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岸 真清

岸 真清 【略歴

教養講座

デフレ脱却に一石を投じるのか、共助社会の金融システム

岸 真清/中央大学商学部教授
専門分野 金融論、開発金融政策

1.はじめに-アベノミクス-

 金融緩和、積極財政政策、成長戦略の3つの矢で、アベノミクスは株高、円安を引き出した。昨年11月15日、衆議員解散前日の終値が8,661円05銭であった株価(日経平均)は、本年2月25日、11,662円52銭にまで上昇、為替レートも1ドル=80円から94円に下落した。デフレ経済脱却への力強い足音が聞こえてくるかのごとくである。

 実際、第2次安倍内閣が1月11日に定めた「日本経済再生に向けた緊急経済対策」は、民間投資を喚起することで強い経済の復活を目指している。そのバックグランドになっているのが、グローバル化と地域経済の活性化の同時実現である。しかし、両立が保証されているわけではない。ここでは、共助社会の概念を用いることによって、所得と雇用を拡大する金融システムを考えてみよう。

2.なぜ、共助社会の金融システムなのか

 市民、家計を主役とするグローバル化であれば、グローバル化と地域経済活性化の2つの目的は対立することなく調和するはずである。今後の日本経済の活路は日本国内だけでなく、海外とりわけ東アジア諸国でのグローバル展開に求められることになろうが、その前提となるのが、身近な日常生活の場であるコミュニティを基盤とする金融システムの整備ではないのだろうか。というのも、アジア域内でのクロスボーダーな債券市場を整備したとしても、地域経済の活性化、そして各国の市民、家計の消費生活と資金運用の改善につながらなければ、さらなる成長への途が閉ざされてしまうからである。

 共助社会とは、市民が主役となって、NPO・NGO、市民団体、コミュニティビジネス、地域金融機関、地方・中央政府などとの協業を通じて、個人の努力だけでは成し遂げ難い課題を政府に過度に依存することなく解決していく社会のことである。現実の経済は、小規模生産および消費の場である共同体経済と大規模生産および投資・投機の場である市場経済によって構成されている。その中間領域(成長した共同体経済と成長初期段階の市場経済によって構成)が共助社会であるが、家計はその中心点に立って、共同体経済と市場経済双方で活動している。

 過度のリスクテイクの禁止と納税者保護を目的としたオバマ米大統領の新金融規制案が示唆するように、負債金融に依存しすぎた市場経済の投資・投機を牽制するとともに、共助社会をどのように活性化するかが問われることになる。

3.コミュニティビジネスに秘められた収穫逓増型成長経路

 共助社会の生産活動は、それを代表するベンチャービジネスや医療・看護、子育て・教育などに携わるソーシャルビジネスのほか、製造業、サービス産業、農業関連のさまざまな小規模事業によって担われている。地域密着型のこれらのコミュニティビジネスは、生産効率が加速的に上昇する収穫逓増型成長経路をたどる可能性を秘めている。その理由は、共同体経済では固定費が低く抑えられることやコスト構造が柔軟なため、イノベーションを産みやすいことによる。

『共助社会の金融システムー生活者と投資家の視点ー』

 この状況は、市場経済の成長経路が、一般的に、収穫逓減型成長経路をたどるのと対照的である。拙書『共助社会の金融システムー生活者と投資家の視点ー』(文眞堂、2013年3月)で扱った「共助社会の構図」のように、生産活動は、規模の拡大に応じて、共同体経済から市場経済へと移っていく。

 ただし、自己資金を中心とした資金調達を行う共同体経済と異なって、市場経済では、負債金融も用いられるようになる。さらに、過度に負債金融に依存した大規模生産また実体経済と離れた投機活動を行うケースが増えると、生産や投資・投機に見合った収益が得られなくなり、収穫逓減型の成長経路をたどらざるをえなくなる。

 その結果、日本のバブル経済崩壊、アジア通貨危機、サブプライムローン問題、欧州債務危機のごとく、バブル醸成と崩壊を繰り返し経験することになる。したがって、バブル点にまで近づいた投資・投機資金を、収穫逓増型の共同体経済と収穫逓減型ではあるが逓減の程度が小さな市場経済の領域を組み合わせた共助社会、その担い手であるコミュニティビジネスに振り向ける金融システムの構築が喫緊の課題になる。

4.コミュニティビジネスの資金調達

 コミュニティビジネスの中でも、非営利事業は主にソーシャルビジネスによって担われる。しかし、ソーシャルビジネスにしても、当初は非営利ビジネスであっても、業容の伸長につれて営利ビジネスに育つ可能性も見込める。他方、営利事業はベンチャービジネスや小規模事業によって担われる。特に、ベンチャービジネスは地域発のグローバル企業に育つ可能性を秘めているが、多様な金融システムの構築に成功して初めて共助社会の経済的・非経済的福祉が高まるはずである。

 ところが、コミュニティビジネスの資金調達は厳しい状況にある。そこで、資金チャンネルの強化、構築が試みられてきた。コミュニティビジネスと深くかかわっているのが、日本の信用金庫、信用組合、農業協同組合、米国のクレジット・ユニオン、貯蓄銀行、貯蓄貸付組合(S&L)に代表される協同組織金融機関などのマイクロファイナンス金融機関である。これらの金融機関は、低い取引コスト、また地域を基盤としているだけに情報の非対称性を比較的容易に克服できるという利点を持っている。

 しかし、協同組織金融機関は営利事業だけでなく非営利事業をも対象にしているので、収益獲得に制約を受けがちになる。その結果、預貸比率は低く留まったままである。そこで、この課題を打開するため、小規模事業経営者の貯蓄能力や自助的な組織形成能力に着目して、市民はもとより、NPO・NGO、市民団体、地方・中央政府、開発金融機関、さらに商業銀行、大学・研究機関、一般投資家との協業が実施されるようになっている。その一例が、地方分権化や財政改革の進展に合わせて開発された住民参加型ミニ市場公募地方債である。

5.むすび-共助社会の主役-

 共助社会の主役である市民の資金が、地域経済活性化と地域発のグローバル化に向かう環境の整備が望まれる。高齢化の波を乗り切るためにも、高齢世代が保有する資産の運用効率を高める必要がある。それを成功に導く手立ては、共助社会の強化、それを支える金融システムの構築である。コミュニティビジネス、特にベンチャービジネスやソ-シャルビジネスへの投資が資金効率を高め、高齢世代を含めて、豊かな生活と働き甲斐を約束するはずである。

岸 真清(きし・ますみ)/中央大学商学部教授
専門分野 金融論、開発金融政策
1944年、愛知県生まれ。1967年、慶應義塾大学経済学部卒業、1972年、同大学院博士課程修了後、東海大学政治経済学部専任講師、助教授、教授を経て、1994年より中央大学商学部教授。1979年~81年、Yale大学Economic Growth Center客員研究員。1987年、経済学博士(慶應義塾大学)。著書に、『ファースト・ステップ 金融論(改定版第1刷)』(共著、経済法令研究会、2010年)、『自助・共助・公助の経済政策』(共著、東海大学出版会、2011年)、『高齢化社会における資産運用と金融システム』(共編著、中央大学出版部、2011年)、『共助社会の金融システムー生活者と投資家の視点ー』(文眞堂、2013年)などがある。