾向は目標をより広めに構えていた他の全国紙よりずっと強いものがある。紙の新聞が全盛の時代、ポストは全米の大都市のどの新聞よりも地元のワシントンに浸透していた。1980~90年代にはタイムズに追随することなく、全国規模での印刷や配達も行わなかった。

 ポストはオンライン版の編集方針でも、より中程度の教養の人々を意識している。高度の調査報道や海外ニュースと並び、ブログ風記事や軽めの話題を進んで扱っている。

 これらを勘案すれば、デジタル契約の獲得もうまくいっているだろうと思えるが、ポストが数字を出さないために、結論が出せない。100万件と150万件という数字が表に出たのだから、次は200万を超えた時だろうと思うが、まだ動きはない。

 17年9月時点でポストのデジタル契約件数はタイムズより130万、ジャーナルより27万件下回っていた。18年12月ではタイムズとの差は120万、ジャーナルとも20万件の開きがあった。

 その後、ポストから発表がない間、前述のようにタイムズは70万件以上積み上げ、ジャーナルも30万件を増やしている。

タイムズの壁

デジタル市場で好調が続くニューヨーク・タイムズ(AP)
デジタル市場で好調が続くニューヨーク・タイムズ(AP)

 数年前に、2020年初頭の予測を聞かれていたら、ポストがデジタル契約数で相当にタイムズを追い上げ、最も楽観的なシナリオ通りに進めば追い越していることもある、と答えていただろう。低めの価格設定と親しみやすいコンテンツ、さらには人類史上有数の成功した製品や企業との独自の関係があれば、別に「ベゾス流マジック」をあてにしなくても、ポストがタイムズの強力な競争相手になり得ると思った。

 ポストが有利な条件を生かし、良い数字を出すことを引き続き期待するが、少なくとも同社が最も楽観的なシナリオをたどっているとは言えないようである。

 15年には、ポストがオンラインのユーザー数でタイムズを上回ったと吹聴した。だが、タイムズはすぐ抜き返し、以後もほとんど優位を保っている。

 英ガーディアン紙が最近論じたように、タイムズの成功は無論、歓迎され称賛されるべきだが、情報市場の健全性を示すものとは必ずしも言えない。

 メディア業界でまだ明らかになっていないのは、2番手であることが経営的に魅力あるものかどうか、ということがある。米国で地元紙が発達していく中で、2番手であることはほとんどの都市で悲惨なことだった。1番手の新聞は規模の経済によって広告も読者も雪だるま式に大きくなり、だからこそ比較的早いうちに多くの都市で地元紙は一紙に絞り込まれた。

 ここに衝撃的な数字がある。今日の米国で、新聞記者の実に10人のうち1人はニューヨーク・タイムズの記者だ。その数は1700人以上で、10年前に1200人ほどに低迷していたのと比べるとはるかに増えている。全米の新聞編集部門で働く記者の合計は2万人を下回ると見られている。

 デジタル版ニュース契約で2番手にいることは厳しい。ただ、(経済ニュースという)特化した分野を持つジャーナルには、差別化された製品というカギがあり、この競争からうまく抜け出すかもしれない。

 「勝者総取り」の意味するところは、数えるほどの全国紙だけが繁栄し、1000以上ある地元紙がひどく苦しむという状態なのか。あるいは文字通り一般紙の部門ではただ、一つの勝者としてニューヨーク・タイムズだけが残るという意味なのか。

 私にはわからない。私が望むのは、ポストが明日にでもすばらしいデジタル契約数を発表して私の気を楽にしてくれることだ。だが、タイムズは地元の競争相手だけでなく、(ニューヨークやワシントンを含む米東海岸主要都市を結ぶ特急列車の)アセラ・エクスプレス沿線上の相手を突き放し、独走状態に入ったように見える。

(2月10日配信、原文は こちら

プロフィル
ジョシュア・ベントン( Joshua Benton
 ニーマン・ラボ代表。米南部ルイジアナ州出身。南部テキサス州の日刊紙「ダラス・モーニング・ニューズ」などで10年間、記者を務めた後、ハーバード大でジャーナリズムを研究。2008年に「ニーマン・ラボ」を設立した。

無断転載禁止
1065131 0 ハーバード ジャーナリズム報告 2020/02/25 10:00:00 2020/02/25 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200220-OYT8I50008-T.jpg?type=thumbnail

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