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松本 真理子

松本 真理子 【略歴

学生の成長を促すボランティア活動

~ボランティアセンターより

松本 真理子/中央大学ボランティアセンター、コーディネーター

ボランティアセンターの設立

 2013年4月多摩キャンパス学生課に「ボランティアステーション」(翌年ボランティアセンターに改称)が設立された。センターには専門のコーディネーターが2名常駐し、ボランティアをしたい学生へのボランティア情報の提供や活動相談、学生ボランティアを必要としている地域との調整などを行っている。センターのいちばんの目的は、ボランティア活動を通じて学生たちの成長を促すことである。様々な課題を抱える実際の場に出て、大学で得た知識などを総動員し、自らの知恵と工夫で社会に貢献する「ボランティア活動」は、本学の建学の精神「実地応用ノ素ヲ養フ」に通じるものではないだろうか。

学生たちの活躍

 センター設立の契機は、東日本大震災による。このとき多くの学生や教職員が被災地ボランティアに名乗りを上げた。震災から5年経とうとする現在も現地の課題は山積しており、センター所属の「被災地支援学生団体」4団体new windowをはじめセンターは被災地支援活動に学生を送り続けている。今年の夏も学生75名が現地へ赴いた。初めて被災地を訪れた学生は一様に「まだこんなにも復興していないとは思いもよらなかった」と、学校の外にある現実を目の当たりにして、社会の入り口に立つ経験をする。一方、活動先の地域には「学生が来る」ということだけで、仮設集会所に顔を出す高齢者や大学生と遊ぶことを待ちきれない子どもたちがいる。ある気仙沼の小学校の先生が「(長期休みなったら中大生が)当然来るものだと、私たちも子どもたちも思っていますよ」と仰っていたが、通い続けたことで地域にとって中央大学の学生は欠かせないものとなりつつある。また、こうしたつながりから中央大学の存在を知り被災地域から入学した学生もいる。「大学生」は沿岸部の過疎地にとっては珍しい存在であり、学生たちの活動が地域に与える影響は小さくはない。

五感を使う、ボランティアの現場

 現在、被災地の活動は、がれき撤去など肉体労働ではなく、人々との交流を基本とした活動になっている。現場には、学生と現地の高齢者や子どもの笑顔にあふれている。被災地支援学生団体「はまらいんや」は「現地の方の今日を生ききる力になる」ことを掲げ仮設住宅の集会所でお茶会を催すなどしている。これは、ただおしゃべりをするのではなく、現地の方の笑顔の裏側にある、暮らしにくさや不安、悲しみなどを、ちょっとした仕草や部屋の様子から読み取り、その心に寄り添うことを目指している。それには、学生が声の大きさ、間のとり方、表情などで相手がリラックスできる雰囲気を全身で作りながら、同時に相手の微細な変化を見落とさないようにアンテナを張り、その変化に瞬間的に対応していくという、「五感」をフル活用した動きが必要となってくる。これは子ども相手でも同様だ。学生団体「面瀬学習支援」は、被災し大人が苦労している姿を見ている子どもたちが「子どもらしくなくなってしまった。大学生の前では子どもは素直になれるはず」という現地の声を受けて、子どもたちと遊び学ぶことを2012年から行っている。学生を前に子どもたちは「おんぶ」「だっこ」をせがみ、いたずらをして気を引き、大きな声で笑い走り回り、元気いっぱいだ。しかしその裏には、震災前に比べて家庭環境や生活環境が大きく変化したことによるストレスや不安がある。潜在的なニーズに気が付くためには、子どもと全力で遊びながらも子どもの様子を冷静に観察する力が必要だ。こうした力は文献を読んだり、教室のなかで考えるだけでは身に付くものではないだろう。ボランティアの現場に出て、その瞬間瞬間に心と身体を動かすことを繰り返し、少しずつ五感が磨かれていく。

事前の目標設定と事後のリフレクション

 ボランティア活動では、活動前の目標設定と活動後の振り返りも成長のために大切なプロセスとして取り組んでいる。現場に出る前に、なぜその活動に自分は取り組むのかとういう目的意識を明確にしていくことで、現場に関わる学生の主体性の度合いが変わってくる。ボランティアという言葉にはしばし「奉仕」や「自己犠牲」のイメージがつきまとうが、「主体性・自発性」こそがボランティアで最も大切なことである。(参照:ボランティアセンターHP「理念とあゆみ」new window

 目的意識を明確にする過程では、現地の様子を調べたり、学生間でディスカッションを行ったり、専門家を招いての「傾聴講座」や「心のケアの勉強会」などを開いている。現地に行く前に多くの情報を得てイメージを膨らませておき、現場でそれとの差異を敏感に感じ取ることは、知識を現場に合わせて捉え直していく応用力を鍛えることにつながる。

 活動後は「振り返り」を行う。活動期間中は基本的に毎日、その日のうちに振り返りを行い、翌日の活動の改善につなげる。いわゆる「PDCAサイクル」を回すということだ。目標・計画を立て、実践し、行動を振り返り、次の行動につなげる―という循環の中で、学生の実行力は高まる。また長期休暇明けにはボランティアセンターが主催し、ボランティア活動をした学生を集めた「振り返りワークショップ」を行っている。これは失敗を反省するといったことよりも、活動を俯瞰して観ることに力点を置いている。ボランティア活動は自分と相手(支援者)との関わりだけでなく、大学生ボランティアを受け入れるNPOや市民団体、地域や社会との関係性のなかで成り立つ。自分の活動が、様々な関係者にとってどのような影響(メリット)を及ぼしているのか、目の前の課題はどのような社会的な課題と結び付いているのかを考えることで、社会の中での自分の立ち位置を明らかにしていくことができる。それは、社会の中で自分をどう生かすのか、自分が社会の一員としてどのような社会を望むのかを考えることでもあり、社会に羽ばたく直前の大学生時代に明確にしておきたいことでもある。コーディネーターは学生の様子をとらえながら、これらのプログラムを企画し、学生をサポートしている。

ボランティア活動がもたらしたもの

 ボランティア活動の一連の取り組みは、様々な好影響をもたらしつつある。ひとつは、学生から「大学の授業への取り組み方が変わった」という声があることだ。地域の人たちと触れあうことで、成長への意欲が高まったり、課題意識から授業やゼミを主体的に選択している。また、多摩地域のまちづくりにも貢献している。被災地で防災やコミュニティづくりの重要性に気が付き、被災地に行くだけではなく足元の多摩での実践を始めた。2014年は日野市平山地域で学生主体の「減災ウォークラリー」が行われ、学生と地域住民合計180人が参加した。そして、就職への影響だ。継続的な被災地ボランティアに取り組んだ過去の卒業生たちは、目的意識を持って就職活動をし、国家公務員や新聞社、大手航空会社などに内定した。現場で鍛えられたコミュニケーション力や場を把握する力、ものごとを俯瞰する力などが就職活動でも発揮されたのではないかと推測する。

課題は効果の可視化と他部署・他機関との連携

 ボランティア活動がどのように学生の成長を促すかを説明してきたが、これらを行うにはいくつかの課題がある。大きな課題は、人的コストだ。学生の主体性を引き出し力を伸ばすことや現地のニーズとのコーディネーションなど、個々に対して継続した大人の関わりが必要だが、コーディネーター2名では手の届く範囲は限られている。活動範囲を広げるためには教員や職員、地域の大人など多様な人の関わりが欠かせないが、そのためには関係者で共有できる「学生の成長の可視化」の仕組みを作らねばならない。可視化は、現在取り組んでおり、12月5日(土)午後多摩キャンパスCスクエアにて、ボランティアセンターの取り組みと学生の成長についての事業報告会を実施する予定だ。興味のある方にはぜひ参加いただきたい。

さいごに

 センターには毎日10人前後の学生が来る。志が明確な学生もいるが、「何か挑戦してみたい」「自分に自信がない」「サークルに入りそびれた」「将来就きたい仕事がない」など大学生活での居場所ややりがいを求めてくる学生もいる。センターは社会のリーダーとなるような人材を育成するとともに、同時に学生ひとりひとりの小さな一歩を応援する温かい場所でもありたい。

松本 真理子(まつもと・まりこ)/中央大学ボランティアセンター、コーディネーター
千葉県出身。1981年生まれ。2004年明治大学政治経済学部卒業。在学時にキャリア教育のNPO団体の立ち上げに参画。船橋市教育委員会、コミュニティ紙の新聞記者、地産地消イベントプロデューサ―などを経て、2011年9月より宮城県女川町で子どもたちの放課後の居場所「コラボ・スクール女川向学館」(運営:認定NPO法人カタリバ)にて広報・地域コーディネーターとして従事する。2013年4月より現職。