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[解説スペシャル]トランプ氏「特別な国」目指さず…理想を語る盟主不在

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企画委員・大塚隆一

国際秩序 崩れる恐れ

 米国の次期大統領に決まったドナルド・トランプ氏。選挙戦では過激な言動が目立ったが、最も気がかりなのは、米国は自由世界のリーダーたるべき「特別な国」だ、という考え方に否定的な点だ。米国の建国以来の伝統に背くこうした姿勢が外交の基本になれば、世界や日本に深刻な波紋を広げかねない。

建国の理念

 米国は「特別な国」である――という考え方は党派を超えて共有されてきた。

 英語ではエクセプショナル・ネーション(exceptional nation)という。アメリカン・エクセプショナリズム(American Exceptionalism)という言葉もある。

 直訳すれば、それぞれ「例外的な国」「米国例外主義」となるが、ここでは「特別な国」と訳して話を進めたい。

 その定義は様々だ。共和党の政策綱領はこう説明する。

 「米国はその思想と原則により世界の道徳上の指導者という比類なき立場を与えられた、という考え方」

 ここで言う思想や原則とは米国の独立宣言(1776年)が掲げた自由、平等、民主、人権などの理念である。

 「特別な国」という考え方の源流はもっと遡れる。

 独立の約150年前、英国から渡ってきたピューリタン(清教徒)の指導者が聖書を引用し「我々は丘の上の町になるべきだ。すべての人の目が我々に注がれている」と演説した。人々が仰ぎ見るような理想の国を創ろうという信念だった。

 こうした信念は曲折はあれ、受け継がれてきた。戦後もケネディ、レーガン大統領などが演説で「丘の上の町」の故事を引用した。

異端者

 下記(「米国例外主義」をめぐる発言や文書)の通り、近年は共和党も民主党も「特別な国」への言及が目立つ。今回の大統領選では民主党のクリントン候補が「特別な国」としての使命を訴えた。

 しかし、トランプ氏だけは関心がなさそうだった。

 自身が属する党の綱領を無視し、「特別な国」という言葉は「好きではない」と繰り返してきた。「ドイツ人も日本人も中国人もそんな言葉は聞きたくないはずだ」と述べたこともある。

 トランプ氏は2大政党が描く米国の理想像に背を向ける異端者だったと言える。

 そこからは単に「内向き」や「孤立主義」の傾向が読み取れるだけではない。もっと本質的な問題がある。

 「特別な国」という表現には道徳的、宗教的な色合いが感じられるが、トランプ氏はこれに限らず、自由や平等など米国の思想や価値観を積極的に取り上げることはなかった。倫理や道徳は語らず、物事の善悪や正邪に触れることもほとんどなかった。

 「米国第一」という標語が示すように、またビジネスマンらしく、有権者に一貫して訴えてきたのは、雇用増大など徹底して実利を求める現実主義者の顔だ。

 保守派コラムニストのペギー・ヌーナン氏は「単純な愛国主義が思想を打ち負かす」と指摘している。

 トランプ氏には「米国を再び偉大に」というスローガンもあったが、選挙戦で米国の思想や理念の「偉大さ」はほとんど語っていない。トランプ氏が繰り返し強調したのは経済や軍事の力だった。その意味で同氏のめざす「偉大さ」は中国の習近平(シージンピン)国家主席やロシアのプーチン大統領がめざす「偉大さ」に通じる。

「普遍的な価値」

 もちろんトランプ氏の様々な発言は選挙を意識したものだ。勝利宣言後、過激な発言が影を潜めたように、変わっていくのだろう。ただ、これまでの言動から見る限り、やはり拭いがたい不安がある。

 例えば、中国が国際法を無視した行動に出たり、深刻な人権侵害を行ったりしたとする。その場合、トランプ政権はルールや規範を守る立場からどこまで圧力をかけてくれるのか。米国が黙認したりすれば、力の論理だけが幅をきかす世界に戻ってしまう。

 「特別な国」と自任する米国には、価値観を押しつける傲慢さを批判する声もある。だが、超大国の米国が理想も善悪も正邪も語らなくなれば、もっとひどい世界になる。戦後の国際秩序は崩れ去る恐れがある。米国には何としても「善き特別の国」であり続けてもらう必要がある。

 安倍首相はトランプ氏の勝利が決まった直後、日米同盟は「普遍的な価値」で結ばれていると語った。

 これまでのトランプ氏の辞書には見あたらない「普遍的な価値」。その重要性をまずわかってもらうことが、日本を含む同盟国や友好国にとっては、最も大切で最も難しい課題になる。

 ◆「米国例外主義」をめぐる発言や文書

 ▽トランプ氏
 (オバマ大統領が「米国は特別」とした演説に、ロシアのプーチン大統領が反発したことについて)「どんな国も『米国は特別な国』などという話は聞きたくない。侮辱されたことになるからだ」(2013年9月、テレビ番組で)

 「私は『米国例外主義』という言葉が好きではない。そんな言葉は必要もない」(15年4月、保守系団体の集会で)

 ▽米共和党の政策綱領
 「私たちは米国例外主義の正しさを信じている。米国は地球上のどの国とも違うと信じている」(16年7月に採択。その序文の冒頭で)

 ▽ロムニー氏(前回大統領選の共和党候補)
 「米国は世界で唯一無比の運命と役割を持つ特別な国だ……人間の尊厳と自由の偉大な擁護者の役割だ」(11年10月、外交に関する演説で)

 ▽オバマ大統領
 「米国は世界の警察官ではない。だが、子供たちが毒ガスで殺されるのを止められるのなら、行動を起こすべきだ。その決意が米国を特別な国にしている」(13年9月、シリア危機をめぐる演説で)

 ▽クリントン氏
 「米国は特別な国だ。それは私たちの価値観の力ゆえでもある」「力には責任が伴う。謙虚かつ慎重に世界のリーダーとして行動する責任だ」(16年8月、退役軍人組織の集会で)

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1517480 0 アメリカ大統領選挙2020 1990/01/01 05:00:00 1990/01/01 05:00:00

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