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佐々木 信夫

佐々木 信夫 【略歴

大都市改革のゆくえ―大阪都構想

佐々木 信夫/中央大学経済学部教授
専門分野 政治学

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もはや大都市は豊かでない

 これまで“大都市は豊かである”とみられてきた。日本の政治も農村過剰代表制といわれるように、地方都市や農村に目配りすることには熱心だったが、大都市の政策には冷淡だった。事実、東京圏は誰が責任を負っているか、電力はじめエネルギー政策一つとっても見えない。ある意味、大都市圏はマネージャーなき、公共ガバナンスの欠けた状態にある。

 「豊かだ」という幻影から大都市政策を放棄し、大都市制度にも無関心であったことが、じつは今、壮大なムダを生み大きなツケとなって、日本危機の引き金を引いている。戦後、東京や大阪など大都市で急整備された上下水、道路、地下鉄などの社会インフラは一斉に更新期を迎え、膨大な投資を要する状況にある。一方、大都市は何でも受け入れると考えてきたものが一転し、今や少子高齢化のルツボであり、非正規労働者が増大し生活保護も急増中である。かつてニューヨーク、ロンドンが味わった「大都市の衰退」が現実味を帯びてきた。にもかかわらず、依然として、日本の政治は大都市への危機意識が乏しい。未だ成長の牽引力と思っている。だが現実は違う。特に衰退が顕著な大阪などは問題が深刻である。

動き出した大阪都構想

 国が変わらないなら、地方から変わろう―昨年の大阪ダブル選挙の結果を受け、大都市大阪の経営合理化をめざす「大阪都構想」が実現に向け動き出した。この構想は、大阪の地盤沈下を食い止め競争力の強い大都市をつくる、そのため大阪府と大阪市を一旦廃止し、新たに「都制」へ移行するなど、様々な改革戦略を実行することで大阪の活性化を図ろうというものだ。

 確かに、これまで大阪の司令塔はみえなかった。中心地域は大阪市政が握っており、広域行政を担う大阪府政といえども事実上大阪市域には手を出せない。同じエリアに府、市立の施設が林立しサービスの重複化も目立った。それ以上に膨大な官僚機構の大阪市と大阪府という統治機構が並存し、大阪百年戦争とも言われ、相互に軋轢が生まれ壮大なムダを食んできた。これを大胆にスリム化し大阪都に一本化するなら司令塔は明確になる。結果、強い大阪が生まれるなら東京一極集中も緩和することになる。

未完の大都市制度―その現状

 もとより、これに対する見方は一様ではない。大阪都構想を単なる政治ショーとみる人もいる。制度改革をしても大都市再生につながらないという見方もある。しかし、根はもっと深く日本の統治機構そのものにある。

 日本には大都市を特例的に扱う制度が2系統ある。1つは70万以上の市を府県並みに扱う政令市制度であり、もう1つは都制度である。

 ただ、いずれも「大都市制度」と呼ぶには不完全な制度であり、大都市に大幅な裁量を与えてはいない。政令市は市町村の「大都市特例」として個別法で業務を特例的に移管しているにすぎず、都制度も府県に当たる都が上下水、消防、交通など市町村業務を一部担い、基礎自治体の税源である固定資産税等を都が集め、その財源で特別区間の財政調整を図るなど、特別区を内部団体的に扱う集権的、変則的な自治制度となっている。

 この制度改革は待ったなしだが、国は動こうとしない。しからば、現実的に政令市、都制度のいずれを選択し改革するのがよいか。それは目的による。2~300万規模の大政令市と府県との2元行政、2重行政は目に余る。そうした地域は、都制度の方がよいのではないか。特別区の自治権が弱いといった問題はあるが、大都市経営の主体として一体性を確保し、強い大都市行政を展開できる可能性は高いからだ。大阪都構想の着眼点もそこにあろう。

大阪都構想実現のカギは何か

 世の中には「都」制というのは、首都のみの制度で他は使えないという人もいる。だが現行法体系はそうなっていない。東京以外に大阪都、中京都ができることを否定はしていない。問題は大阪都創設の際、住民自治を強化する特別自治区の体制と、大都市の一体性を確保し強いリーダーシップを発揮できる広域体制をどう両立させられるか。ここが構想の成否を握る。大阪府全域ではなく大都市区域に限定して、ドイツの都市州のように州(府県)から独立し、その区域に法人格をもつ区や郡を抱える都市州タイプの選択もあろうが、今回、大阪は府域で、東京都を参考に8~9特別区と市町村が並存するニュー大阪都を目指す方向という。

―橋下市長から特別顧問を委嘱―

 筆者は現在、大阪市特別顧問を委嘱され、大阪都構想の核心をなす新たな自治制度づくりに関わっている。ただ、大阪府と大阪市を廃止し、都区制度の創設を3年程度で実現しようという話はそう簡単ではない。戦時体制で東京府、東京市を政府の手で合体し、「東京都」制が生まれた歴史以外ない。現在の大阪市24行政区を8つの特別自治区に再編し、そこに公選首長、議会を有する基礎自治体をつくる。それには、府・市内部の業務入れ替え、職員の身分移管など行政上の膨大な調整はもとより、大阪都移行へ両議会が議決、国会が関連法可決、住民投票で過半数同意という、幾つもの政治的ハードルが待っている。国政が長らく放置してきた大都市制度の矛盾を、地方が自力で解決していく道のりは遠く重い。

 とはいえ、このままでは大都市は衰退する。地域主権の国づくりは地域の自己決定・自己責任が原則。その点、大阪はこれからの日本改革の実験場になる。「決められない政治」が続く国政と一線を画し、自力で新たな大都市制度を創ることができるなら、改革の波は各地に及び、日本再生の切り札となっていこう。大都市再生をどう図るか、日本はいま大きな岐路に立っている。

佐々木 信夫(ささき・のぶお)/中央大学経済学部教授
専門分野 政治学
1948年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了、法学博士(慶應義塾大学)。東京都庁勤務を経て、89年聖学院大学教授、94年から中央大学教授。専攻は都市行政学。日本自治創造学会会長、日本学術会議会員(政治学)、東京MXTVのニュース解説者など兼任。2012年2月から大阪市特別顧問。著書に『都知事』(中公新書)、『道州制』(ちくま新書)、『地方議員』(PHP新書)、『都市行政学研究』(勁草書房)など。日本都市学会賞、NHK地域放送文化賞受賞。