読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

米NBCの五輪中継視聴率は「惨敗」だったのか?

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

マイケル・ソコロウ(米メーン大准教授)

 米NBCの東京発五輪番組は、歴史的成功を収めた。

 おそらく読者は、まるで反対のことを聞いているのだろう。多くの報道は、伝統的な五輪テレビ中継の視聴率が下がったことに焦点が当たっている。ツイッターでは、ワシントン・ポスト紙のメディア担当記者ポール・ファルヒ氏のように、視聴者数の急減はNBCにとって「破滅的」結果であると言った人までいる。

 視聴率は、依然重要である。だが視聴率を狭くとらえるのでは、20世紀の測定法を誤って21世紀のイベントに当てはめることになる。東京大会をテレビの伝統的なものさしで語っている評者は、メディア消費の変化についてNBCがどう見通しを立てているのかを見逃しているのだ。

高利益を確信

東京五輪の開会式で聖火台に火がともり、花火に彩られた国立競技場(7月23日)
東京五輪の開会式で聖火台に火がともり、花火に彩られた国立競技場(7月23日)

 ほぼ1700万人という視聴者を毎晩、2週間にわたって引きつけるテレビ番組は他にないし、東京大会も正にそうであった。NBCは、放送の視聴率が期待を下回った埋め合わせとしてスポンサーのCMを再放送する羽目になっているが、同局の関係者は今回の五輪放送が利益を生むことを確信している。驚くことではないだろう。NBCは今大会で、2016年のリオデジャネイロ大会を上回る「プレミアム広告」の契約を交わし、広告料の前払いは聖火が点灯する前に新記録となる12億5000万ドルに達していたのだから。

 テレビ放送は、NBCの供給ミックス全体の一部分でしかない。東京大会は、大量の映像コンテンツをただ一つのチャンネルから引きはがして提供したのだ。米国人は携帯電話の画面やパソコン上で、あるいはNBCを所有するコムキャストのようなケーブルテレビで、ストリーミング再生アプリで、そして伝統的なテレビでも見ていたのだ。視聴者たちが映像をソーシャルメディアでシェアしたことで、無料の宣伝ができた上に「いいね」も押された。データはまだそろっていないが、NBCの動画ストリーミング配信サービス「ピーコック」から直接購入されたサブスクリプションは相当の件数に上ったとみられる。こうしたプラットフォームによるストリーミングデータ量は2016年に比べて24%の伸びを見せ、一時は過去最高の視聴者数も記録していた。

五輪と映像技術革新

五輪マークに写った選手の影(8月6日、札幌市の競歩会場で)
五輪マークに写った選手の影(8月6日、札幌市の競歩会場で)

 少数の例外を除けば、五輪は古くから米国の放送業者に利益をもたらすものであったし、視聴者にメディアの未来を垣間見る機会を与えるものであった。やがてはありふれたものになっていくメディア関連の技術革新はしばしば、五輪で最初に紹介されたものだった。

 1936年以来この方、五輪は映像配信の未来像を示してきた。同年開催のベルリン大会では、世界で最初の、定時テレビ放送が提供された。ベルリン市内各地の劇場に投影された映像は、照明や技術的問題で概して満足いくものではなかったが、それでも観客は何マイルか離れた場所で起きていることを同時に見られるということに驚がくした。

 おそらく最も革新的な五輪中継は、1968年に米ABCが数々の新技術をメキシコ大会で導入したときだった。カラーテレビ用のカメラは、それまでは大きくて操作も面倒なためもっぱらスタジオで使われるものだった。だが、ABCの技術陣は大会で新型のずっと小さなカメラを使用したのだ。

 たぶんもっと重要なのは、映像の衛星中継が60年代初頭から続いていた実験段階を成功のうちに終え、メキシコ大会では大陸間の衛星生中継を2週間の期間中ずっと続けられると実証したことだった。あらゆる出来事をカラーで、地球上の各地から発信されるままに見る、という未来がやってきたのだ。

 1992年のバルセロナ大会では初めて、地球規模のテレビ番組で全競技がハイビジョンと通常の二つの信号で提供された。筆者はその年、野球の会場で仕事をしていて、日本のNHKのアナウンサーたちが特殊なハイビジョン用機材を設置する様子を覚えている。NHKはバルセロナ大会でハイビジョンを全面的に活用した唯一の放送局だった。その鮮明な画像に、目がくらむ思いがしたものだ。

動画配信サービス「ピーコック」のロゴの背後にそびえるニューヨークのNBC本社ビル(2020年1月、ロイター)
動画配信サービス「ピーコック」のロゴの背後にそびえるニューヨークのNBC本社ビル(2020年1月、ロイター)

 NBCも、バルセロナ大会で初めて、視聴者に放送サービスを直接販売することを試みた。「オリンピック・トリプルキャスト」という商品名で、三つのチャンネルで24時間放送が見られる。1日あたり29.95ドルか2週間で125ドルという視聴料だった。オリンピック・トリプルキャストは多くの人が失敗だったと考えている。米国の視聴者は何十年と五輪をタダで見るよう習慣づけられていたから、金を払うことにはためらいがあったのだ。

 サブスクリプションのストリーミングサービスの時代になると、トリプルキャストは時期尚早だったかもしれないがそれほどひどい失敗でもなかったことがわかる。広告に支えられたメディアの崩壊とストリーミングサービスの台頭で、視聴者はコンテンツに金を払うことに慣らされ、メディア市場はNBCが1992年に思い描いていた段階に追いついたのだ。

少ない視聴者でより多くの利益

 伝統的な商業放送は単純で、視聴率が高ければ通常は広告主の需要も増え、より高額のコマーシャル料が支払われることになって増益となる。だがこうした基本的なモデルにも少々間違いがあった。研究者たちが示してきた通り、広告会社とテレビネットワークは視聴者を常に人口統計的にとらえていたのだ。すべての視聴者が平等ではない。視聴者の規模が小さい番組が高い値で売れることがあるのは、消費財をより効果的に売りさばけるからだ。だが通常は、視聴者が多ければ価値も上がる。

視聴者は映像を様々なメディアで見ることができるようになった
視聴者は映像を様々なメディアで見ることができるようになった

 最初にケーブルテレビ、次にインターネット、そして今ソーシャルメディアという代替物が登場してきたことで、旧モデルも変容を見せた。視聴率はどこでも下がっている。視聴の新しい選択肢が加わったことで、アカデミー賞のような大イベントの際も大量の視聴者が一つのメディアに集中することは起こりにくくなった。

 そこで皮肉な現象が持ち上がった。限られたえりすぐりの映像スペクタクルであれば、衰退とは無縁で、視聴者を失ってもより大きなもうけを生むことが出来るのだ。五輪は最も顕著な成功例で、NBCの視聴率は2012年と2016年大会で15%も下がったが、16年のリオデジャネイロ大会はNBCにとって同局の五輪放送史上最高の2億5000万ドルもの利益をもたらした。

 少ない数の視聴者がどうして、多くの広告収入を生んだか。答えは、希少性という概念とメディアの発展にある。選択肢があまりにも増えると、多くの視聴者を引きつけられる番組は、もし視聴者の規模が縮小してもより貴重なものになる。そのような番組自体が数少ないからだ。

 こうして、NBCは五輪を効果的に売り続けることが出来るのだ。同局は、主たる顧客が広告会社であって一般視聴者ではないと分かっている。広告会社も、五輪という機会の希少性を理解している。

 NBCが利益を生み出しているもう一つの方法は、五輪番組を直接視聴者に販売することだ。五輪は今やテレビ番組というよりビデオコンテンツだ。成功だったかどうかをNBCが判断するのは、ピーコックの有料サブスクリプションの件数が明らかになり、五輪以外のNBCの番組にも4年ごとの恩恵が行き渡ったことを確認する時である。五輪は昔から、朝の「トゥデー」に始まって夜の「NBCナイトリーニュース」まで、同局のあらゆる番組に好影響をもたらしてきた。NBCは、多くの批評家が考えもしない方法で五輪から利益を生んでいるのだ。

 もしピーコックのサブスクリプションが好調なら、東京五輪は米市民がスポーツ中継を見るのは有料であることを最初に認識する機会になったとして我々の記憶に残ることだろう。
 (8月11日配信、原文は こちら
 当記事は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとでThe Conversation( https://theconversation.com/ )からニーマン・ラボのサイトに転載された記事の翻訳です。

 >> ハーバード大「ニーマン・ラボ」とは

無断転載・複製を禁じます
スクラップは会員限定です

使い方
2351586 0 ハーバード ジャーナリズム報告 2021/09/09 11:00:00 2021/09/09 11:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/09/20210908-OYT8I50007-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)