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山﨑 朗

山﨑 朗 【略歴

地域創生のデザイン

山﨑 朗/中央大学経済学部教授
専門分野 産業経済論、経済地理学

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 2015年5月に、中央経済社から、山﨑朗編著『地域創生のデザイン』を出版します。

 本のタイトルを「地方創生」ではなく、「地域創生」としているのは、東京や大阪などの大都市圏における課題もテーマにしているからです。今回は、そのなかから、とくに重要なテーマについてお話したいと思います。

豊かさのパラドックス

 2060年の日本の人口は、8,774万人になると想定されています。2004年のピークと比較すると、4,110万人の減少となります。

 日本の人口は減少したとしても、1人当たりGDPが上昇すれば、日本人の豊かさは、維持できるという考えもあります。しかし、地域の消費水準がサービス業存立の水準を下回ると、銀行、コンビニ、スーパー、ガソリンスタンド、病院、学校は閉鎖されていきます。地域内でのサービスは、高次なサービス機能から消滅していきます。これが、「豊かさのパラドックス」です。

出生率が上昇する都心

 2013年、港区、中央区、千代田区の都心3区の出生率は、東京23区の出生率を上回りました。地価の下落を契機とした、人口の都心回帰、臨海部や社宅・工場跡地でのマンションの建設、自治体や民間企業による保育所の開設の効果もあり、千代田区の出生率上昇率は、23区中トップの対前年比0.21ポイントアップの、1.15となりました。低いように思われるかもしれませんが、札幌市の1.09よりも高くなったのです。

 地方自治体に財政力があり、子育て支援に積極的な大企業の事業所が集積している大都市圏の出生率は、今後上昇する可能性があります。

東北・北海道の危機

 出生率の高い県は、1位沖縄県1.94、2位宮崎県1.72、3位島根県1.65、4位長崎県1.64です(2013年)。すべて西日本の県です。それに対して、北海道の1.26は、神奈川県よりも低く、宮城県1.34、秋田県1.35は、千葉県とほぼ同じです。

 子ども手当を増額し、子育て支援環境を整備すれば、現在よりも0.3から0.5程度、出生率を引き上げることはできるでしょう。この場合、西日本、とくに九州・沖縄の県では、2.0前後まで上昇し、人口自然減社会から脱却できます。

 それに対して、東北、北海道の道県は、それでも1.6から1.8程度にとどまり、人口自然減社会から脱却できません。増田寛也氏の主張する、「地方消滅」は、東北、北海道の農村、地方都市から現実化する可能性があります。

 政府の「選択する未来委員会」は、2060年の人口目標を1億人に設定しました。実現はかなり難しいように思われます。ですが、人口減少にともなって発生する工場・学校・社宅の跡地、空き家、耕作放棄地などを適切に土地利用転換し、子育て支援環境を改善し、子育て支援制度を充実すれば、日本の出生率はさらに引き上げられます。

 空き家、空き店舗、閉鎖工場、廃校などによって利用されなくなる土地を、都心居住の促進、ベンチャー企業支援施設、災害対応型公園の整備、美しい都市・農村景観の創出のための、種地にしなければなりません。

逆6次産業化

「地方創生」の切り札として、6次産業化に注目が集まっています。その代表であるご当地カレーは、すべての都道府県にあり、その数は全国で400以上にのぼっています。

 農業の活性化には、6次産業化、地産地消だけに固執するのではなく、大規模事業者であるファストフード、スーパー、食品メーカーと取引できる、安定的で大規模な生産システムを構築しなければなりません。ケンタッキー、王将、リンガーハット、モスバーガー、フレッシュネスバーガー、カゴメ、日本ハムなどは、国産食材へのシフトを始めています。

 セブン&アイ・ホールディングスは、地域限定商品の比率を、現在の1割から2017年には5割に引き上げることと決定しました。全国を9地域に分割し、それぞれの地域に商品開発者を配置し、セブン・イレブンの店舗の約3,000品目中、1,500品目を地域限定品目にする予定です。

 イトーヨーカ堂は、全国を13地域に分け、店舗で販売されている8万から10万品目のうち、4万品目程度を地域限定商品に置き換えていくとしています。

 2次、3次業からの1次産業へのアプローチを、筆者は、「逆6次産業化」と呼んでいます。国内の需要は減少しますので、食品、農林水産物のさらなる輸出も促進すべきです。

産業クラスター戦略

 地方圏を、首都圏や三大都市圏と比較して、遅れた地域、地域間格差を是正しなければならない対象として捉えることは、適切ではありません。地方といえでも、先進国日本の一部です。OECDの調査によると、日本の1人当たり県民所得格差は、世界的にみて小さいとされています。

 1970年代からの工場地方分散によって、地方圏の工業生産拠点としての地位は、上昇しています。1969年、東北に立地している工場は全国の7.8%、九州は6.5%でした。2012年には、東北は9.6%、九州は8.5%を占めるまでになりました。

 20年以上にわたる日本経済の低迷や、工場の海外立地により、工場総数は、その間、40万工場から22万にまで激減しました。しかし、地方の工場といえども、最新鋭の大規模工場、海外の母工場、研究開発力の高い工場だからこそ、日本国内に残っているのです。

 福島県の医療機器産業の生産額は、都道府県別でみると、全国3位の水準にまで上昇しました。オリンパスの内視鏡も福島県で生産されています。オリンパス、ジョンソン・エンド・ジョンソン、日本大学工学部、福島県立医大、福島県、文部科学省、地元企業との連携の成果です。東九州メディカルバレー(大分県+宮崎県)は、福島県に次ぐ、4位の医療機器生産地域です。医薬品生産額の3位は富山県です。

 2013年の日本の医療機器の貿易赤字額は、7,703億円、医薬品の貿易赤字額は、2兆9,476億円にまで拡大しています。

 地方は、遅れた、格差を是正されるべき地域ではなく、日本の経済発展やイノベーションを促進するための拠点なのです。

山﨑 朗(やまさき・あきら)/中央大学経済学部教授
専門分野 産業経済論、経済地理学
佐賀県唐津市出身。1957年生まれ。1981年京都大学工学部卒業。
1986年九州大学大学院経済学研究科博士課程修了。2000年九州大学で博士(経済学)取得。
フェリス女学院大学文学部講師、滋賀大学経済学部助教授、九州大学大学院経済学研究科教授、九州大学経済学部経営学科長を経て、2005年より現職。
日本の国土計画、産業クラスター、地域イノベーションシステムについて研究しており、国土審議会、産業構造審議会、科学技術審議会等の委員を歴任。
主な著書に、『日本の国土計画と地域開発』東洋経済新報社、1998年、主な編著に『クラスター戦略』有斐閣、2002年、『地域創生のデザイン』中央経済社、2015年などがある。