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佐々木 信夫

佐々木 信夫 【略歴

砂上化する東京の政治、小池都政のゆくえ

佐々木 信夫/中央大学経済学部教授
専門分野 政治学

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トランプ旋風に乗る小池百合子

 日本人の多くが予想したであろうクリントン女性大統領の誕生。しかし予想は全く外れ、アメリカ次期大統領にはドナルド・トランプ氏が決まった。日本に限らず、同氏をめぐっていろいろな情報が飛び交い、世界のトランプ旋風は未だ鳴りやまない感じである。

 日本の政治はどうか。この夏、2つの大きな選挙があった。まず7月10日に参院選。3年に一度の改選選挙だが、殆ど話題にもならず自民大勝。一方、話題をさらったのはその3週間後、7月31日に行われた都知事選だった。非政治家を後継にと目論む与党勢力は桜井パパこと桜井俊氏(前総務事務次官)を本命候補のように喧伝したが、実際立候補に至ったのは元総務相の増田寛也氏。それに鳥越俊太郎、小池百合子の2人が加わり事実上3氏の争いに。筆者がこの都知事選で注目したのは、都民は一体「メイクドラマ」派を選ぶのか、無難な「実務」派を選ぶのか、だった。小池、鳥越氏なら前者、増田氏なら後者という訳だが、政治とカネで失職した舛添問題の尾を引くなかでも、あえて都民は実務派ではなくメイクドラマ派を選んだ。しかも既成政党の担いだ候補ではなく、一人旅候補の小池氏を選んだのだ(正確には小池自身、自民推薦を望みながら得られなかっただけだが)。

 7月31日の都知事選。投票率は59.73%と前回より13ポイントも高く、無党派層にも人気の高かった小池氏(64)が約291万票と、2位の増田氏(64)179万票、鳥越氏(76)134万票を100万票以上引き離しての圧勝だった(表を参照)。

 これまでの都知事選では、①他県知事経験者は選ばれない、②女性都知事は誕生しない、③初当選年齢は60歳半ば、というジンクスがあったが、②が破られたことになる。

<東京都知事選、上位3氏の得票>
(〈 〉囲みは推薦政党、敬称略)
2,912,628 小池百合子 無新
1,793,453 増田寛也 無新〈自民〉〈公明〉〈こころ〉
1,346,103 鳥越俊太郎 無新〈民進〉〈共産〉〈社民〉〈生活〉

 それから4ヶ月。豊洲市場移転をストップ、部局長18名の懲戒処分、五輪3施設の大幅見直しなど、小池氏の都政改革をめぐる話題に世論は沸騰し、“小池劇場”ともいわれた。

 しかし、政治のハネムーンといわれる100日も終わり、いま急速に小池都政の注目度は落ちている。もとより、小池氏のこと。世論を味方につける、どんな奇抜な手を打つか分からない。一説には小池氏がこの先、トランプ化するのではないかとの見方もある。

 ともかく、就任から2年4ヶ月で都知事を辞任せざるをえなかった舛添要一都知事。辞任前の数ヶ月は、高額な海外出張費、公金・公用車の公私混同使用、政治資金の流用疑惑などが相次ぎ報道され、“セコイ”が流行語になるほど、都政は混乱し続けていた。

 それをガラリ変え、清みきったクリーンなイメージの都政に置き変えた点、東京の政治に一石を投じた小池氏の功績は大きいものがあると言ってよかろう。

小池都政100日―ハネムーン終わる

 小池都政の就任から4ヶ月を簡単に振り返えろう。まず、リオ五輪が開催されていたブラジルに2回にわたり出張、最終日に次期開催地として五輪旗を引き継いできたこと。そして、都政刷新の視点から様々な問題を提起し、都民ファーストの視点で「都政の見える化」を図る努力を重ねてきたことだ。都政に既定路線はないと公言し、築地市場の豊洲移転を延期し、オリンピック施設の整備費見直しなどに尽力。小池氏は本気で改革をやる知事だというイメージを都庁にも都民にも植え付けた。この点で評価する限り、小池都政への評価には高いものがある。

 だが、豊洲移転は11月7日を外し1年後、2年後になるような延期宣言になった。総経費5800億円を投じ、15年余の月日を費やしてきた大プロジェクトを自らの判断でストップした。マスコミも拍手を送り、都知事の権力は凄いかのように見せた。

 しかもその後、説明されてこなかった地下空間の存在や盛り土をしない決定過程を隠蔽し、議会にも社会にもウソの答弁(説明)を続けてきた問題が露見し、このストップ自体、思わぬ効果、広がりをもたらした。

 しかし、それが一段落した今、この先をどうするのか。不透明な感じだ。

 IOCまで巻き込むことになった五輪3施設の見直し。経費削減が狙いとはいえ、ボートカヌー会場を東京ではなく宮城県長沼ボート場に移せるが如く動き回った。しかし、実際にはそうならなかった。確かに小池氏のいう決定過程の「見える化」を図ることはよいことだ。しかし大東京の知事として、一部ブレーンのささやきに乗るのではなく、官僚組織を使い戦略を貯め込み練った上で動くのが筋だ。ここが弱すぎ、行動が軽すぎないか。

 ともかく、政治のハネムーンとされる100日、「何事も甘くみよう」期間が終わった小池都政だ。いろいろな見方が出て来ようが、筆者から端的に言わせると、問題提起は大変よかったが、この先、問題解決ができるかどうかだ。解決能力のある都政なのか、実行力のある都知事なのか、その資質が問われることになろう。結論から言えば、政治は結果が問われる。

真の「東京大改革」なら、3つを問え

 小池都知事の売りは「東京大改革」である。選挙中からずっとそれを訴えてきた。ということなら、いま行われている都政は東京大改革なのか。筆者からすると一部分としか思えない。都政大改革ではあっても東京大改革ではない。もし、この先も東京大改革を言い続けるのなら、それは大きく3つの領域を問題にしなければならない。

 第1は、「都政の体質改善」である。既にこれは始まっている。都政改革本部をすぐ立ち上げ特別顧問14名を任命し、幾つかの調査チームに分け提言が出始めている。これは、小池氏が改革の1丁目1番地として取り組んでいる領域だ。情報公開ひとつ見ても「のり弁」(黒塗り)と称される秘密体質が蔓延し、役人の・役人による・役人のための行政運営がはびこっている。都民ファーストからは程遠い都政状況にある。

 また、各事業に高コスト体質が見られ税金の使い方に対する「甘さ」「たるみ」がみられる。肥満体質とまでは言わないが、少なくも最小の費用で最大の効果を上げる努力が各分野で欠落している。議会との馴れ合い構造も定着しており、知事と切磋琢磨する2元代表制の良さが生かされていない。予算編成で200億円の都議会政党枠があるなど、他府県に例のない慣例があるが、これでよいか。この点、ガラス張り、都民ファーストからの体質改善は大いに進めたい。

 第2は、「都政本来の政策推進」を加速することである。現段階でいうと、この点がスポッと抜け落ちている。大都市東京は前例のない大転換期に入った。人口絶対減社会に突入し、「老いる東京」の諸問題の解決は待ったなしの状況にある。生活者優先の視点から医療、福祉、介護、文化、教育、子育て支援を強化するソフトな領域。そして整備から50年経つ道路、橋、上下水、地下鉄、地下道、公共施設などハードなインフラの劣化領域。これを計画的に更新すること。これには膨大な時間と労力を要する。そこを強力に進める対策が見えない。

 もちろん、国際都市東京の経済、金融、都市外交面でも手を打つことは多い。いずれ、ソフト、ハード両面の「老いる東京」について、都民、国民の不安を解消する手立てをしっかり講じていくことだ。これが本来の都政の仕事である。外部有識者も交えた「都政政策戦略本部」創設による、強力な政策推進体制をつくることが、都民が一番期待するところのはずだ。ここに本格的に踏み込んでいかない限り、小池都政は安定軌道には乗らない。

 第3は、東京の「都市内分権」を進めることである。これは都庁内分権ではない。大都市東京の統治の仕組みを変える改革、つまり特別区、市町村を第1の政府とするよう分権化を強く進めることだ。特に都民の3分の2を超える900万人が暮らす23特別区との関係について、分権の視点から都区制度改革を進めることが喫緊の課題である。既に児童相談所を身近な特別区に設置すべきとする厚労省の方針も出ている。

 しかし、この20年近く、都政は特別区との関係を見直す改革に殆ど踏み込んでいない。青島、石原、猪瀬、舛添氏と作家、評論家出身の知事が続いたこともあろうが、都庁は自らの仕事を抱えたまま、肥満化している。結果、都区関係に①双方の役割分担が不明確、②住民に対する行政責任が不明確、③都は広域自治体としての大都市行政が弱いといった批判が強まっている。ニア・イズ・ベスト、「近接性の原則」を大前提に身近な自治体を強くすべきで、都政はもっと広域政策に純化した都庁に変わらなければならない。事業官庁から政策官庁への脱皮、それが政策を見直すことを伴う都政改革の本丸だ。

小池都政のゆくえ、小池新党はできるか

 小池都政は、うえに述べた3つの領域のうち、第1の領域には熱心だが、第2、第3領域は手付かずの感が強い。2020五輪の成功に向けた準備はもちろん大事だが、都政の本丸はそこではない。この先、小池都政が都民のために、後者の2つに踏み込めるかどうか。小池都政が4年、8年と続いていけるかどうかの焦点はここにある。

 話題性の高い政治塾についても一言触れておこう。小池氏は約3000人近くの受講生を集めて「希望の塾」という政治塾を始めた。確かにこれは先例となる橋下徹・前大阪市長の「維新政経塾」に似ている。小池氏の「希望の塾」は世の中から塾生を募って自らの政治理念を学ばせようという点、またそれを基礎に新党立ち上げも、という点も似ている。

 しかし筆者がみる限り、決定的な違いがある。

 小池塾はどうみてもファンクラブ的色彩が強い。ふわっとした感じの塾。政治に関心のある人、政治家をめざす人、小池さんが好きな人の3つのグループの混成塾ではないか。根幹となる政治哲学、政治に何をもたらすか、何をやりたいか、ひとつはっきりしない。

 学習塾ならそれでもよいが、新党につなげるにはパワー不足。カネも人材もいる。講師陣も「好みで集め」、今のところパッとしない感じ。政治志望といっても次期都議選などを睨んだ目先の選挙互助会を期待して集まった感を否めないがどうか。大阪維新政治のように、統治機構の大改革などといった、改革の志士が集まっているようにも見えない。政治評論家の中には「小池新党」が来年夏の都議選、100人規模の候補者を立て次期衆院選でも台風の目になると囃し立てる人もいる。しかし、都民、国民の新党をみる目は醒めている。みんなの党、次世代の党、結いの党とこの4年余の間に幾つの新党が生まれ消えていったか。

 もし構想される新党がパワーを持つとすれば、この先、小池百合子氏と、橋下徹氏の2人が組んで、日本でまだ顔をみない「都市型新党」をつくることだ。それがあるとするなら、台風の目になる可能性はあろう。大阪、東京という日本の2つの基幹大都市が政治的に一体化し、それに名古屋の河村たかし氏らが加わっていくなら、農村過剰代表制ともいわれる古い自民党に代わって、大都市有権者の不満、不信、不安を吸収し、都市有権者に密着した都市型政治が行われる。そうなるなら、日本の政治に一石を投ずることになろう。

 そんな流れができていくかどうか。新しい年、2017年に向け、小池都政の動きとともに、政治における小池新党の動きについても、大いに注目したい。

佐々木 信夫(ささき・のぶお)/中央大学経済学部教授
専門分野 行政学、地方自治論
1948年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了、法学博士(慶應義塾大学)。東京都庁勤務を経て、89年聖学院大学教授、94年中央大学教授。
2000年米カリフォルニア大学(UCLA)客員研究員、2001年から中央大学大学院経済学研究科教授・経済学部教授。専門は行政学、地方自治論。慶應義塾大学、明治大学、日本大学など講師、第31次地方制度調査会委員を歴任。現在、日本学術会議会員(政治学)、大阪市・府特別顧問(大阪副首都構想)兼任。
近刊に『都庁読本―都政を考える』(マイナビ新書、12月刊)。ほか『地方議員の逆襲』(講談社新書)、『人口減少時代の地方創生論』(PHP)、『新たな「日本のかたち」』(角川SSC新書)、『都知事―権力と都政』(中公新書)など多数。NHK地域放送文化賞、日本都市学会賞受賞。NHK、TBS、テレビ朝日、フジテレビ、日本テレビに出演、各新聞紙上でのコメント多数。全国で地方講演など多数。