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杉井 静子さん

杉井 静子さん【略歴

自然と人間の共生 ――言葉の大切さ

杉井 静子さん/ひめしゃら法律事務所 弁護士

 弁護士歴48年、72歳の今でも全く現役の弁護士として働いています。立川にあるひめしゃら法律事務所の所長、といっても事務所運営は若い弁護士も含めて対等平等に民主的にやっていますので、安倍首相のような「一強」(?)の権限はありません。未だに資力がなくて、弁護士費用を払えず国に立替えてもらう制度である「法テラス」を利用する事件が大半を占めていますので、「赤ひげ」的な典型的な「町弁(まちべん)」です。

 離婚事件などの家事事件をやっていますと、本当に今の日本の「貧困」を痛感します。ごく最近の厚労省の調査でも全国民の貧困率は15.6%、とりわけ、ひとり親世帯の貧困率は50.8%に及びます。子どもの貧困率は13.9%で、子どもの7人に1人が貧困状態であるとのことです。本当に離婚後の生活不安を考えると離婚にもふみ切れないという人びともたくさんいるのです。さらに学費が高いこと!裁判所の定める算定表には、私立学校の学費等は考慮されてませんので、学費を父母どちらが負担するかが離婚事件では深刻な争いになります。

 というわけで、日々、悩みを抱えつつやっていますが、弁護士として、世の中の実態に日々接することが社会的視野を広げ、よりよい社会をめざすことの重要性を気づかせてくれるのではないかと思っています。それに、人間にとって職業はとても大切ですが、どんな職業でも職業である以上、生きがいはあっても辛いこと、ストレスのたまることが多々あります。私でも時々落ち込むことがあります。それを避けないで正面から向き合ってほしいと思います。

 私たちの学生時代は、学生同士でダベり合う喫茶店も多く、よく議論しました。これが懐かしく思い出されます。インターネットで得られる自分に関心のある情報だけでなく、新聞、雑誌からの広い情報を得ることもとても大事ではないでしょうか。また、仲間と議論することをお勧めします。そのとき、注意したいのは、「議論に勝つ」ことにこだわらないこと、つまり相手を「うち負かした」と得意にならないこと、相手の立場を尊重し、相手の意見から学び、また自分の意見は意見としてきちんと言うことが大切だと思うのです。正確な情報を共有しつつ議論する、これが民主主義の本質だと思うのです。

 ごく最近次のようなエッセイを書きました。ある雑誌(学習の友8月号)に掲載されますが、発売は1ヵ月後くらいになります。拙文ではありますが、これをサカナにしてみなさんの議論がはずむことがあれば幸いです。

自然と人間の共生 ――言葉の大切さ

 山の緑もすっかり濃くなりました。木樹の緑はフィトンチッドという物質を出すようで、森林に入るだけで英気が養われるのかリフレッシュします。それに、山を歩いていると、見知らぬ人びと同士「こんにちは」とあいさつを交わす、これが気持ちいいですね。言葉は人と人をつなぎ、信頼を深める重要なツールです。

 しかし、「ものは言いよう」で、巧妙な言い換え、核心をはぐらかす虚構の言葉がとりわけ政治の場で横行しています。

 戦時中、大本営発表では日本軍の全滅を「玉砕」、敗退を「転進」と言い換えていましたが、稲田防衛相は南スーダンの事態を「戦闘」ではなくて「衝突」と言い逃れしたように、安倍政権ほど欺瞞的な言葉を乱発する政権はなかったように思います。

 共謀罪の強行成立で民主主義の後退・荒廃が危惧されます。改めて「民主主義とは何か」を考えてみることが大切ではないでしょうか。民主主義は、単なる多数決ではなく、情報を共有し議論し合ってこそ成り立ちます。多数で押し切るのは民主主義ではありません。

 詩人の中村稔さん(弁護士としても大先輩です!)は、「自分の伝えたい言葉が相手にきちんと伝わる保証はありません。言葉は不思議な生き物だと思います」と言われています。自分の考えに合う情報ばかりにふれ、異なる意見に耳を傾けない風潮が強まっている今日、政府の言うことをうのみにしている人たちと、どのように対話したらいいのかを真剣に考える必要があるのではないでしょうか。

 自然の中で、人間はやさしくなれます。人と人の信頼を深める言葉を大切にしたいものです。

杉井 静子さん(すぎい・しずこ)さん
1967年 中央大学法学部卒業
1969年 弁護士登録 三多摩法律事務所に入所(2000年3月まで在籍)
1990年 立川簡易裁判所 民事調停委員(2016年3月まで)
1990年 日本弁護士連合会 女性の権利に関する委員会委員長
1991年 第二東京弁護士会 両性の平等に関する委員会委員長
1992年 第二東京弁護士会 副会長(女性初)
1993年 日本弁護士連合会 常務理事
2000年 4月に国立市に杉井法律事務所を開設
2001年 第二東京弁護士会 多摩支部長
2002年 都留文科大学 非常勤講師/ジェンダー論(2014年まで)
2003年 日本弁護士連合会 常務理事
2005年 関東弁護士会連合会 理事長(女性初)
2008年 日本弁護士連合会 家事法制委員会 委員長(2013年5月まで)
2009年 4月にひめしゃら法律事務所開設(所長)
2009年~2011年 法制審議会(非訟事件・法家事審判法部会)委員