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村上 研一

村上 研一 【略歴

貿易赤字から日本産業の課題を考える

村上 研一/中央大学商学部准教授
専門分野 経済理論、日本経済・産業論

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(1)日本経済と貿易赤字

 東日本大震災が発生した2011年、日本経済は31年ぶりの貿易赤字2兆5,647億円に陥った。外需依存的成長が続いていた07年には10兆7,955億円の黒字を記録していたが、リーマンショックを経た10年の黒字は6兆6,347億円に減少、上記の11年の赤字転落を経て13年には赤字額が11兆4,684億円へと急増した。

 輸出額は2010年67兆3,996億円→11年65兆5,465億円→12年63兆4,946億円→13年69兆7,742億円と横ばい傾向の一方、輸入額は同期間に60兆7,650億円→68兆1,112億円→70兆6,886億円→81兆2,426億円と増大した。この間の輸入増大に対する品目別寄与率は、原油23.9%(輸入増加率46.0%)、LNG18.7%(同98.9%)、電気機械11.2%(同25.6%)の順で高いが、原油およびLNGの輸入数量増加率は-1.5%および24.0%に過ぎず、円安を一因とする価格上昇の影響が大きい。輸入額が急増した12年から13年にかけては円安が進んでおり、むしろ円安にもかかわらず輸出の伸びが小さい点、とくに輸出産業の競争力低下が影響したものと捉えられる。

(2)輸出低迷の内実

 財務省「貿易統計」から電機関連の品目別貿易収支と貿易特化係数の動向を検討すると、電気機械全体の貿易黒字が2010年4兆5,494億円(貿易特化係数21.92、以下同様)→11年3兆6,112億円(18.44)→12年2兆9,673億円(14.95)→13年1兆7,441億円(7.80)と急減している。品目別には、2000年代から貿易赤字に陥っていたAV機器が13年に5,092億円(-27.35)、貿易統計では電気機械に含まれないコンピュータ・同部品も同年に8,584億円(-21.55)と大きな赤字額を計上している。さらに近年では通信機器の貿易赤字が、スマートフォンの普及と並行して10年6,409億円(-38.78)→11年1兆576億円(-56.88)→12年1兆6,776億円(-67.83)→13年2兆1,471億円(-74.23)と、入超幅を拡大しながら急増している。さらに最近では電子部品の貿易黒字(貿易特化係数)が11年1兆8,025億円(33.84)→12年1兆5,602億円(30.48)→13年1兆1,074億円(18.46)と減退しているが、スマホ部品分野で急速にシェアを拡大している台湾企業をはじめとする海外製品に押され、電子部品分野でも貿易黒字を稼げなくなっていることを示している。このように、既に競争力を失っていたテレビ、パソコンに続き、近年ではスマホ、電子部品の分野でも日本電機産業の競争力低下が鮮明になっている。

 他方、貿易収支・同特化係数の落ち込みが小さく、国際競争力を維持している自動車産業では、国内生産台数が2008年1,158万台からリーマンショック後の09年793万台に減退した後、10年963万台へと回復したが、以後は横ばい傾向となり13年963万台である。10年以後、輸出台数は10年484万台から13年468万台へ減少しているが、輸出額は10年8兆2042億円から13年10兆4,142億円へ13.5%増加しており、輸出の高級車シフトが明瞭である。他方、日本メーカーの海外生産台数は10年1,318万台から13年1,676万台へ27.1%増加しているものの、自動車部品輸出額は10年3兆833億円から13年3兆4,762億円へ12.7%の増大に過ぎず、海外生産と国内部品供給との関連の希薄化、すなわち完成車メーカーの海外部品調達とこれに呼応した日本部品メーカーの海外展開による生産基盤の空洞化の進展を反映している。この点に関して、国内大手自動車メーカー関連の第一次下請企業への聞き取りでは、12年以降には親メーカーが海外で生産する部品・部材は自社の海外工場から供給する体制を完成させたとのことであった。なお、トヨタ自動車は13年11月、中国市場向けハイブリッド車の生産体制について、基幹部品を日本から持ち込む方式から、中国国内で開発、部品調達、生産を行う体制へ改める方針を発表した。このように、日本企業が国際競争力を維持している自動車産業でも、サプライチェーンごと移転した海外拠点で生産を拡大させる体制が築かれ、国内への生産・雇用の波及効果が弱まっている現状が明らかである。なお、同じく国際競争力を維持している産業用機械を中心とする一般機械産業でも同様な生産拠点の海外移転の動きが見られる。

(3)貿易収支均衡と日本産業の課題

 日本が輸出拡大に支えられながら「経済大国」化を達成した1970年代後半および80年代前半には、輸出総額の増加に対する電機・自動車両産業合計の寄与率は約80%に達していた。国内生産拠点を拡張した両産業は、部品・部材供給の産業連関を通じて国内に生産・雇用の拡大を実現し、国内市場・経済規模の拡大をもたらした。

 米国のような基軸通貨国でなく、しかも大量の国債消化が必要な財政状態、また食糧やエネルギーを輸入に頼っている現状を踏まえると、わが国の貿易赤字の拡大・継続は放置できない。食糧・エネルギー・粗原料を輸入に頼りつつ、これら品目での貿易赤字を、電機・自動車両産業を中心とする輸出産業の稼ぐ黒字で穴埋め、ないし上記赤字を上回る貿易黒字を達成してきた従来の構造はもはや持続不可能な状態にある。同時に、依然として国際競争力を保持する生産能力を国内に抱えつつも、輸出産業の生産拠点の海外展開が国内生産・雇用の縮小を招き、国内市場の縮小、内需型産業の売上げ減退を通じて、日本経済の深刻な停滞をもたらしている。

 こうした現状の打開に関して、国際収支均衡の観点から考察してみたい。生産と企業活動のグローバル化が進展している今日、上記の現実に直面する電機・自動車両産業の動向を踏まえると、輸出産業による貿易黒字拡大を追及するだけでは事態の改善は望めないだろう。むしろ、貿易黒字に頼らずに収支均衡をはかる観点から、輸入の抑制をはかる方策、すなわち、従来は輸入に頼ってきた食糧・エネルギー・粗原料について国内生産の拡充にむけた取り組みが必要であると考える。具体的には、これまでは輸出産業の競争力に結実していた国内生産能力を、食糧生産や再生可能エネルギー活用技術、リサイクルを含む素材開発へとつなげられるような産業の再編とそれに向けた政策的支援が求められる。

<参考文献>
拙著『現代日本再生産構造分析』日本経済評論社、2013年
拙稿「外需依存的成長の限界と転換の課題」(『経済』2014年3月号)
村上 研一(むらかみ・けんいち)/中央大学商学部准教授
専門分野:経済理論、日本経済・産業論
神奈川県出身。1972年生まれ。
1996年横浜国立大学経済学部卒業。
1997年から横浜市立高等学校教諭(商業科、地歴・公民科)。
2008年関東学院大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。
2008年から都留文科大学社会学科専任講師・准教授。
2013年から中央大学商学部准教授(現在に至る)。
現在の研究課題は、再生産(表式)論および生産的労働論の展開と、これら理論的視角に基づいた日本経済・現代資本主義の実証分析。理論的視角と現実の産業動向を関連づけて研究している。