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新井 裕

新井 裕 【略歴

インターナショナル・ウィーク第3回「ドイツ」

新井 裕/中央大学商学部教授
専門分野 独語・独文学・演劇学

 いよいよ待望の「ドイツ・ウィーク」がはじまる。これまではブンデスリーガやベンツ、グリム童話やビールでつとに知られていたドイツであるが、今回のドイツはやや様相がことなる。もっとちがった、もっとべつな魅力にあふれたドイツに接することができる「ウィーク」(6月16日から23日)が開催される予定である。その盛りだくさんのメニューをすべて紹介することはできないが、以下ではポイントを絞り、その中身にすこしだけ触れてみよう。

 まずは「脱原発」に見られるドイツの環境政策、エネルギー政策。そしてますます加速化する「グローバリゼーション」の中で果敢に自らの国際化に挑んだ中央大学のドイツ学、そしてこのうねりの中で新たな方向性を模索する「新生ドイツ」の姿である。

                                                   

「脱原発」でトップを走る国

 2011年の3月11日以来、世界の目はドイツと日本の動向、とりわけ両国のエネルギー政策に向けられている。福島第一原発の事故をうけ、ドイツ政府は急遽「倫理委員会」を招集、検討の後、現在稼働中の原子力発電所を2022年までに完全に廃炉にすることを決めた。あと10年の計算である。ところがフクシマ事故の当事者であり、「火元」にして「鎮火」することもままならない日本政府は、原発の未来に関していまだなんら納得のいく結論を出せないでいる。

 何故このようなおおきな相違が生じてしまったのであろうか。フル稼働中の原発停止をすみやかに宣言できたドイツには、いったいどのような経済事情や政治的背景があったのだろうか。

 日本と同様に敗戦を迎え、焦土から奇跡の復興を遂げ、高度な科学技術を駆使し最先端製品を製造・輸出するドイツ、今も貿易立国としてその優位性を保ち、EU経済の牽引車であり続けるドイツがいちはやく路線転換できた理由とは、そもそも何だったのか。どうして緯度的に北海道をはるかにこえ、「樺太」(サハリン)以北に位置するような冬の寒さの厳しい国が、原子力発電所に依存することなく、冬期の暖房をやっていけるのか。

「今、ここだけ」ではなく、未来にわたって必要なエネルギー

 これらの疑問すべてに対して、明快な解答が見つかるとはかぎらない。が、すくなくともいくつかの質問にたいしては、その問いをさらに深化させ、発展させるきっかけが見つかるだろう。

 とりわけドイツのエネルギー事情、世界のエネルギー問題を長期間にわたって撮影し、フィルムに収めた三つの記録映画は興味深い。『イエロー・ケーキ』、『第四の革命』を鑑賞すると、日本のことや目先のエネルギーにばかりに注意を奪われているわたしたちの近視眼的な思考が浮かび上がる。これに原発解体の気の遠くなるようなプロセスを描いた『アンダー・コントロール』を加えた3本の映画は、2011年10月に赤坂にある東京ドイツ文化センター(通称ゲーテ)で初演されて以来、しずかなブームとなった。それでも一般の映画館での上演は予定されていない作品なので、この機会にぜひじっくり見てもらいたいと思う。と同時にドイツの片田舎の原発事故とその影響や国の事情を詳細に描いた架空の物語『見えない雲』(ドイツ公開2006年)も見逃せない。

 どの映画上映に際しても簡単な導入や終映後の質疑応答が用意されている。ぜひ自分の目でドイツのエネルギー問題に関しての情報を収集し、世界の環境政策に関しての認識を深めてほしい。

「グローバリゼーション」のうねりから誕生したドイツ学

 誰もが知るように明治期の日本には、開国にともない様々なカルチャーが押し寄せてきた。当時の新設校、とりわけ中央大学の前身は、このような国際化の荒波に乗るべく開設された私立の教育機関であった。20歳前後で英国に留学した若者たちによって創設された本学にとって忘れてならないのは、日本の法律がドイツ法から多大な影響を受けて成立した点である。今回ひさしく埋もれていた中大予科のドイツ語教授や教育内容にスポットライトがあてられ、本学の重要な礎となったドイツ語学やドイツ法学の実体がみごとに蘇る。脈脈とつづく中大ドイツ学の流れを、ほんのすこしだけ味わうのも良いだろう(講演会『戦前の中央大学におけるドイツ学』)。6月20日には現在活躍中の駐日ドイツ大使のキャンパス訪問と学生向けの日本語での講演会が予定されているが、今を遡ること80年以上前にも、中大講堂(神田)に当時のドイツ大使をお迎えしている。「駐日ドイツ大使フォレチェ博士(Dr. Voretzsch)の臨場を得た講演会は中大史上に特筆すべきものであった」(上村直己)といわれている。

「欧州留学フェア2012」はじまる

 ヨーロッパでの短期留学や長期留学は、北米やオセアニアに比べ格段に授業料が安く、その質の高さや多様な教育内容が評判となっている。このようなメリットを紹介し、多くの日本の学生を欧州に送り込もうとするのが「欧州留学フェア2012」-ヨーロッパ留学最前線-である。このプログラムのドイツにおける窓口がドイツ学術交流会(DAAD)である。今回の「ドイツ・ウィーク」ではこのDAAD日本事務所所長に特別にお願いし、国際交流の重要性や魅力、ドイツでの学習プログラムなどを紹介していただくことになった。ドイツにおける語学留学や研究生活を考えている学生はこぞって参加し、留学や滞在、奨学金にたいする疑問や不安などを直接尋ねてみるとよいだろう。

 わたしたちの生きている21世紀は、急速な「グローバリゼーション」とそのなかから立ち上がる「グローバル・カルチャー」が重要なキーワードとなっている時代である。多くの学生がこのイベントに参加し、世界の中における自分の立ち位置をしっかりと確認してもらいたい。

インターナショナル・ウィークのスケジュール(予定)

6月16日(土)講演会 「新生ドイツ」東京ドイツ文化センター所長
6月18日(月)映画会 『イエロー・ケーキ』(クリーンなエネルギーという嘘)上映と討論会
6月19日(火)講演会 「ドイツの原発政策と文化運動」(映画『見えない雲』も上映)
6月20日(水)講演会 駐日ドイツ大使
6月20日(水)映画会 『アンダー・コントロール』(原発解体マニュアル)上映と討論会
6月21日(木)映画会 『日独裁判官物語』と原発裁判
6月21日(木)講演会 「一極集中の危険」ノルトラインヴェストファーレン州日本事務所長
6月22日(金)映画会 『第四の革命』(エネルギーの未来)上映と討論会
6月23日(土)講演会 「戦前の中央大学におけるドイツ学」
6月23日(土)講演会 DAAD日本事務所所長、DFG日本事務所所長
6月23日(土)音楽会 「詩とヴィジュアル・イメージと音楽と」

上記以外に予定されているイベント

 1.講演 「指揮者フルトヴェングラーとドイツのクラシック音楽」
 2.講演と議論 「東ドイツにおける市民と法」
 3.中央図書館内でのドイツ関連書籍の展示と「ドイツ・ポスター展」
 4.生協店舗内でのドイツ・フェア
 5.フンボルト賞受賞者による記念講演会
 6.戦前の中央大学におけるドイツ語教育関係者の資料展示会
 7.ドイツ留学生主催の展示会・ドイツ留学経験者の報告会
 8.森鴎外生誕150周年記念講演会などなど

新井 裕(あらい・ゆたか)/中央大学商学部教授
専門分野 独語・独文学・演劇学
1954年群馬県生まれ。中央大学文学部独文科卒業。同大学大学院を経て、ウィーン大学大学院で学ぶ。専攻は独文学、演劇学、比較文化。博士(学術)。現在の研究課題はオペラ、オペレッタ、ジングシュピールなどの音楽劇の研究。国際ネストロイ協会会員、ライムント協会名誉会員、グリルパルツァー協会会員、新国立劇場オペラ専門委員など。インターナショナル・ウィーク「ドイツ」実行委員会委員
著書・訳書『ネストロイ喜劇集』(行路社)『ライムント喜劇全集』(中央大学出版部)『オペラ・パロディの世界』(立教大学出版会)『ハプスブルク帝国のビーダーマイヤー』(中央大学出版部)『ドイツの笑い、日本の笑い』(松本工房)『ウィーンとウィーン人』(中央大学出版部)(ともに共著)など多数。