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    株式会社ツナグ

    分断する日本人と価値観~佐藤尚之氏(前編)

    全員が同じ新聞を読む時代は終わった

    • 「全国民が共有できる世論なんて幻想だ」
      「全国民が共有できる世論なんて幻想だ」

     ――紙幅は有限なので、すべてのニュースを載せることはできません。

     全部一律の新聞にするからではないですか? 読売新聞はすべての世代に読まれることが前提になっていますが、そこがおかしいのかもしれない。

     ――KODOMO新聞と中高生新聞はありますが、基本的に高校を卒業したら読売新聞を読んでほしいと思っています。そういう意味では、大学生から100歳以上のお年寄りまでが、同じ新聞を読んでいることになる。

     その時代は終わった、ということではないでしょうか。たとえば、ショーン・ホワイトのことをくわしく書いてくれない媒体は、彼らにとっては意味がないんです。そうすると、ネットの中を探すしかない。どうせ新聞には載っていないから、メディアとして若者が認めなくなる。悪循環ですよね。

     今や全国民が共有できる世論なんて幻想です。国民は多様な価値観に分断されていますし、僕も娘とすら価値観が合いません。僕が知ったことを何とか伝えようとしても、聞きもしないし、興味も持たない。それが当たり前になってきている。

     ――その一方で、佐藤さんが知らなくて、娘さんが知っている情報が山ほどありますよね。佐藤さんは、娘さんの持っている情報に興味がありますか?

     もちろん。仕事柄、聞くようにしています。

     ――どちらの態度が正しいかといえば、お父さんの方ではないですか?

     ある種の教養主義的にはそうですね。でも、バランスの良い教養が尊ばれる時代は終わっているのかもしれません。例えば、ガザ地区のことについて僕から聞いて、彼女がすごく詳しくなったとしても、友人からウザがられるだけですよ。生きにくいですよ。もちろん、世界の情報を知っていてほしいと父親としては思いますが、彼女の日々の生活において、その情報の優先順位はぐっと下がる。それは頭の隅にあればいいことで、知っておくべきことが他に山ほどある、ということでしょう。脳ミソも時間も有限なので。

    「価値観が近い」ことの大切さ

    • 価値観が合う合わないの差は大きい(イメージ)
      価値観が合う合わないの差は大きい(イメージ)

     ――彼女が生きていくためにどうしても必要な情報は、新聞から得られないということですか?

     彼女が生きている世界と新聞がズレている限り、そうだと思います。SNSで友人から得るしかない。友人というか、「価値観の近い人」と言った方が良いかもしれません。情報も商品も多すぎると、価値観の近い人が愛用しているものや、はまっていることが参考になる。自分にとってもはまる確率が高い。新聞が読者にざっくりお薦めしている商品より、そっちの方がハマるという感覚が若者にはある。新聞社の映画記者が薦める映画よりも、友人が薦める映画のほうが当てになる。そういう、「価値観が近い」というコンテクストが重要視されてきたと思います。

     ――たとえ親子でも、価値観を共有することができなくなっているということですか?

     価値観が近い、仲の良い親子もいるでしょう。母親と娘とかにありそうですが、父親はたいてい孤独ですよね。価値観の共有は昔よりずっと難しい。価値が共有できれば、若者も年の差を超えて話を聞くと思いますよ。先日、ナイキの創業者の自伝(※)が出ましたが、その言葉は、僕の周りの若者に刺さっている。価値観が近ければ、70歳代の言葉も聞きますよ。年齢ではなく、価値観の近さだと思います。

    (※)ナイキの創造者の自伝=「SHOE DOG(シュードッグ)」。スポーツ用品大手「ナイキ」の創業者、フィル・ナイト氏の自伝。自身の半生と会社の歴史が語られている。

     ――今までは、自分と価値が近い人を世の中から探し出すことが難しくて、学校のクラスでも40人のうち、仲良くなれるのは数人。でもネットで、ハッシュタグをつければ、あっという間に価値が近い人が何百人、何千人と集まる。

     いや、どうですかね……。さっき言った通り、SNSを日常的に使っている人なんて1000万人くらい。ツイッターでも4500万人が月間アクティブユーザーで、2割のヘビーユーザーが、利用総時間の8割を占有している。つまり、900万人のヘビーユーザーによって成り立っている。ですから、ネットによって価値の近い人がつながるといっても、一部のアーリーアダプター同士の話ですよ。

     ――なるほど。都会や首都圏では価値観の近い人が見つかるかもしれないが、地方ではそんなに簡単にいかないと。

     イノベーター同士ではつながるでしょうが、東京でのネットの使われ方を前提に話を進めると、ミスリードになると思います。

    (以下、次号)
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    2018年05月16日 12時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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