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山田 篤史

山田 篤史【略歴

大塚 圭

大塚 圭【略歴

国際理解教育を題材とした課題解決型学習

―「PBL版 高校生のための国際協力入門」の実践を通して―

大塚 圭/中央大学杉並高等学校外国語科教諭
山田 篤史/中央大学杉並高等学校地理歴史科教諭

1.国際理解教育と課題解決型学習

 一般の学校現場における国際理解教育の実践は、学力向上への対応などにより、学習内容および授業時間が増加し時間を確保することが難しかったり、英語学習や異文化体験に終始してしまったり、必ずしも浸透していないのが現状である。国際理解教育を推進していくためには、現行の教育課程との関係性を明確にし、学校現場での理解を促進することが重要である。図1は、国際理解教育と学習指導要領との関係性をまとめたものである。中央大学杉並高等学校(以下、本校)で実施している「PBL版 高校生のための国際協力入門」(以下、本講座)は、図1が示すように、学校教育に求められている「国際協力」と「課題解決型学習」という二つのキーワードを取り入れた国際理解教育の実践である。以下、本講座の実践例を通じて、生徒一人ひとりに対する国際理解教育の意味を明確にするとともに、その実践にあたっての課題についてまとめてみたい。

図1 国際理解教育と学習指導要領との関係性(JICA開発教育指導者研修をもとに筆者作成)

2. PBL版 高校生のための国際協力入門

 本校では、土曜日の3・4時間目を「土曜講座」として高校の通常カリキュラムとは別にさまざまな選択講座を用意し、生徒一人ひとりが各自の興味・関心に応じて履修できるようになっている。履修にあたっては学年を分けず、全学年の生徒が混在することになる。本講座は2014年度より、この土曜講座の一つとして開講され、「国際協力」をテーマに、JICA、日系グローバル企業、中央大学などと連携し、事前学習で基礎的な知識を学び、夏休み期間に開発途上国を訪れ国際協力の現場を視察・体験することで現在おきている貧困・教育・保健医療・環境などの地球規模の諸問題について考え、事後学習で高校生が自ら解決のための仕組みづくりを提案するというコンセプトで実施している研修である。PBL(Project Based Learning)とは「課題解決型学習」のことであり、講座名で「PBL版」とうたっているように、この研修を通じて生徒に身につけてほしい力は、どこに問題があるのか、なぜ問題が生じているのか、どのようにしたら解決へと導けるのかということを、自ら気づき探索する力である。

 2014年度の本講座は、研修国を中央大学タイ・オフィスが設置される予定であり(2015年3月開設)、緊密な連携を期待できるタイ王国とし、1年生8名、2年生12名、3年生10名の計30名が受講した。

3.事前学習

 事前学習ではJICA地球ひろばを訪問して職員の方から国際協力についての説明やワークショップを受けたり、TV会議システムを利用してバンコクのJICAタイ事務所とつなぎ、現地でおこなわれているODAプロジェクトの説明をお聞きしたりした(写真1)。また、駐日タイ大使館次席公使のシントン・ラーピセートパン氏よりタイの現地事情や日本との交流の歴史、また当時懸念されていたクーデタをめぐる情勢についてご講演をいただいた(写真2)。さらには、タイでも「すき家」を出店している株式会社ゼンショーホールディングスの方から、企業のグローバルビジネス展開についての出張授業を実施していただいた(写真3)。このように事前学習では、国際協力における基礎的な知識を学ぶとともに、タイに関する情報を収集・分析した。また、JICA、グローバル企業、タイ大使館などのさまざまな視点から国際協力を学ぶことができるように留意した。

写真1 JICAタイ事務所とテレビ会議

写真2 タイ大使館 講演会

写真3 ゼンショーの出張授業

4.タイ現地研修

 夏休み期間中の10日間、7月23日から8月1日にはタイでの現地研修を実施した。タイでは首都バンコクと北部の主要都市チェンマイを訪れ、JICAのODAプロジェクトの現場(パクレット障害乳幼児施設、ノンタブリー社会福祉センター、タマパコーン高齢者社会福祉センター(写真4)など)や日系企業としてデンソー・インターナショナル・アジアのオフィスとゼンショー「すき家」の店舗を訪問、また、現地の同世代との交流としてランパーン・カラヤニー中高校(写真5)(ここはJICA青年海外協力隊の日本語教師の派遣先でもある)やプラティープ財団が支援するバンコクのクロントイ・スラム(写真6)も訪れた。これらの施設・訪問先で生徒たちは支援・協力体制についての現状と問題点について学ぶとともに、清掃・配膳等のボランティア活動や歌・ダンス・ポスターなどの発表を通じて現地のタイの方々との交流を深めた。これらの経験を通して生徒たちが自ら感じたこと気づいたことをまとめ、最終日にバンコクのJICAタイ事務所を訪れ、現地研修の成果を報告して帰国した。

写真4 タマパコーン高齢者センター

写真5 ランパーン・カラヤニー中高校

写真6 クロントイ・スラム

5.事後学習(プロジェクトワーク)

 2学期からは土曜講座の時間を使って、生徒たちがタイで実際に見たり聞いたり感じたりしたことをもとに、タイで生じている社会問題についての解決策を探るプロジェクトワークに取り組んだ。それぞれのグループは興味・関心の近い生徒たちが学年の違いを超えて集まり、扱う社会問題を決め、情報収集し、課題解決のための方策を考えた。今年度生徒たちが設定した課題としては、「障害者の自立支援の問題」、「山岳民族の貧困改善の問題」、「タイの高齢化社会への対策」、「スラムの衛生環境改善の問題」、「衛生意識向上のための小学校における手洗い推進運動」などがあった。このうち、障害者の自立支援を扱ったグループでは、タイと日本の障害者が障害を負うことになった原因について調査した結果、タイでは交通事故が原因で障害を負った人の割合が日本など先進諸国よりも多いということに着目し、タイの人々に交通安全の意識を高める呼びかけをすることを課題解決のための方策として提案した。そして、交通安全意識を高めるために、タイの子どもたちが理解しやすく興味をもてるように、漫画風のイラストをつかった交通安全のためのパンフレットを成果物として作成した(図2)。また、スラムの衛生環境改善の問題を扱ったグループは、スラムの住民たちが自らの環境改善をおこなえるような仕組みづくりとして、スラムでのゴミ拾い大会の実施やコンポストによる生ゴミの堆肥化を提案した。高齢化社会対策を扱ったグループは、できるだけ費用をかけずに健康を維持する方策として、日本のラジオ体操や本校でおこなっている「中杉体操」をアレンジして、タイの高齢者が日常的におこなえるような独自の体操を提案した。生徒自らこの体操をおこなう様子を動画で撮影し、意識するポイントを字幕で表示した。生徒たちは、これらのプロジェクトワークを1月の最終報告会でJICA関係者をはじめお世話になった方々に報告した。

図2 タイの子どもたちの交通安全意識の向上を目的とした漫画パンフレット

6.成果と課題

 1974年第18回ユネスコ総会において「国際理解、国際協力および、国際平和のための教育ならびに人権および基本的自由についての教育に関する勧告(1974年国際教育勧告)」が採択され、国際理解教育(国際教育)の基本的な考え方における総括的なまとめが示されている。本講座は、「国際協力」と「課題解決型学習」をテーマにすることで、「国際理解のための教育」だけではなく、1974年国際教育勧告で示されている「国際協力および国際平和のための教育」の機会を提供するとともに、学習指導要領との関係性を明確にすることによって、より実践的な国際理解教育を模索する一つの実践事例になったのではないかと考える。

 しかし、PBL型教育は、性質上、時間を要するプロジェクトワークに取り組むので、「土曜講座」での実践には限界があることも事実である。また、さまざまな興味・関心・背景を持った生徒たちが学年を超えて一つのプロジェクトワークに取り組む有意性を感じる一方で、1年次から3年次まで明確な教育目標を定めて段階的に人材育成を図る必要性もあると感じた。幅広い生徒一人ひとりにより有意味な国際理解教育を実践するためには、グローバル人材育成のための「学校設定教科」や「学校設定科目」を検討し、教科等を横断したプログラムとして実施することも一つの方策であろう。

付記

本稿は日本国際理解教育学会の第25回研究大会における自由研究発表の抄録を加筆・修正したものである。

大塚 圭(おおつか・けい)/中央大学杉並高等学校外国語科教諭
埼玉県出身。1980年生まれ。
2002年中央大学文学部文学科英米文学専攻卒業。
2004年Oklahoma City University MA in TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)修了。
2005年より中央大学杉並高等学校にて専任教諭。
2012年JICA教師海外研修(ブータン)に参加、校内における国際理解教育の推進に努める。
2013年グローバル教育コンクール(写真部門)佳作。
2014年グローバル教育コンクール(取り組み部門)JICA地球ひろば所長賞。
2015年より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程に在籍。
山田 篤史(やまだ・あつし)/中央大学杉並高等学校地理歴史科教諭
愛知県出身。1976年生まれ。
1999年一橋大学社会学部卒業。
2002年一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。
2004年一橋大学大学院社会学研究科博士課程中退、以後現職。
著書に『高校生が見たサハリン・樺太』(中央大学出版部 共著)がある。