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宮本 航平

宮本 航平 【略歴

仲裁・交渉ゼミの効用

宮本 航平/中央大学法学部准教授
専門分野 会社法

1.仲裁・交渉ゼミ

 「仲裁・交渉ゼミ」は、法学部の3・4年次に設置される専門演習の1つであり、私と法科大学院所属の阿部道明教授が共同で担当している。このゼミの最大の特徴は、参加学生が「大学対抗交渉コンペティションnew window 」という学外の大会に参加することを目的としていることである。

2.大学対抗交渉コンペティションとは何か

 大学対抗交渉コンペティション(通称・交渉コンペ)は、毎年11月下旬または12月上旬に開催され、参加学生が国際的ビジネスに関する模擬交渉・模擬仲裁の技術を競うものである。コンペにおいては2ヶ月間の準備期間が与えられる。各大学は入念な準備を行って大会に参加するため、年々そのレベルは上がっており、大会で入賞をすることは大変困難となっている。なお、大会は、日本語の部と英語の部の2部に分かれて開催される。英語チームの様子は、中央大学のGO GLOBALのウェブサイトにおいても紹介されているnew window

 交渉コンペの特徴の1つとして、参加する学生が模擬交渉と模擬仲裁の双方のラウンドに参加することを挙げることができる。模擬交渉のラウンドでは、仮想の国際的ビジネス案件について、ビジネスパーソンとして対戦相手と交渉を行う。模擬仲裁においては、仮想の企業間の紛争を、訴訟に類似した仲裁という手続きによって解決するため、弁護士として主張・反論を展開する。この双方に参加することが、後にも述べる通り、法学部における教育にとって大きな意味を持っていると考えている。

3.どのような学生が参加するのか

 周知の通り、法学部とは言っても、そこに所属する学生の多くが実務法曹を目指しているわけではなく、法学の学修に高い意欲を持っているわけではない。交渉という、法学部のゼミの中では特異な領域を対象とする本ゼミにおいては、その傾向はより顕著で、法学学修に関心の低い学生が比較的多く所属している。実務法曹を志望する学生がいないわけではないが、その数は少数に留まる。

 そのような状況で交渉コンペに参加する場合、国際ビジネスに関心を持って交渉に力を入れる多数の学生と、実務法曹への関心から仲裁に力を入れる少数の学生の二極化が生じることになる。しかし、そのいずれの学生も交渉・仲裁の双方のラウンドに参加するのであり、そのことによって高い学習効果が得られていると考えている。

 また、3年次の学生と4年次の学生が同一のゼミで共に活動していることも、参加学生の学修にとって重要な意味を持っている。

4.外へ出るゼミ

 仲裁・交渉ゼミが交渉コンペという学外の大会に参加することを目的としていることは上記の通りであるが、このゼミが学外に出る機会はそれだけではない。仲裁・交渉ゼミでは、交渉コンペに参加する他の大学との交流試合を実施している。すなわち、6月下旬には上智大学、学習院大学、慶応大学との交流試合を実施する。また、夏期休暇中には、大阪大学が主催し、関西を中心として多数の大学が参加するする交流試合にも参加している。

 これらの交流試合に参加するために、長時間の事前準備等による学生への負担は非常に重い。とりわけ、関西での交流試合に参加する学生は、夏期休暇中も連日に渡って自主ゼミを実施し、また旅費等の多額の費用負担も求められる。それにもかかわらず、多くの学生が積極的に学外での交流試合に参加している。

 こういった交流試合により、参加学生は、他大学の優秀な学生との交流を通して刺激を受けている。また、全国に同じく法学部で学ぶ友人ができることも、学生にとっては多大な労力を費やしてでも参加する動機となっているようである。最近では、交流試合やコンペの後も、SNS等でつながりを続けている学生も多くいる。

5.自ら動くゼミ

 交渉コンペへの参加を目的とし、学外の交流戦に参加することから、仲裁・交渉ゼミの活動は、交流戦と交渉コンペへの参加の準備にその時間の大半が充てられる。ここでのゼミ運営の特徴は、その準備がすべて学生主導で進められることである。

 交渉コンペで要求される準備は多岐に渡る。交渉・仲裁のスキルを学ぶことはもちろん、コンペで問題となっている事柄が現実の社会でどのように扱われているかを知ることも要求される。例えば、昨年度のコンペでは、旅行業務に関する紛争が仲裁のテーマとなった。そこでは、現実の旅行業務のリサーチが要求される。また、交渉ラウンドにおいては、合弁による新規事業の展開が交渉の対象となった。そこでは、合弁事業を実現するための会社法のルールや、実務上の取扱いを学ばなければならない。参加学生はこれらの準備を主体的に行っており、我々教員の役割は、学生から請われた際にアドバイスを与えるという、限定されたものでしかない。交流戦に参加するための他大学との連絡等も、学生自身で行っている。

 このように、仲裁・交渉ゼミの運営は、あらゆる面において学生主導である。初めてゼミに参加する3年次の学生は、1年間ゼミ活動を経験した4年次の学生から、自然とそのような自律した態度を学んでいる。

6.つながるゼミ

 交渉コンペに参加するために要求される準備は多岐にわたり、学生の努力は大変なものであるとともに、2名の担当教員だけではその指導には限界がある。そこで、仲裁・交渉ゼミでは、中央大学のOB・OGの方々から助力を得ている。中央大学GO GLOBALのウェブサイトにおいてグローバル・パーソンとして紹介されている日本ヒューレット・パッカードの井上修氏もその一人であるnew window 。他にも、仲裁・交渉ゼミで学んだ多数のOB・OGの方々に協力いただいている。

 OB・OGによる指導を受けることの効用として、参加学生がOB・OGを通して社会に触れ、大学で学ぶ学問が社会においてどのように活かされるかを知る機会を持つことが挙げられる。また、参加学生は、OB・OGをロールモデルとして、自分自身の将来のイメージを形成することもできる。

 かつて中央大学で学び、現在は社会に出て活躍しているOB・OGの方々から指導を受ける中で、参加学生は多くの刺激を受けている。参加学生が懸命に学んだ成果が次の学生に受け継がれる、素晴らしい伝統が作られつつある。

 なお、OB・OGの方々へのアプローチも学生によって行われており、ここでも学生主導のゼミ運営の方針が反映されていることも付言しておきたい。

7.広がるゼミ

 仲裁・交渉ゼミに参加した学生は、実に多様な学びの機会を得ている。

 交渉における説得の技術や仲裁における法的議論の技術を身につけることがその1つであることは、言うまでもない。交渉の技術を身につけた参加学生の中には、将来、国際的なビジネスの場で活躍するビジネスパーソンを目指す者もいる。仲裁の技術を身につけた学生の中には、将来、法律家として実務において活躍することを志す者もいる。

 しかし、仲裁・交渉ゼミへの参加によって参加学生が獲得しているものは、このような技術だけではない。むしろ、広い意味で、学ぶことへの意欲を得ることが、このゼミの最大の成果であろう。

 昨年度のコンペに参加した後に、ある学生がもらした感想が、私の印象に残っている。その学生は、法学の学修に関心の薄い学生であったが、コンペを経て、「法律を学ぶ意欲がわいてきた」と述べていた。法学の学修に関心の薄い学生も、模擬仲裁を経験し、また、法的問題を交渉の対象として扱うことで、法学は学ぶに値するものであると気づくことがある。このことは、学生の動機付けに苦心する法学教育にとってヒントを与えてくれているような気がする。

 さらに、自ら学ぶ経験をすることも重要である。仲裁・交渉ゼミでは、全ての学びが自律的に行われる。自律的な学びは一度始めるとやめられない。仲裁・交渉ゼミで、参加学生は、自律した学修者になる第一歩を刻んでいる。学びはじめた彼らには、豊かな人生の可能性が広がっている。

宮本 航平(みやもと・こうへい)/中央大学法学部准教授
専門分野 会社法
熊本県出身。1980年生まれ。2004年中央大学法学部法律学科卒業。2005年中央大学法学部助手、助教を経て、2008年より現職。
現在の研究課題は、株式会社の運営機構のあり方。とりわけ、株式会社の取締役の損害賠償責任について検討を行っている。主要論文として、「取締役の経営判断に関する注意義務違反の責任」(法学新報)、「アメリカ法におけるオフィサーの経営判断に関する責任」(Future of Comparative Study in Law所収)等がある。