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平山 令二

平山 令二 【略歴

ボランティア活動と教育

平山 令二/中央大学法学部教授
専門分野 ドイツ語・ドイツ文学

ボランティア・ステーション開設

 東日本大震災から2年が経ちますが、被災地での復興はいまだに先の見えない状況です。2年前の3月11日に大地の激震を被災地の人々と共に体験した中央大学の私たちも、被災地のことを忘れることはできません。これまで、中央大学では学生、院生、そして教職員が様々な形で被災地でのボランティア活動に参加してきました。

 このような経緯から、本年4月、中央大学でも学生部に「ボランティア・ステーション」が設置され、活動を開始しました。ボランティア・コーディネーターには松本真理子さんが就任しました。松本さんは、津波のため市街地が壊滅的被害を受けた宮城県女川町で、1年半にわたり子どもたちの学習支援に携わった方です。すでに、ボランティア志望の学生の相談や被災地スタディーツアーなど、精力的に活動しています。

気仙沼での学生ボランティアの活躍

 私も4月から学生部長となり、ボランティア活動支援に携わることになりました。さて、今回は学生のボランティア活動と「学び」の問題について、述べてみたいと思います。私自身、昨年3月に行われた学生部主催の学生ボランティア活動に引率教員として参加し、気仙沼市大島で学生たちの奮闘をじかに見ることができました。まだ冬のような寒さの大島で、瓦礫処理や海産物の加工など懸命に働く学生たちの姿は、教室で接する学生とはまた一味違い、新鮮で心打たれました。夜のミーティングで、彼らはボランティア活動で学んだことを率直に語ってくれました。被災地の年代も違う様々な人々との交流で、コミュニケーションの重要性や、被災した人たちが本当に望んでいることを理解することの大切さを学び、グループ活動の意義も学んだのです。そして、何より被災者の方々が口にしていた、「被災地の私たちのことを忘れないでほしい」という言葉を全員が深く心に刻んでいました。短い期間でしたが、教室のなかでは学べない多くの大切なことを学生たちは確かに学んでいました。

シンポジウム「東日本大震災から2年」

 さて、6月9日に「国庫助成に関する全国私立大学教授会連合関東地区協議会」のシンポジウムが明治大学のリバティータワーで開催されました。今回のテーマは「東日本大震災から2年―今、何をなすべきか」です。現在、中央大学が関東地区の代表校であるので、ボランティア・コーディネーターの松本真理子さんに基調報告をお願いし、文学部3年生の宮崎汐里さんに学生ボランティア活動について報告していただきました。松本さんの基調報告は、女川町での子どもの学習支援についてのものでした。女川町は平野部が少なく、壊滅的被害を受けたため、住民は高台の仮設住宅で暮らしています。

 松本さんたちのNPOは放課後の子どもたちの勉強を見ています。勉強を見ているのは、大学生のボランティアたちです。子どもたちと大学生の関係を松本さんは、「ナナメの関係」と名づけています。親や先生は子どもたちにとってタテの関係、同級生はヨコの関係です。これに対して、大学生はナナメの関係にあり、親、先生、同級生などと違った存在で、そこに独自の意義があります。大学生たちは子どもたちにとって、学びのときは先生であり、相談するときは友人ですが、変幻自在であり、自由な関係が築けます。したがって、子どもたちは、親や友人には話せない心の悩みも大学生たちには打ち明けることができるのです。

ボランティア活動から得た「宝」

 宮崎さんの報告は、気仙沼の面瀬地区での活動に関するものでした。宮崎さんは仮設住宅でのNPO活動に参加し、子どもの学習支援活動を行っています。報告内容で重要な点だと思ったのは、ボランティア活動と「学び」との関連です。すなわち、ボランティア活動が大学での自らの「学び」に直結するものであるという指摘です。

 宮崎さんは、面瀬地区で様々な年齢層、また生活の背景を持つ人々と交流するなかで、コミュニケーションの大切さを学びました。被災者の方々の生の声に謙虚に耳を傾け、心情を理解することの大切さです。内面の思いを語ってもらうためには、その状況に合った発言や聞き取りが必要になります。また、活動は「チーム」で行われるものですから、チーム内でのコミュニケーションも大切になります。チーム内でのコミュニケーションがうまく行かない場合には、活動は停滞してしまいます。

 宮崎さんがさらに学んだものは、自分の活動をきちんと記録し、検証しながら活動を進めるという方法論です。小さなノートを携帯して、細かなことでも記録しました。被災者の方々が、自分の言葉にどのような反応を示したのか、表情や言葉を見逃さず記録しました。これにより、よかった点、直さなければならない点、が明確になり、次回はもっとよい対応が出来るのです。

 これら被災地で学んだことは、自分に「変化」をもたらした、と宮崎さんはまとめで述べています。想像もできない大災害を経験した人々が、互いに思いやりながら生きていく姿勢、悲しみを数多く経験しながら懸命に生きている子どもたちの姿を見たことは、これから生きていくうえでの「宝」になると思ったそうです。それはまた、この時代になにをなすべきか、という自分への問いかけともなり、大学で学ぶことに意味の探求にもつながります。

 これらの体験は「学び」においても役に立つ、と宮崎さんは考えています。いろいろな人々とコミュニケーションを取る能力、チームで活動する能力、整理・反省しながら物事を進めて行く能力、これらは大学の「学び」でも重要なものです。さらに言えば、社会に出てからも必要とされる能力です。それらをボランティア活動で学ぶことができたわけです。

 また、社会との関わり方にも変化があったそうです。これまで法律、政治は自分とは遠いものと思っていたけれど、被災地の現実のなかではそれらが身近なものであり、重要なものであることを知りました。学生の自分たちも社会の担い手であり、声を出し、社会に還元させなければならない、と宮崎さんは報告を締めくくりました。

「サービス・ラーニング」の意義

 このような宮崎さんの被災地での体験を考えると、ボランティア活動は、大学の「学び」にも重要な役割を果たすことが分かります。たまたま、5月24日に、明治学院大学で開催されたアメリカ・ポートランド州立大学クリスチーヌ・クリス博士の「社会貢献活動を通して学ぶとはどういうことか」という講演会を聞くことができました。クリス博士は「サービス・ラーニング」の専門家です。「サービス・ラーニング」とは聞き慣れない言葉と思います。私も初耳でした。その中身は、ボランティア活動やインターンシップなどの概念と重なるものの、社会貢献による学びが正課教育と結びつくというプロセスを重視したものです。ボランティアとは人を助けたいという慈善心が動機であり、インターンシップの動機はキャリアのための経験を得たいということです。これに対して、「サービス・ラーニング」とは、大学での学びと結んで地域社会に貢献する活動です。例えば、町の川の水質検査を理系の学生が行い浄化に協力する、というような活動です。

 このような「サービス・ラーニング」を通して、学生は自分の学んでいる学問が社会に貢献することを知り、学びの意味を確認することができます。実際に学習意欲も高まるそうです。

さらなる活動の進化へ

 ボランティア・ステーションが開設され、大きなステップを踏み出しましたが、規模的には他大学と比べてまだささやかなものです。今後、組織体制、活動をさらに成長させることにより、ボランティア文化、そして「サービス・ラーニング」という考えも大学に根付かせていきたいと希望しています。大学とは、これまでの人類の叡智を結集させ、時代の要求に応えるという使命を持った機関です。そして、その根底には人間性に対する信頼がなければなりません。その意味で、ボランティア活動とは大学の学びに直結したものと考えられるでしょう。

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平山 令二(ひらやま・れいじ)/中央大学法学部教授
専門分野 ドイツ語・ドイツ文学
1951年新潟市生まれ。東京大学人文科学研究科博士課程(ドイツ文学専攻)中退。山形大学講師などを経て、1984年より中央大学法学部勤務(ドイツ語担当)。専攻はドイツ語・ドイツ文化。現在の研究テーマは、レッシングやゲーテなどの18世紀ドイツ文学・思想。
ドイツのユダヤ人文化。ホロコーストからユダヤ人を救った人々も研究している。
趣味としては、小学生時代は円生にあこがれ落語家志望。中学・高校は劇画にあこがれ漫画家志望(「少年マガジン」新人賞に二度応募し落選)大学生時代は同人誌で小説を書いていた。どれも物にならず。