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土肥 徹次

土肥 徹次 【略歴

MEMS技術で人を測る

土肥 徹次/中央大学理工学部准教授
専門分野 マイクロ・ナノデバイス

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MEMS技術とは?

 「MEMS」という言葉をご存じだろうか? 日本ではあまりなじみのない言葉であるが、「Micro Electro Mechanical Systems」の頭文字を取った言葉で、直訳すると「微小な電気機械システム」となります。日本では1990年代から「マイクロマシン」という言葉で取り上げられることが多くなった用語で、パソコンのCPUやメモリを製作する半導体集積回路作成技術を応用し、機械的な要素を取り込んで製作された微小な電子機械のことを意味します。このMEMS技術により製作された代表的な製品としては、プロジェクターで使われるデジタルマイクロミラーデバイスや、インクジェットプリンターのプリンタヘッド、スマートフォンやゲームのコントローラーで使われる加速度センサや角速度センサなどが挙げられます。近年、商品化されたデバイスが身近に出回るようになってきた、比較的新しい技術と言えます。

 このMEMS技術の特徴として、「小さい、軽い、速い」という3点が挙げられます。そもそも、「micro」という言葉は長さの単位にも使われており、1 µm(マイクロメートル)は1 mmの1/1000の長さとなります。人間の毛髪の毛の太さは80µm程度なので、MEMS技術で製作されたものは目で見ることができないほど、小さく、細かいことが分かります。また、この小さいことから生まれる特徴として、「軽さ」が挙げられます。1辺が1cmの立方体の水の重さは1 gですが、長さが1/100の100µmの立方体になった場合、水の重さは0.000001gという、体感することが不可能なほどの軽さになります。物体の重さは長さの3乗に比例する体積に比例することから、小さくなることで非常に軽くなることは予測できますが、実際には想像を超えた軽さになります。このようなMEMS技術を応用して、我々マイクロシステム研究室では、様々な人の情報を計測しようと研究を進めています。

トノメトリ法による血圧計測

 図1に示すものは、このMEMS技術を利用して小型高機能なセンサを試作し、このMEMSセンサを使って人の血圧を計測しようとする研究です[1]。近年、高齢化社会が進むにつれて健康への意識も高まってきていますが、その中でも高血圧症は様々な病気へ発展する可能性があり、早期発見や日常的な計測への期待が高まっています。現在の一般的な血圧計測は、カフと呼ばれる腕帯を使って計測する方法が主流ですが、血流を一時的に止めて計測するため被験者への負荷が大きいという問題があります。そのため、一日に何度も計測するには適しておらず、低負荷でもっと簡単な血圧計測が望まれています。

 そこで、本研究室ではMEMS技術により試作した小型高機能なMEMSセンサを、「トノメトリ法」と呼ばれる手法を用いた血圧計測に応用することで、低負荷で日常的に利用できる血圧計測デバイスの実現を目指して研究を進めています。トノメトリ法とは、図2に示すように、橈骨動脈などの体表に近い動脈に圧力センサ押し当て、経皮的に血圧を検出する方法です。この計測方法では、血管上部から適切な強さで圧迫することにより、血管の上部を扁平な状態とします。血管上部の扁平な部分では、血管の張力が圧力センサの感圧方向に対して直角に働くため、圧力センサで計測される力と血圧が等しくなることで血圧が直接計測できるようになります。

図1 MEMSセンサによる血圧計測

図2 トノメトリ法による血圧計測の原理

MEMS 3軸力センサと血圧計測

 このトノメトリ法による計測では、計測が容易で、低負荷な血圧計測が可能になるため、非常に有望な計測手法ではありますが、計測精度が低いという問題点も持っています。これは主に、センサを血管に対して平行に押し当てられていないこと、血管上部を扁平な状態にできていないこと、が原因で発生してしまいます。そこで、センサを平行に押し当てられたか判別可能であり、血管上部が扁平な状態でなくても計測精度が落ちないようにするための、新しいセンサの研究を進めています。新しいセンサとして、図3に示すような、MEMS 3軸力センサを試作しています。これは、MEMS技術を利用することで、横方向の力(せん断応力)を計測可能なセンサ素子と、垂直方向の力(圧力)を計測可能なセンサ素子を小さな領域にいくつも並べて配置したセンサとなります。横方向の力を計測できる小型センサ素子を組み込むことで、平行に押し当てられたかを判別し、さらに、血管が扁平な状態にできていなくても斜め方向の力も計測できるようにして、高精度に血圧計測ができるようにしています。

 また、現在はこのMEMS 3軸力センサによる血圧計測を、日常生活を送る中でも使用できるようにするため、図4に示すバンド型手首装着システムへ組み込むことを進めています[2]。これは、手首へ固定可能なバンド型デバイスに、MEMS 3軸力センサ、信号処理回路基板、バッテリーを取り付け、腕時計のように装着しながら血圧計測ができるようにするためのものです。計測した血圧は、無線通信を行うことで、パソコンやスマートフォンへデータを送信し、日常的に血圧を計測できるウェアラブルなシステムを実現したいと考えています。

図3 血圧計測のためのMEMS 3軸力センサ

図4 バンド型手首装着システム

参考文献:
  1. ^ Kei Shioya, Tetsuji Dohi, “Blood Pressure Measurement Device Based on the Arterial Tonometry Method with Micro Triaxial Force Sensor,” Proc. of Transducers 2013, pp. 2389-2392, Barcelona, Spain, Jun. 16-20, 2013.
  2. ^ 五嶋亮祐,土肥徹次, “マイクロ力センサを用いたウェアラブル血圧計測デバイス,” 第6回マイクロ・ナノ工学シンポジウム,22am2-G7,島根,Oct. 20-22,2014.
土肥 徹次(どひ・てつじ)/中央大学理工学部准教授
専門分野 マイクロ・ナノデバイス
東京都出身。1975年生まれ。
1999年東京大学工学部卒業。
2001年東京大学大学院工学系研究科修了。
2004年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)(東京大学)。
2004年東京大学大学院情報理工学系研究科 産学官連携研究員。
2005年日本学術振興会 特別研究員(PD)。
2006年東京大学大学院情報理工学系研究科 科学技術振興特任助手。
2008年東京大学 IRT研究機構 特任助教。
2010年より中央大学理工学部助教を経て、2013年より現職。
現在の研究課題は、マイクロマシン技術の医療応用の研究を進めており、その中でも、MRI用マイクロコイルや、トノメトリ法を利用した血圧計測マイクロセンサに注力している。