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杉浦 宣彦

杉浦 宣彦 【略歴

農協改革を考える
-真の農業改革の必要性と農協の将来

杉浦 宣彦/中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
専門分野 金融法、IT法

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JA改革の背景・内容と現実

 本年2月9日に政府・自民党は、全国農業協同組合中央会(JA全中)の一般社団法人化を柱とする農協改革案をまとめ、来月上旬にも関連法案を国会に提出される予定です。この動きはマスコミ等で大きく取り上げられましたが、農協はよく耳にする団体であるにも関わらず、具体的にどのような組織になっているのかはあまり知られていません。農協とはどのような組織で、農協改革とはどのようなことを目指しているのでしょうか。

 農業協同組合(JA)は、農業従事者や農業を営む法人によって組織された協同組合です。全国各地にある農協を取りまとめる中央組織として、全国農業協同組合中央会(JA全中)が存在し、グループ全体の方向性の決定や指導などを行ってきました。また農産物の集荷や販売を一手に担う全国農業協同組合連合会(JA全農)や生命保険や損害保険のサービスを提供する全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)などの組織もあります。(他に農林中金もありますが、こちらはJAだけでなく、漁協や森林組合といった農林水産業の協同組織の金融の円滑化のための組織です。)

 JAはもともと農業従事者(正組合員)のために設立された組織ですが、今では1万人以上の従業員を抱える巨大組織で、全農は日本で最大級の農業関連商社として、また、JA共済連は大規模な生損保会社ととらえることも可能で、今回まとめられた改革案で最も変わるであろうJA全中は、いわばJAグループのための経団連とでもいうべき存在といえます。

 JA組織は、中小規模の農家が多いわが国で、農家が農作物を納めていれば、確実に代金を回収できる仕組みを構築し、また、農家が農機具を購入する場合でも、資金的に困難であれば、金融機関としての役割を生かし、農家への融資のサービスを提供するなどして、これまで日本の農業の維持・発展に寄与してきましたが、農業人口の減少・高齢化、食料輸入自由化等に伴う価格競争等、様々な理由で日本の農業が衰退するなか、正組合員より農業従事者ではない准組合員のほうが多くなり、JAの事業も営農事業から信用事業に重点が移ってきたという現実があります。

 今回、政府は、「地域JAに指導権を持つJA全中の影響力を抑え、地域JAに自由裁量を与えれば、農家の所得増につながる。」という論理のもと、農協改革案の中身として、JA全中の機能を中心に図のような3つの主要ポイントでの改革を行うことを決めています。

 しかし、JA全中の監査権が監査機構に移管される話を含めて、今回の論理とその内容は現実とはやや乖離しています。JA全中は内部組織的に既に監査分野を分離し、監査機構は組織的にもほぼ独立した状況になっています。監査を受けたJAは機構の監査結果に基づき自主的に対応しており、監査をバックにしたJA全中の「指導」により、地方JAの独自性が格別しばられているわけではありません。また、最近では、様々な農作物のブランド化等の動きでもわかるように、各JA自身の自己改革も進んできており、流通業との提携や海外への農産物の積極的な輸出等にまで乗り出しているJAもいくつも地方には存在します。そのような中、JA全中の役割もこの10年で指導を行う団体から意見を集約する業界団体へと変化しており、どの業界にも業界団体があることを考えると、一般社団法人化したからといって、JA全中の役割が現状と大きく変わるかは疑問です。さらに、今回は、JA全中の組織に関する部分が改正の主要項目であり、地域の農協制度への影響は限定的で、本来同時並行して検討されるべき効果的な農業政策は未だ見えておらず、岩盤規制を所管している農水省ではなく、非難の矛先を農協組織に挿げ替えた今回の改革が具体的に農業改革へのどのようなインパクトがあるかは不透明です。

 では、今回の農協改革はどのような意味があったのでしょう?おそらく、安倍首相にとって、アベノミクスの成功事例として今回のJA改革を打ち出し、その中身よりは、「(農協改革を含めた)改革を断行するリーダー」というイメージ確保という政治的理由があったと推測しますが、上述の状況からすれば、これまでアンタッチャブルだった農協法改正を行う方針を決めることで、自主改革に積極的でなかった一部のJAに刺激を与えたという点くらいが効果的だったと言えるのかもしれません。

真の改革(農業改革)と農協の将来

 いずれにせよ、農業の6次産業化を目指すならばまず、改革しなければならないことはもっと別なことであることは明らかです。すでに以前の食管制度こそなくなっていますが、米価も含め、現在もある様々な価格調整制度をどうしていくかは、関税の問題とともにTPP交渉をめぐる焦点の一つですし、農家の最低限の収入保障をどうするかという問題でもあります。また、高齢化が進む中、耕作放棄を防ぐためにも農地をどのように円滑に信託等の手段を活用しながら譲渡を進め、農業の規模拡大を行うのかも効率的な農業経営を行う上で重要ですが、まだ、農業委員会制度の部分的な変革などにとどまり、決定的な政策を打ち出せていないように見受けられます。

 海外にメーカーが生産拠点を移していく中、地域JAは、その地域出身の経営や農業技術を大学等で学んだ有為な若者の有力な就職先となっており、若い世代を取り込みながら、経営感覚を持った儲かる農業を広め、様々な企業等と連携した、地域再生の拠点となれる可能性を持っており、既にその動きも始まっています。企業の農業への参入も刺激剤とはなりますが、やはり地域を知り尽くしたJAが多くの農家を取り込みながら、6次産業化を進め、企業と競争しながら発展していくことが、日本農業の復活の近道であるように思います。今回の農協法改正への疑問を本稿では述べてきましたが、農業改革のためには農協自身も大きく変わっていかなければならない点は著者も意を同じくするところです。

 また、准組合員の利用制限の部分は、当面現状維持となりましたが、特にJAの金融部門である信用事業については今後も検討が必要です。農地がほとんどなく、信用事業から収益の大半を挙げている都市型JAがそもそもJAであるべきかという議論もありますし、また大都市郊外・地方では、撤退した地方金融機関の代わりに一般消費者に金融サービスを幅広く提供し、地域金融の一翼を担っているという実態もあります。地域の金融プロがJAで育ってきている現状からすれば、農林中金等に統合すれば論は暴論で、地域金融機関としてのあり方が今の形態でいいのかという根本的な部分から議論されるべきでしょう。

 小職が座長を務めるJAグループの自己改革に関する有識者会議では今後も地域活性化の視点も踏まえた様々な提案をJAに対して行っていきます。農協改革、ついては日本の農業の改革は皆さんの食の問題ともつながっています。今後も広く、この問題に関心を持ち続けていただければと思います。

杉浦 宣彦(すぎうら・のぶひこ)/中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
専門分野 金融法、IT法
1966年生まれ。1989年中央大学法学部卒。同年、香港上海銀行へ入行。その後、金融庁金融研究センター研究官、JPモルガン証券シニアリーガルアドバイザーを経て、2008年より現職。金融機関勤務の傍ら中央大学大学院で学び、2004年法学研究科博士後期課程民事法専攻修了。博士(法学)。専門は、金融法、IT法、企業コンプライアンス論。特に電子金融取引関連の法制度を得意としており、ここ数年、金融庁が推進する電子記録債権制度の海外導入に関する研究・調査にも従事している。他に内閣府多重債務問題及び消費者向け金融等に関する懇談会メンバー、OpenIDファウンデーションジャパン・アドバイザー、日本資金決済業協会特別理事、JAグループの自己改革に関する有識者会議座長、株式会社サンドラッグ社外取締役。著書(共著を含む)に『決済サービスのイノベーション』(ダイヤモンド社、2010年)、『モバイルバリュービジネス』(中央経済社、2008年)、『リテール金融のイノベーション 』(きんざい、2013年)、『サイバーセキュリティ』(NTT出版、2014年)などがある。