新型コロナ感染拡大と米地方紙の苦境

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ケン・ドクター(米ジャーナリスト)

読者の熱い期待

米南部ケンタッキー州で、新型コロナウイルスの感染拡大を伝える地元紙を手に記者会見する当局者(3月9日、AP)
米南部ケンタッキー州で、新型コロナウイルスの感染拡大を伝える地元紙を手に記者会見する当局者(3月9日、AP)

 なぞなぞをひとつ。黒と白を使っていて、「不可欠」なものはなーんだ?

 答えはもちろん新聞である。新聞は、他のメディアと共に、全米の都市や州が経済のどの部分を閉鎖させまいか決めようとしている今、晴れて公共財として認知された。事実に基づく地方ニュースは、恐怖と誤った情報が横行するこの時代、まさに欠くべからざるものだ。

 「『あなた方の仕事に対する敬意と称賛はかつてなく高い』といった、すばらしい手紙をもらう」と話すのはスター・トリビューン紙発行人のマイク・クリンゲンスミス氏だ。中西部ミネアポリスの日刊紙である同紙は読者数も急上昇している。

 コロラド・サン紙のラリー・ライクマン編集長は「コロナ危機に関する御紙の報道は最高だ。触発された私は、遅ればせながら年間購読という形で『寄付』をすることにしました」という手紙をある新規購読者からもらった。

 新型コロナウイルスのような大ニュースは、ジャーナリストに、自分たちをこの仕事に駆り立てた使命感が何であったかをしばしば思い起こさせる。ともすれば打ちのめされそうな発行人や編集スタッフを鼓舞してくれるのは(読者の前向きな)評価であり、視聴者や購読者、デジタル会員の急速な拡大である。

 ある革新的な地方紙幹部に聞かされた、こんなほろ苦い言葉もある。「これは、私たちにどれほどの価値があるか証明する最後のチャンスかもしれない」

 CNNやMSNBC、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルといったメディアが提供するのは全国規模の報道だ。言葉と図表、映像をもって、悲劇の規模や連邦政府の危機対応における数々の欠陥が提示される。ただ、国民が求めている、差し迫った地元の問題には答えられない。

 私の近辺で何人が発症したのか。私の病院の設備は大丈夫か。どこに行くことができ、できないのか。市長や知事は何をしているのか。誰が何を届けてくれるのか。どこで検査を受けられるのか。

 米国民の半数がいつ終わるかわからない自宅待機を強いられる中、我々はほかにも何百もの、時には生死に関わる判断を強いられている。

記者たちの奮闘と不安

 全米2万人強の記者の多くは、この事態に立ち向かい、電話取材や遠隔提稿をも駆使する。記事にするため、時には危険を冒して見なければいけないものを見て、触れなければならない人に触れ、見えない脅威に立ち向かっている。だが、その間も常に消えない思いがある。いったい自分はいつまでこの仕事を続けられるのだろうか。

 これは大いなる皮肉だ。国民が記者たちの成果物に触れる時間も、そのためにお金を払ってもいいという思いの丈も、2016年の大統領選か、それ以前にさかのぼってもないほど高い。それなのに、記者を支える経営の基盤はぐらついており、近い将来のことも分からない状態なのだ。

 一体何人の記者が、コロナウイルスによるパニックがいったん収まった後で職にとどまれるのか。事実に基づくニュース、特に地方のニュースが、この封鎖が解かれた後、どれだけの米国民の手に届くのだろうか。

 答えの大部分は、すでに引用した人たちが握る。それは読者であり、彼らがニュースを支える気持ちにかかっているのだ。

 広告は2008年のリーマン・ショック以来、徐々に減る一方だったが、3月後半の2週間で一気に半減した。今後、急速に戻ってくることは考えにくい。そもそも、戻ってくるのか自体が怪しい。

広告危機の深淵

 ここ何年も同じ問題が続いている。購読収入の伸びが、広告の減収に追いつかないのだ。読者の支持は伸びているのに、より大幅な広告収入の消滅にかき消されている。新聞経営者は状況分析に思い悩んでおり、彼らの感じる痛みはコロナウイルスの感染拡大とともに悪化する一方だ。

 日刊紙業界はこの10年間以上、人工呼吸器につながれたも同然だ。広告という酸素がリーマン・ショックで2008年には17%、翌09年にはさらに27%も吸い取られてしまい、以後も苦戦続きだ。米新聞業界全体で見ても、06年と比べると広告収入の70%が失われた。

 業界は、年間収益計約10億ドルという状況で、コロナという岐路に立った。これは最盛期に比べれば微々たるものとはいえ、まだ相当の額だ。

 しかし、巨額の広告減収が今後何か月も続けば、収益は消滅に至る。すると我々の損失は新たな段階へと進む。ニュース砂漠が常態となり、残されたオアシスはわずかばかりとなるのだ。

 状況はどれほど悪いのだろう。広告事業全般が、広告もスポンサー提供もアンダーライティング(公共放送の番組制作支援)も含めて不況に陥っている。

 業界でしかるべき地位にいる幹部十数人に話を聞いたが、日刊紙業界は4月中に広告収入の30~50%を失うという見方が全員に共通していた。状況の改善は、大規模な隔離が終わるまで考えにくく、それがいつになるかはわからない。経験豊富なある広告会社幹部はこう言った。「何が来るのかは見えている。大きな、大きな損失だ」――。

 皮肉なことに、3月の出足が意外なほど好調な新聞もあった。堅調、あるいは若干ながら伸びが見られる社もちらほらあった。

 そこにウイルスが来た。4月はおそらく、受注が減り、キャンセルは増える状態でのスタートになるだろう。第2四半期がどうなるかが大問題だが、新聞発行人は50%のマイナスになった程度ではまだ最悪のシナリオとは言えないこともわかっている。小売業は店を閉めたままだし、自動車ディーラーも車を売っていない。雇用はわずかで、家やアパートを新しく購入しようと物色する人もいない。

 予兆はある。多くの新聞発行人にとって、日曜版と別冊とじ込みは依然、もうけの出るものだ。しかし、(広告)料金を出していた巨大小売店の多くが、業界の雄であるメーシーズも含めて閉店に追い込まれているのだ。

 まだ大丈夫なところはあるのか。

 行政の動きを伝える法定広告や死亡広告。それが合法な州であればマリフアナの調剤店(これには宅配もある)の広告。しかし、大半は先行き不透明だ。「何か売りたい物がある人でも(広告を)出すべきか迷っている」と、ある幹部は話す。

 地方紙の大半は、この危機が始まるまでは購読料より広告収入に依存しており、購読収入に基盤を置くビジネスモデルを作り上げたニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン・ポストなどをうらやんでいた。

 皮肉にも、コロナウイルスによって多くの地方メディアはこの「エリートクラブ」の仲間入りを果たしそうだ。ただし広告の減収によってであり、購読収入の上昇のためではない。

「3月の大虐殺」

 デジタルニュースの需要は記録的でも、デジタル広告が呼び込む収入は、決して人が思うほどではない。理由は明快だ。多くの広告主は自分の製品がコロナウイルス関連のニュースの隣に置かれるのを嫌う。そうしたニュースこそ今、アクセスが多いことは関係ない。さらに、ほとんどの事業が一時休業し、広告の需要は下がっている。

 デジタル広告も料金設定の変更を迫られ、約30%値下げしていると明かす発行人もいる。中には、社会活動の停滞に伴い、50%近く下げたと言う人もいた。

 いずれにせよ、新聞やテレビ、公共ラジオといった伝統的メディアはデジタルより核となる旧来の収入源に依存している。従ってデジタル収入が多少増えても他の部門の減収を補うには至らないのだ。

 もし我々が、単に古い看板が続いていることをもってメディアの「生命」、あるいはまだ絶滅に至っていない状態が保たれている、と定義するなら、地方コミュニティーが日々被っている損失を覆い隠すことになる。それこそ、今起きている破局的事態が及ぼす長期的影響を列挙する際、上の方に置かれるべきリスクだ。

 報道収入の「3月の大虐殺」はもちろん序章にすぎない。しかし、それが何の前ぶれなのかが見えない。2020年のカレンダーほど先が長く感じられるものはかつてなかっただろう。

 新聞発行人の中で最も成功し、楽観的かつ進歩的なある人がこう言った、
「(混乱が)2、3か月なら乗り切れる。しかし、6か月に及んだら、もう話にならない」。

(3月30日配信、全文は こちら

プロフィル
Ken Doctor( ケン・ドクター
 米ジャーナリスト。報道機関のアナリストとしても知られ、「ニュースの経済学」などデータを駆使した歯切れのいいメディア評論には定評がある。「ニーマン・ラボ」には定期的に特別コラムを寄稿している。

無断転載禁止
1157113 0 ハーバード ジャーナリズム報告 2020/04/10 10:00:00 2020/04/10 10:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200406-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

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