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佐々木 信夫

佐々木 信夫 【略歴

都知事選、統一地方選を診る

佐々木 信夫/中央大学経済学部教授
専門分野 行政学、地方自治論

民主党政治―評価されず

 民主党政権下での初の統一地方選。多くの都道府県、市区町村で首長、議員選挙が行われている。ただ4年に一度巡りくる地方選とはいえ、今回は民主党政治が掲げる生活者起点、ソフト重視の政策が地域レベルでどこまで評価されるか注目された。

 残念ながら、未曾有の大震災という異常な要因を除いても、その評価は芳しくなかった。事実、民主党は41道府県の議員選挙で議席を減らし、12の知事選では無風選挙地域を除き、推薦候補全てが惨敗した。来週、24日には後半の市区町村選が控えるので総括はできないが、この傾向は変わるまい。

史上最低の投票率

 大震災に伴う自粛ムードでの選挙戦だっただけに、震災復興、防災、原発問題のみがクローズアップされ、本来問われるべき地域主権のあり方や少子高齢化対策、くらしや雇用、地域活性化への対応は置き去りにされた。

 そうしたことも影響し、道府県議選の投票率は戦後最低の48%に。埼玉などは40%を割り込んだ。12知事選挙も現職有利の社会情勢から新人の当選は3名のみ。石原慎太郎四選をはじめ9名が現職の再任となった。

 今回の地方選には3つの特徴がみえる。第1に大震災で住民の連携や自治体の役割が見直されたものの、選挙モードに切り替わらず、殆ど論戦がなかったこと。第2に知事選は現職対共産候補といった無風の構図が多く、初めから結果が透けてみえたこと。第3に41道府県議選のうち34県で史上最低の投票率を記録し、無投票当選の選挙区も相当数あったことだ。根幹に「議会不信」があろうが、これを機に本当に議会は必要か、議員報酬、定数問題を含め「そもそも」論の浮上する可能性が高い。

都知事選―なぜ石原4選か

 そうした中、都知事選が注目を集めた。当初、投票率の大幅低下も予想されたが、予想に反し57.8%とこの20年間の都知事選で最高位に近い投票率となった(表参照)。大震災に対する危機感から有権者が真剣にリーダー選びを求めた結果だろう。高齢・多選批判もあった石原慎太郎だが261万票を獲得し、大勝した。

 最近の都知事選挙(90年代以降)

 もとより、これも3.11の大震災を機に投票心理に大きな変化が生まれた結果だろう。四選不出馬説が強かった石原が東国原前宮崎知事ら他候補の顔ぶれが揃ったところで前言を翻し、突然四選出馬へ踏み切った。都議会最終日、出馬宣言をした二十分後、大地震が襲ったのだ。

 松澤神奈川知事を後継指名したかに見えた選挙戦の入り方、後だしジャンケン、権謀術数など石原のやり方に批判が付きまとうが、大地震、大津波、原発事故と国難と思える未曾有の惨状を目の当たりに、有権者は強いリーダーに頼る傾向を強めた。それが「同じことをやるだけ」と新鮮味に欠ける石原に賭ける結果につながった。

 今回の都知事選を評価するなら、当面の震災対策一色から「争点なき選挙」となり、人物本位の「イメージ選挙」に終わったことだ。そうした政治状況を生んだ最大の要因は政権与党の民主党にある。首都決戦で「もう一人の首相」ともいえる都知事選びに不戦敗を決め込んだことだ。

 しかも、大震災の対応にオロオロする国政の混乱ぶりが反射的効果となり、はっきりモノをいう、ワンマンの指揮官・石原慎太郎をクローズアップさせる格好になった。

 現在、日本の47知事の6割は中堅官僚出身。年齢も40~50代と若い。その点、まもなく80歳になろうとする石原は実績があるとはいえ、異色な存在。「知事の中の知事」、「首相より強い権力者」とされる都知事ポストに老練の政治家を据えざるをえない日本。国政を含めこうした政治リーダー不毛の状況が国際社会にどう映るのか。

都政の今後―パラダイム転換へ

 とはいえ、石原都知事を四選した以上、都政に大いに頑張ってもらう必要がある。国内総生産(GDP)の2割、国税収入の4割を占める東京の経済がダウンすると、国家的危機に直結する。「東京から日本を救う」を公約した石原には、副総理格で入閣し手形落としを図って欲しい。

 課題の第1は、東京の持つ力を被災四県の復興支援に最大限向けることだ。東京の危機克服は被災地の1日も早い復興と表裏の関係にある。とするなら五輪招致などやめ4千億円の基金を復旧支援に投じても惜しくはない。

 第2は、東京自身の震災、防災対策の強化だ。マグニチュード7想定の現行防災計画は10レベルの想定に切り替え大震災対策に大幅変更すること。ビルなど震災基準の見直し、道路網の再整備、歩道橋の撤去、帰宅難民対策、電力・通信施設の強化、水・食糧の備蓄、医療・救急体制の見直し、防災訓練、避難経路、地域防災などハード、ソフト全ての面で政策見直しが不可欠である。

 そのうえ第3に、東京の社会構造の変化、とりわけ急速な高齢化への対応も待ったなしだ。医療、福祉、介護などの高齢対策需要は爆発的に増える。この12年間の石原都政はこの面がやや手薄だった。「同じことをやるだけ」ではダメ。大都市経営の視点から1都3県の連携強化を図る。その上で高齢対策、景気・雇用対策、国際戦略など政策のパラダイム転換を図ることである。

 今回、多くの若者は東国原氏を支持した。その政策も組み込む形で、夢のある東京づくりに全力投球すべきだ。<石原の「最後のご奉公」>は東京の再生にある。

佐々木 信夫(ささき・のぶお)/中央大学経済学部教授
専門分野 行政学、地方自治論
1948年岩手県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了、法学博士(慶應義塾大学)。
東京都庁勤務を経て89年聖学院大学教授、94年から中央大学教授。財団法人日本自治創造学会会長、日本学術会議連携会員(政治学)。NHKTVの「視点論点」や東京MXTVのニュース解説など担当。最近の著書に『都知事』『道州制』『地方議員』『現代地方自治』『自治体をどう変えるか』など。新聞、雑誌にも多く登場し、わかりやすい講演には定評がある。