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小町 裕志

小町 裕志 【略歴

日本は結核の中蔓延国

小町 裕志/中央大学保健センター所長・東京医科歯科大学医学部臨床教授
専門分野 内科・神経内科(脳卒中、認知症、パーキンソン病など)

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はじめに

 我が国は、かつて肺結核の蔓延国であった。昭和25年の人口10万人あたりの結核死亡率は146.4、死亡順位は第1位で、「死の病」として恐れられていた。それから60年以上を経た現在、平成25年の死亡率は1.7にまで減少し、死亡順位は26位となっている。これには、抗結核薬の発見・開発および治療についての標準化の確立が大きな役割を果たしてきた。

 とはいえ、ときどき学校や病院などで結核の集団感染が生じ、注目を集めている。

結核の起源

 結核菌の全ゲノム配列の解析から、その祖先は約250万年前まで遡るが、人体内に適応した菌の出現はおよそ3万5千年前と考えられ、他の多くの細菌の中では比較的新しい菌とされている。現在、遺伝子レベルで確認された最古の結核は9,000年前の人骨にあり、この頃はまだ散発的な家族内感染と考えられているが、その後のメソポタミア文明の発現で、都市の形成が生じて人口密度が増加し、急激な感染の拡大が生じたと考えられている。それよりやや遅れてエジプトでも都市文明が発達したが、ここでは結核がかなり蔓延していたと推定される報告がある。結核の流行には人口増加が深く関連していると考えられ、最近1,000年間のヨーロッパや東アジアでの急激な人口増加とともに、結核菌の変異による感染性の増強もあって、世界に拡大していったと推定されている。

日本における肺結核

 結核の患者数の推移を見てみると、戦後昭和55年頃まで大きく減少し続け、結核の流行は終わったと言われるほどになったが、その後、減少の勾配は緩くなり、平成8年頃には罹患率は増加に転じ、以後3年間は上昇を続けた。平成9年には約4万2千人の新規結核患者が発生し、約2,700人が結核で死亡している。新規結核患者数としては38年ぶりに、罹患率としては43年ぶりに増加に転じたため、これを重くみた厚生省(当時)は、平成11年に結核緊急事態宣言を発令し、国を挙げて結核の再認識と対策に取り組んだ。その結果、罹患率は再び減少傾向を示しながら、現在に至っている。

日本は結核の中蔓延国

 結核の罹患率はこのように減少傾向ではあるが、平成25年に新たに結核に罹患した数、すなわち新登録結核患者数は2万人以上にのぼり、人口10万人あたりの新登録患者の罹患率は16.1となっている。この数値は、米国3.1、カナダ4.7、オランダ5.5、スウェーデン5.9(いずれも平成24年)であるから、我が国は未だに結核の中蔓延国に位置づけれられている。ちなみに、韓国は89,中国は65、フィリピン224、タイ89で、ボツワナ307、ザンビア289、タンザニア120であり、日本以外の東南アジアとアフリカなどではまだまだ蔓延している。

 世界的には、平成24年のWHOの統計によると、年間に860万人が新規に結核を発症し、130万人が結核で死亡しており、現在でも世界最大の感染症のひとつである。これには、エイズ合併結核や多剤耐性結核が関連していると考えられる。

結核患者の年齢分布

 さて、国内では、新登録結核患者の70%以上を60歳以上の患者が占め、70歳以上の高齢者が占める割合は57.4%にまで登っている。とくに、80歳以上の結核患者は全結核患者の3人に1人以上を占めている。このような高齢の結核患者の大半は、若年時に感染した結核菌が休眠状態のまま体内に残り、何十年も経た後に糖尿病や癌に罹患したり、あるいは免疫抑制剤による治療や加齢などにより、免疫力が低下し、再び活性化して発症するとされている。現在のところ、高齢者が占めるこの割合はさらに増加すると予測されるが、戦後、生活環境の改善や医療の進歩に伴って結核罹患率が大きく減少していることから、必ずしも増加し続けるとは思われない。

 一方、若年層では外国出生者の新登録結核患者の割合が多いのが特徴である。平成25年の統計では、外国生まれの結核患者の占める割合は、全体の5.2%であるが、20歳代をみると41.3%となっている。平成21年には25.1%であったことから、この数年で急増していることがわかる。現代社会の各方面でグローバル化が進む昨今、注意が必要である。

肺結核の感染と発病

 結核に罹患し咳とともに結核菌を体外に排出することを排菌という。結核患者から咳とともに体外に出て空気中に拡散した結核菌を吸い込むと感染の可能性が生じる。しかし、多くの場合、結核菌は鼻や喉の粘膜で捉えられ、増殖する前に処理されて排出され、感染には至らない。吸い込んだ量や回数が多いと、粘膜で捉えられずに肺の一番奥の肺胞にまで菌が到達することがあり、この状態を感染という。しかし、感染が生じても、必ずしも発病するわけではない。免疫の働きによって結核菌は肺胞の中に封じ込められて休眠状態となり、感染者の90%はこのまま生涯発病せずに終わる。6〜7%の感染者は、数ヵ月から2年程度の間に、結核菌が免疫力に打ち勝って増殖し発病する。残り3〜4%の感染者は、前述した高齢者になってから発病するタイプとなる。

肺結核の診断と治療

 二週間以上持続する咳と痰、発熱がある場合には、医療機関を受診し、必要に応じて胸部X線検査や胸部CT検査で病巣の有無を確認する。喀痰の顕微鏡検査で結核菌を検出した場合は、結核菌の排菌状態にあり、周囲への感染拡大の危険がある。さらに、結核菌の核酸を増幅して検出するPCR法により確定診断を行う。

 また、結核菌に対する免疫応答が生じているかが診断の一助となる。以前はツベルクリン反応で行っていたが、近年インターフェロンγ遊離試験(QFTおよびT-spot)が開発され、採血によって検査が可能なため普及している。これは、結核に罹患すると結核菌に特異的な免疫細胞が血液中に出現し、インターフェロンγを産生することを利用した検査である。結核の発病者が見出され、集団感染の危険性がある場合に行われる接触者健診でも用いられる。

 排菌している場合は、直ちに入院治療が必要となるが、治療により排菌が認められなくなり、全身状態が良ければ、外来通院治療が可能となる。治療は、抗結核剤に対して耐性を持つ結核菌の存在および耐性化防止を考慮して、複数の抗結核剤を併用し、6ヵ月の内服治療期間が必要となる。

感染・発病予防には

 結核の感染は、人から人への飛沫核感染(空気感染)で生じる。したがって、狭い空間で長時間空気を共有することで集団感染が発生する。集団感染の40%は会社や工場等の職場、30%が病院などの医療機関、10%が学校や塾で起きている。学校で教員が結核に罹患し生徒に集団感染した例や、病院で医療従事者が結核に罹患し患者に感染拡大した例も報道されている。普段からの自己の体調管理と、長引く咳や痰があったら医療機関を受診すること、定期健康診断を毎年受けることが、感染および発病の予防に重要である。

参考資料

厚生労働省:平成25年結核登録者情報調査年報集計結果
結核研究所疫学情報センター:2013年結核年報速報. 2014.7
岩井ら:結核菌と結核症の考古学. Kekkaku. 2010;85(5):465-475.

小町 裕志(こまち・ひろし)/中央大学保健センター所長・東京医科歯科大学医学部臨床教授
専門分野 内科・神経内科(脳卒中、認知症、パーキンソン病など)
東京都出身。1953年生まれ。信州大学医学部卒業。1995年東京医科歯科大学医学部大学院医学研究科神経内科学専攻博士課程修了。医学博士。日本神経学会専門医・指導医。産業医。
東京医科歯科大学医学部付属病院神経内科、旭中央病院内科、都立駒込病院神経内科、柏市立病院内科勤務、1997年国立病院東京災害医療センター神経内科医長、2005年独立行政法人国立病院機構災害医療センター内科系病棟部長を経て、2009年7月より現職。アルツハイマー型認知症の基礎研究後、神経内科疾患全般の診療に広く携わっている。