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福岡 捷二

福岡 捷二 【略歴

河川災害を減じ豊かな水環境を創造する

-大学の技術開発と社会資本整備-

福岡 捷二/中央大学研究開発機構教授
専門分野 河川工学、水工学、防災・環境、土木計画学

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1. はじめに

写真-1 2012年7月九州北部豪雨による矢部川の堤防決壊

 河川は、水と緑の広い空間を有し、人々の生活に潤いをもたらし、リクリエーションや憩いの場を提供しており、また、生き物に対し、豊かな生育、生息、繁殖の貴重な場となっている。一方において、日本は、自然的条件や地理的条件から水災害の起こりやすい国土であり、豪雨が生ずると河川は洪水となり、ときには氾濫し激甚な災害によって人々の生活を脅かす存在である。

 中央大学研究開発機構 福岡ユニットでは、このような川の恩恵を享受しながら安心、安全で豊かな社会を築くため、そのベースとなる防災・環境技術を研究開発し、これを現場に適用し活かすことをミッションとしており、以下に示す「安全度の高い治水技術の開発」と、魅力豊かな川づくりに求められる「治水と環境の調和した川づくり技術の開発」を研究の中心に据えている。福岡ユニットは、6人の専任研究員と多くの大学院博士課程学生よりなる研究集団であり、基礎研究を進めながら官公庁や企業の外部資金を活用し積極的に共同研究を行い、新しい技術開発によって我が国の社会資本整備に貢献している。

2. 安全度の高い治水技術の開発

2.1 洪水時の水面形を用いた洪水流の実態解明と合理的な構造物設計、河川管理技術

 洪水中には河川の断面を形成している砂礫が移動し、河床や河岸の境界形状が変化する。河床や河岸形状の変化は、堤防や河道など河川構造物の管理上多くの困難な問題を引き起こしている。そのような課題の解明に対し、福岡ユニットでは、図-1に示すように、洪水の水面形の時間変化を観測し、これと洪水流―河床変動解析から求まる水面形の解析結果にほぼ一致するときの河床変動解析結果が、求める河床、河岸形状であることを明らかにし、洪水流の水面下の構造を見える化することにより合理的な河川の管理方法を与えた。これは、水面形の時間変化には河床変動が強く反映しており、観測水面形の時間変化を解析的に説明出来れば、水面下で起こっている水理現象もほぼ説明できることを地道な洪水観測と解析の積み重ねから明らかにされたもので、河川技術の大きな進展につながった。

図-1 水面形時系列データに基づく洪水流・河床変動解析による洪水流の内部構造の見える化

 さらに、河川構造物が存在することによる構造物周辺の局所洗掘・堆積による河床変動は、構造物の破壊原因となるが、これまで有力な解析技術、設計手段を持たなかった。福岡ユニットでは、構造物と流れの相互作用によって出てくる特徴的な鉛直方向の渦度分布と非静水圧分布を考慮した新しい準三次元解析モデルを作り、これを用いた護岸、水制、堰、橋脚等河川構造物の設計法を提示しており、この設計法は、構造物の被災予測、設計技術として活用され、河川の治水安全度を高めている。

2.2 堤防の破壊危険度の評価法の開発と河川事業の順位選択への活用

 我が国の堤防は、本来氾濫原であった低地に築かれていること、また、繰り返し災害を受けて改築されてきた経緯から堤防の土質構造がよくわからないこと等のために、堤防は最も重要な河川施設であるにもかかわらず、洪水時の滑りや、浸透破壊のチェックが十分行えないという課題を抱えてきた。しかし、近年堤防の土質ボーリングデータが集められ、解析技術が進んで来たことにより、洪水時の堤防の破壊危険性の算定が可能になってきた。即ち、ボーリングデータにより堤防の土質定数の平均値と確率的な特性を持つ変動値に対し信頼性解析を適用し、浸透流による堤防の滑り・浸透破壊確率の算定法を提示した。これより、国内河川の堤防破壊の危険性を推算し、堤防の質に関する技術的検討を可能にしている。さらに、この推定法を用いて河川の改修順序や改修方法、堤防強化が必要な箇所、堤防と河道のどちらを優先して改修するのがよいか等、河川改修の基本的な考え方を構築した。これによって、堤防の管理や河川改修のあり方等に対する技術開発の方向性を示し、河川災害の軽減に大きく貢献するものである。

3. これからの河川整備-治水と環境の調和した川づくり

 これからの社会資本整備の方向は、安全と環境の調和のとれた整備を進めることであり、河川においては、管理が容易でかつ安全と環境の両立する河道づくりが主要な課題である。大河川の中・下流部の多くは低水路と高水敷から成る複断面形を有しており、低水路の河床低下、高水敷上の樹木繁茂等により洪水を流下させる能力が不足し、治水と河川環境の劣化が進行した河道が数多くみられるようになった。

 治水上、環境上の問題を抱えている複断面河川の改善には、河川の断面形を改修することが必要との考えのもとに、福岡ユニットでは、治水と環境の調和した河道断面について技術開発を行ってきた。自然性の高い河川は一般に船の底のような形の断面(船底形断面)を有していることから、船底形断面形について技術的に検討し、洪水時の船底形河道の水位、流速等の変化は、複断面形に比較して大きく改善されること、河道における樹木の繁茂を制御しやすいこと等、複断面河道の治水上・環境上の課題の改善が図られることを明らかにし、設計手法を示し現地で施工されてきた。

写真-2 複断面河道から船底形断面を有する河道に改修された遠賀川(左:改修前、右:改修後)

 河川の水際は、治水上、環境上重要な機能を有している。洪水時河岸水際に発生する強い水あたり部が堤防を決壊の危険にさらすことになる。通常河岸際には砂州が存在するが、人間活動等の影響を強く受け、砂州は消失、縮小してきた。本来存在した砂州を回復し、砂州前面の水衝部に巨石を配置し保護することにより洪水の強い水あたりを緩和し、洪水の主流を砂州の側面に沿って河道の中央に誘導する「巨石付き盛土砂州河川防護工」が解析と現地試験を通して開発された。

写真-3 常願寺川における巨石付き盛土砂州河川防護工の設置状況と洪水時の流れ

 国土交通省が管理する河川で施工された河岸防護工は、治水的、環境的に優れており、また管理が容易であることが実証され、この技術開発に対し平成26年度の土木学会技術賞Ⅰが授与された。 昭和40年(1965年)の賞創設以降初めて、土木学会技術賞が大学の研究成果に与えられた。この受賞は、社会資本整備に果たす大学の研究開発能力の大きさとその重要性を社会に発信する機会となった。

4. おわりに

 気候変動による豪雨の発生頻度や規模の増大による洪水外力の増大は、激甚な水災害発生の危険性を高めている。この災害危険性に対する治水適応策は河川技術だけで出来るものでなく、あらゆる分野との連携、協働による減災方策の検討が求められている。この重要で緊急を要する課題に対し、福岡ユニットは、技術面からだけでなく、社会・経済システムを含む技術政策や制度のあり方等についても鋭意研究を進めている。

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福岡 捷二(ふくおか・しょうじ) /中央大学研究開発機構教授
専門分野 河川工学、水工学、防災・環境、土木計画学
1942年北海道生まれ、1966年北海道大学大学院工学研究科修士課程修了土木工学専攻、1971年アイオワ大学大学院博士課程修了力学・水理学専攻、Ph. D.、東京工業大学助手、助教授、建設省土木研究所河川研究室長、広島大学大学院教授を経て、2004年4月より中央大学研究開発機構専任研究員(機構教授)、この間2008年より2012年まで中央大学理工学部特任教授。

主な社会活動(外部委員、審議会委員等)
社会資本整備審議会会長、社会資本整備審議会・交通政策審議会計画部会長、交通政策審議会委員、社会資本整備審議会河川分科会会長(国土交通省)。
社会資本整備審議会河川分科会、気候変動に適応した治水対策検討小委員会委員長、河川整備基本方針検討小委員会委員長、河川維持管理技術検討委員会委員長、水災害リスク評価手法検討ワーキンググループ座長、新たなステージに対応した防災・減災のあり方懇談会 委員、河川技術評価委員会委員長、河川砂防技術基準検討委員会 委員長(国土交通省)。
中央防災会議防災基本計画専門調査会専門委員、中央防災会議風水害プロジェクトチーム 座長、災害から文化遺産と地域をまもる検討委員会委員(内閣府)、中央環境審議会水環境部会専門委員、有明海・八代海総合調査評価委員会委員(環境省)政策研究大学院大学 客員教授、土木学会 理事、日本自然災害学会 理事、監事。