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入矢 玲子

入矢 玲子【略歴

検索時代の図書館-「隠れた情報」のさがし方

入矢 玲子/中央大学図書館事務部レファレンス・情報リテラシー担当副部長

「変わる」予言よりも「変える」提言を

 世界最古といわれるアレキサンドリア図書館から2300年。図書館は情報革命の中で大きく変わりつつある。だが、少なくとも 大学は、「変わる」という傍観者的な見方に留まらず、図書館をどう「変える」かの提言者であるべきだろう。 知と情報の集約場所である「図書館力」の高低は大学力を象徴するからだ。

本を持たずアクセス権を持ち始めた図書館

 アレキサンドリア図書館の蔵書はパピルスだった。この何百年かは紙の時代が続いた。それがわずか数十年で電子に変わりつつある。単なる軽量化ではなく、リアルからバーチャルへの究極の転換だ。

 図1は、中央大学図書館所蔵の紙の雑誌と電子ジャーナルタイトル数の割合だが、電子ジャーナルは半分を超えている。電子ブックも4分の1以上だ。130年にわたる蔵書を誇る本学図書館ですら、情報はバーチャルに取って代わられつつあるのだ。

IT時代は情報「技術格差」の時代

 電子情報は、「とりあえず探す」ことは世界規模で簡単にできるが、「きちんと探す」ことは難しい。スマホからおびただしい情報が取れるし、Googleを筆頭に検索は大衆化した。遊んだりつながったりするには十分だ。しかし、学術やビジネスユースに使える情報にアクセスする力は必ずしも向上していない。

 すべての本が紙だった頃は、書棚を歩き回っているうちに必要な資料に遭遇することがありえた。だが、検索時代の図書館では、偶然という幸福な出会いは期待できない。正しいキーワードを考え、検索技術を駆使しないと、本学図書館にある本すらヒットできない。玉石混淆の情報に呑み込まれ、求める「玉」にたどり着けない。ここに「情報リテラシー力」アップの必要性がある。情報リテラシー力をつけるには、まず学術情報の基本的なありかを知り、そこへアクセスする技術を学ぶ必要がある。

情報革命に追いつく検索力改革が必要

 たとえば、必要な本が本学図書館にあるかどうかは、Google検索ではわからない。中大のOPAC(web上の図書館目録)であるCHOISを検索するという知識が必要だ。CHOISを知っていても、たとえば岩波書店の雑誌「世界」を探す時、単に「世界」で検索すると3万件以上ヒットして行き着けない。完全一致検索の知識が必要だ。

 あるいはデータベースCiNii Articlesで、「sustainability(持続可能性)」というキーワードを持つ論文を検索するには、キーワードをどうすればいいだろう。ヒット数は、①「サステイナビリティ」775件、②「サスティナビリティ」248件、③「サステナビリティ」568件となる(2015年2月10日時点)。網羅的に探すには、「①OR②OR③」という論理演算子を使う必要がある。

図書館は情報の機会均等を目指す

 「そんなトリビアな不具合はやがて修正される」と思うかもしれない。だが、不具合は、修正されても次々と出てくるのである。いま論文を仕上げなくてはならない大学院生を前に、「やがて修正されます」ではすまないだろう。情報リテラシー教育の必要性は、変化が激しい分、紙の本の時よりも時間的に切迫している。

 検索は、平易になった分、個人のセンス頼みになりつつある。だが、センスがないとアクセスが途絶されるようでは、紙の本の時代より図書館力が後退してしまう。個人的なセンスを、誰でもできる「能力」として体系的に教えるのも図書館員の役割である。

図書館は情報だけでなく時間をあなたにもたらしたい

 私は来館者から「自分でやれば○時間、貴女に頼めば10分」とよく言われる。だが、残念ながら、これは自慢話ではない。職業柄、メタデータ作成に通じているだけである。

 メタデータの作成は、理論は簡単だが、プロユースに耐えるものにするには相当の訓練を要する。かつては各館で作成していたが、今ではネットを利用して協働でつくり、CiNii Booksにアップするので、各館に専門家を置かなくなった。

 これが落とし穴になり、最初に作られたデータが不備な場合、それに気づかず全国でダウンロードされてしまうケースがあるのだ。

 「ランガナタン図書館学の5法則」の1つに、「利用者の時間を節約せよ」という法則がある。たとえ10分でも積み重なれば大変な時間を研究者から奪うことになる。図書館は、10分をゼロにできるような情報整備を目指す。メタデータ作成で後退しているようでは、時間の節約は進められない。

「奉仕する図書館」は危ない

 選書についてもふれておきたい。「究極の利用者本位の図書館は東京拘置所図書館」とは、佐藤優氏のジョークである。「利用者」の残した本が大半だから、犯罪小説とエロ本ばかりというわけだ。神学部出身の佐藤氏は、「矯正機関だから聖書は当然置いてあると思って持たずに入ったら、なかったですよ」と続けて会場をわかせた。(2015年2月2日 日本文芸家協会主催シンポジウム「公共図書館はほんとうに本の敵?」)

 図書館員の選書意識が低く、「利用者が欲しがるから」「要望が大きいから」という理由だけで本を購入していくと、図書館は「拘置所図書室化」する恐れがある。大学図書館では研究者が研究分野に沿った選書を行うから一応安全だが、公共図書館には、ベストセラーを何冊も購入して無料で貸し出すなという批判もつきまとう。

海に案内したら船にも乗せるのが本当のサービス

 情報リテラシーを学生に教えるのも、選書するのも図書館員の重要な役目だ。ところが、肝心の図書館員は、図2の通り量的減少が著しい。もちろん量は質を保証しないが、良質は多量の中からでないと生まれにくい。幸い本学ではこの問題は起こってない。だが、メタデータの項で触れた通り、ネットで協働作業をしている現在、一人の間違いが全体に及ぶ危険性が高いのだ。

 情報の記録手段がバーチャルに変化していくのは時代の流れだ。だが、バーチャルになって膨大化した情報の中から必要なものを選んで整備された知の森をつくること、そこを利用者が自在に歩けるようにサポートすること、という図書館のミッションは、変えてはならないだろう。

階段を見上げるだけでは十分ではない。我々は階段を上らなければならない(V.ハヴェル)

 2006年に発表されて大ヒットした有川浩氏の『図書館戦争』は、検閲に対抗し「知る権利を守る図書館」をモチーフにした恋愛小説である。だが、現代の「知る権利を守る」はむしろ、情報の海で溺れかけた利用者をヘルプすることが主眼になっていくと思われる。

 情報の森は図書館の外側にも果てしなく広がり、情報を結ぶハイウェイの伸長も著しい。対応するだけで手一杯の現状でいいのだろうか。

 必要とする人が必要な情報にきちんとアクセスできるようなハイウェイ整備のためにも、今こそ、図書館員が書・情報・情報リテラシーのハブになることが必要だ。図書館員の専門性の強化か、放棄かが、「図書館という文化」の近未来を決めるのである。

入矢 玲子(いりや・れいこ)/中央大学図書館事務部レファレンス・情報リテラシー担当副部長
1978年大阪外国語大学イスパニア語科卒。同年から中央大学職員として図書館に勤務。図書の受入業務、目録業務などに従事したのち、現在までレファレンスサービス業務に携わる。1991年 イリノイ大学客員研究員・モーテンソンフェロー。1996年~2004年 日本図書館協会「日本の参考図書」編纂委員。2007~2008年 私立大学図書館協会研究助成委員。著作として『日本の参考図書』(共著 日本図書館協会 2004)、「『図書館文化』の継承を」(朝日新聞 2006.2.15)など。