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詩は社会を変える力 シンポジウム開催

「詩の力」「詩や詩人が果たした社会的役割」などについて研究する中央大学政策文化総合研究所のシンポジウムは10月18日、多摩キャンパスで開催された。法学部の広岡ゼミが準備や広報を担当。同ゼミ生2人が当日の模様と今後のゼミ活動を伝える。

金準泰さん

 時刻は13時半。シンガーソングライター茨木大光さんによるウェルカムソングでシンポジウムは始まった。

 意外なオープニングでざわつき始める場内。美しい指弾きで奏でられるギターと、日本語と韓国語で歌い上げられた「希望の歌」。故ムンピョンランさんが作った歌を全南科学大学・金正勲副教授と中央大学・広岡守穂(キム・ジョンフン)教授が翻訳した。

 こうして会は始まった。聴講者に上着を脱いでリフレッシュするようにと笑顔を見せ、会場を和やかなムードにしたのは、詩人であり思想家である金準泰(キム・ジュンテ)さんである。

 金さんは、自らの詩集『ああ、光州、わが国の十字架よ』の中で、光州事件により離れ離れになり、消息さえもわからなくなってしまった父母や息子や娘を思いながら、自らも死にゆく女性の姿を表現した。

 彼は言う。詩とは各州の叙情や闘争の産物である。詩には叙情的語りだけでなく、政治的意味合いも含めるべきだ、と。

 歴史を伝えるのは新聞だけではない、ラジオやテレビだけでもないのだ。私はこのときそう感じた。

人は生きなければいけない

坂本直充さん

「水俣から参りました。坂本直充です」。そう言って登壇されたのは1954年、熊本県水俣市に生まれ、水俣市役所に入職された坂本さんである。

 市役所に34年間勤める中で、自身と同じように水俣病に苦しんだ人々と関わってきた。重度の胎児性水俣病を抱えた人々もいた。それは、胎児が母親の胎盤を通った水銀や、母親が摂取したメチル水銀で汚染された魚介類によって神経細胞が壊され、言語障害や運動失調を引き起こす病だ。

 このような病を持ちながら賠償金問題と闘う人もいた。坂本さんはこれまでの自身の人生を通じて、命をいただいて命を維持すること、命と命のつながり、命を汚すとはどういうことなのかを深く考え、人間の本来あるべき姿を考え抜いてきた。

 どんなことがあっても人は生きなければいけないという強い意志で詩を書き始めたのだという。読み上げられた坂本さんの詩は会場の涙を誘った。

 詩は自由だ。その当時の様子も、過去の歴史も、そのときの感情もなんだって書き手が好きなように伝えることができる。しかし、その自由が保障されていない時代もあったのだ。

 力丸祥子准教授が韓国の同性愛者の現状を話してくれた。ユン・ヒョンソクは同性愛が認められない苦悩の末、19歳という若さで自殺した。同性愛者人権連帯という団体で活動すると共にひとりの詩人であったが、彼の文学作品は、同性愛者という理由で徹底的に排斥される。

 彼の死後、追悼詩集として『私の魂は花の雨となって』が刊行された。同性愛に関する法律などは改正されたものの、いまだ厳しい現状が続いているそうだ。

 私は、国の統制を図るために今では普通である表現の自由が守られない時代も韓国にはあった、と痛感した。

ある青年の詩

寮美千子さん

 ここには書き切れないほど幅広い分野から登壇された方々の新鮮な話を拝聴したが、私が一番印象に残ったのは作家で詩人の寮美千子さんによる「クラス内窓際族」の話だ。

 寮さんは奈良少年刑務所で殺人や強盗を犯した青少年の受刑者たちに向けて、心を開放することを目標に、主に朗読を中心とした講義を月1回約90分続けた。

 彼らは育児放棄で学校に通わせてもらえなかったり、薬物中毒の父親にバットで頭を殴られ続けたりと「加害者」になる前に「被害者」であった人たちの集まりである。

 過去の経験によって心を閉ざした彼らは周囲の人たちとの会話もままならない、いわゆる「クラス内窓際族」であった。

 寮先生は彼らに「宿題」を出した。「詩を書いてきてください。うれしかったこと、悲しかったこと、なんでもいいです。何もなければ好きな色について書いてきてください」

 ある日、一人の青年が自ら書いた「くも」という詩を紹介した。「空が青いから白をえらんだのです」。失礼だが、特になんてこともない詩だと思った、この詩の意味を知るまではー。

 青年の父親は、青年が幼いとき母親にずっと暴力をふるっていた。もともと体の弱かった母は入院し、その後息をひきとったのである。

 入院中の母親は青年に、「つらくなったら空を見てね。わたしはそこにいるから」と伝えた。

 この詩の中で雲は母に例えられている。青い空に白い雲はよく映えて、よく見える。自分が亡くなっても空を見ればあなた(青年)を見守っている自分がいるという母の温かい思いがこの詩にはこもっていたのだ。

 クラスの中からは、幼かったから母を守れなかったと悔やむ青年に「親孝行をしてるよ」、あるいは「僕は僕の(自分の)お母さんを知りません。でもこれを読んだら会える気がしました」と、心を閉ざしていたはずのクラスの仲間から温かい声が湧いたそうだ。

 寮先生の講義を通して、一人として変わらなかった人はいないという。詩で表現することにより、こんなにも大きな影響を及ぼすとは誰も思わなかったに違いない。

 詩は言葉のデザイン。社会を変える力か?という問いに今の私なら迷わず「YES」と答えたい。

 (和田周子)

来場者の反応

 寮さんの話を聞いた来場者の一人は「状況がつかみやすかった。また、(受刑者の青年たちが、家庭内などの周りの環境によって自らの)心を閉ざしてしまったのは、自分にも置き換えられうる話だし、他人事ではない」と話していた。

 坂本さんの話を聞いた来場者は「障害がありながら、それを受け入れて生きている事実に泣いてしまいました」と話した。 登壇者たちの話は参加した学生らの心を深く打った。

意外な有名人からのいいね

 ゼミ生である西村君がこのシンポジウムの告知をフェイスブックで行ったところ、元サッカー日本代表監督である岡田武史氏から『いいね』がきた。運営側としてはとてもうれしい反応である。

寮美千子さんとのコンタクト

 寮さんに登壇していただくため、コンタクトを取り続けていたのは主にゼミ生の丸井さん。班で寮さんの本を読んで感動と衝撃を受けたという。

「有名な詩人にご登壇をお願いして、返事が返ってくるか不安でしたよ。それはもうドキドキしました」と話す彼女はどこか照れくさそうな、それでいて誇らしげな表情をしていた。

中央大学政策文化総合研究所シンポジウム
詩はことばのデザイン 社会を変える力か?
挨拶
中島康予法学部長
土田哲夫政策文化総合研究所所長
第1部
◇ウエルカムソング
「希望の歌」 茨木大光 (シンガーソングライター)
◇基調講演
詩は世界を変革できるか  金準泰(詩人)
水俣~いのちの岸辺から~  坂本直充(詩人)
第2部
◇報告
詩が開いた心の扉 奈良少年刑務所での奇跡 寮美千子(作家)
文炳蘭(ムン・ピョンラン)の文学とその時代  金正勲(全南科学大学副教授)
日韓現代詩の社会性  佐川亜紀(詩人)
韓国における同性愛者の現状~ユン・ヒョンソクの詩と死がもたらしたもの~
 力丸祥子(法学部准教授)
詩と絵のコラボレーション 小林未央(デザイナー)
コメント
大田美和(歌人、研究者)
細谷孝(倫理学者)
八木幹夫(詩人)
佐川亜紀

司会
広岡守穂(法学部教授)