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矢島 正見

矢島 正見 【略歴

教養講座

順機能、機能不全、逆機能の命題

矢島 正見/中央大学文学部教授
専門分野 犯罪社会学、社会病理学、性社会学

はじめに

 「逆機能」という概念は、機能主義社会学では未だに有効な概念なのであるが、近年ではさっぱりその研究が停滞しており、新展開を望みえない学的状況にある。また、学問が専門分化し、根拠に基づいた(evidence-based)研究を志向するゆえに、重箱の隅をつつくような研究、せせこましい研究が横行している。ここでは、そうした学的状況に反発して、仮説命題を提示しつつ、大胆に機能から社会の法則性を考察してみる。

命題1から命題3

命題1:社会は機能主義(functionalism)というパラダイムから理解することが可能である。

命題2:機能には、順機能(eufunction)、逆機能(dysfunction)、機能不全(malfunction)がある。

命題3:順機能とは当該社会の社会システムの維持・発展に寄与する機能である。逆機能とは当該社会の社会システムに対して障害と解体をもたらす機能である。機能不全とは順機能が低下し、機能障害を起こした状態の機能をいう。

 以上、命題1から命題3までは、ひとつの見方であり、「視座(perspective)命題」と名付けることができるし、また論理的な命題であり、「概念規定命題」と名付けることもできよう。

命題4から命題7

命題4:(よって、)逆機能も機能不全もともに機能障害であり、その帰結としての機能解体である。

命題5:(ただし、)機能不全は機能が効果的にかつ円滑におこなわれないがゆえに機能障害、機能解体が起こることであり、逆機能は機能が効果的にかつ円滑におこなわれているがゆえに機能障害、機能解体が起こることである。

命題6:同一社会システムのなかに、順機能と逆機能がともに存在している。

命題7:(のみならず、)同一機能が順機能でもあり逆機能でもある。

 この命題4から命題7は、命題構成要素間の関係を定義づけた命題であり、「関係命題」もしくは「事実命題」と名付けることができよう。命題7に関して今少し説明すると、順機能と逆機能は、たとえば同じコインの裏表の関係である。もろ刃の剣と表現してもよいし、良薬は毒薬と表現してもよい。以上の命題は、実は私の創作ではなく、マートン(Merton, R. K.)が論じたことを、私なりに命題化したに過ぎない。なお、( )内は、上記命題との論理的関連性を説明する接続詞であり、各個別命題としてはなくてもよいものである。

命題8から命題10

命題8:順機能と逆機能は正の相関関係にある。

命題9:順機能と機能不全は負の相関関係にある。

命題10:(よって、)逆機能と機能不全は負の相関関係にある。

 ここからが「法則定立命題」である。そして、マートンを越えての私自身の仮説命題である。命題8は、順機能が高まれば高まるほど、逆機能も高まるということであり、順機能が逆機能を生み出すということである。命題9は、順機能の低下が機能不全を招くということである。

 教育関係の具体的例をひとつ示す。戦後の日本では、近代化の要請により教育内容は濃密化していった。これは近現代に必要な知識を義務教育として子どもたちに与えるという順機能であった。また、教育が人材配分機能をつかさどる民主主義社会では、学歴獲得の教育システムは順機能であった。しかし、順機能は競争主義社会・学歴社会・知育偏重教育・偏差値教育という逆機能を招き、先鋭化させていった。これが批判され、「ゆとりある教育」が推進され、逆機能は解消されていったが、それと同時に順機能も低下していき、ついに学力の低下という機能不全を招くに至ったのである。

命題11

命題11:いかなる社会にあっても、命題8・命題9・命題10はあてはまる。

 ここに至り、きわめてスケールの大きな命題が出てきた。すべての事象にあてはまるということではない。どの社会でも、いくつかの事象に対してはこの命題があてはまる、ということである。

 たとえば、カロリーの取りすぎの問題である。カロリー摂取は人間にとって(それどころか、いかなる生物であっても)生命維持のために絶対に必要な順機能である。しかし、この順機能が過剰になると、カロリーの取りすぎとなり、生命維持が危険にさらされるという逆機能が出現する。逆にカロリー不足になると、やはり生命維持の危険にさらされる機能不全となる。過剰摂取は逆機能、不足すれば機能不全となるのである。

 このことは、塩分の取りすぎでも同様である。塩分摂取は生命維持に絶対必要な順機能であるが、過剰摂取では逆機能となり、不足すれば機能不全となる。

命題12

命題12:逆機能を招かず、機能不全にも陥らない、順機能の最適値が存在する。

 上記の命題11は、カロリー摂取・塩分摂取の最適値が存在するという仮説命題を導く。いや、医学にあっては、仮説ではなく、ごくあたり前の命題である。カロリーにしても塩分にしても一日の適正摂取量は科学的に定まっている。

 しかし、医学界にあっても最適値を定めることのできないことがある。癌である。癌細胞は人間の細胞である。それゆえに癌細胞を撲滅する機能は一般の細胞も撲滅させてしまう。癌細胞撲滅という機能のみを考えるならば撲滅が最適値であるが、それを「最適値」と位置付けることはできない。一般細胞を死滅さるという逆機能を極力抑制し、癌細胞を死滅させるという順機能をできるだけ高めるという中途半端な位置が最適値となるのだが、その値は必ずしも明確ではない。

 今日の社会学は、その研究領域のほとんどの事象で、残念ながら順機能の最適値を科学的に定めることができない学的状況にある。

命題13と命題14

命題13:人類の歴史は、機能不全解消史であり、順機能追求史であり、逆機能出現史であった。

命題14:20世紀後半から21世紀前半にかけての期間は、機能不全克服の人類史から逆機能克服の人類史への移行期である。

 命題11は、さらに命題13ならびに命題14というとてつもなくスケールの大きな仮説命題を導く。近代まで人類は飢餓の恐怖にさらされていた。生命維持の機能不全が人類史であった。ホモサピエンス出現以来十数万年という長い人類史は、人類の生存・繁栄のための順機能追求史であったし、飢餓という機能不全解消史であったと、言えるであろう。文明は人類の機能不全解消・順機能追求として描くことが可能なのである。

 そして、ようやく機能不全を解消し、順機能を完遂させた20世紀に至り、今度は人類のあくなき順機能追求が過剰順機能をもたらし、逆機能を出現・先鋭化させていったと、このように推察し得るのである。

 ことによると、ポストモダンとは、近現代が順機能を絶え間なく追及した結果の逆機能の先鋭化時代なのかもしれない。

主な参考文献
  • Merton, R. K., 1961, Social Problem and Sociological Theory in Merton, R. K. and Nisbet, P. A. (eds.), Contemporary Social Probrems, Harcoult Brace & World, Ink.: New York & Burlingame, 697-737(森東吾訳、1969、「社会問題と社会学理論」 森東吾・森好夫・金沢実訳『現代社会学体系13 マートン 社会理論と機能分析』青木書店、410-471)
  • 矢島正見、2011、『社会謬理学的想像力』学文社
矢島 正見(やじま・まさみ)/中央大学文学部教授
専門分野 犯罪社会学、社会病理学、性社会学
1948年、横浜に生まれる。1979年、中央大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程単位取得満期退学。その後、大正大学文学部専任講師・同助教授・中央大学文学部助教授を経て、1993年より教授。
犯罪・非行、青少年問題、性の問題等、社会の歪みから生じる諸事象・諸状況を研究、また、そうした諸事象・諸状況から逆に社会と時代を考察する。主な著書に『社会病理学的想像力』(学文社、2011)、『改訂版 戦後日本青少年問題考』(一般財団法人青少年問題研究会、2013)などがある。