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酒井 克彦

酒井 克彦【略歴

租税行政に関する処分の理由附記

酒井 克彦/中央大学商学部教授
専門分野 租税法、税務会計

はじめに―事例の紹介

 近年は租税行政上の手続に関して、処分の理由附記の問題が特に注目されています。

 ここで、2015年4月19日付けの朝日新聞朝刊に報道されたある事案を紹介しましょう。

 社長ら遺族3人は、2011年に亡くなった父親の土地や株式など約8億円の財産を相続しました。一方で、父親は合資会社の債務を負う「無限責任社員」で、その会社には約14億円の債務があったため、相続税はかからないと考え、財産の一部を除いてその残りの遺産について税務署に申告したのです。これに対し、国税局は父親が無限責任社員になったのは相続税の回避が目的で、約14億円の債務を請求される見込みもないと判断し、2013年に約8億円の申告漏れを指摘し、約2億5000万円を追徴課税しました。その後、遺族らは、債務は存在し、課税処分の理由附記もなされていないなどとして、国税不服審判所に対して課税処分の取消しを求める審査請求をしました。国税局は、「課税の理由は、金額と適用法令が提示されれば十分」と主張しましたが、国税不服審判所は「課税の理由は不明で、法律の要件を満たしていない違法な処分だ」として課税を取り消したのです。なお、実際に債務があったかどうかについて、国税不服審判所は判断をしていません。

1 行政処分の理由

 さて、行政庁が、納税者の行った確定申告の内容を職権で是正する場合には、その処分の理由について法律の根拠を示すなどして、明確に文書で説明(以下「理由附記」といいます。)をする必要がある、と従来から考えられてきました。しかし、行政が大量に発生することなどの理由から、「特定の納税者」に対する行政処分を行う場合を除いては、行政処分の理由附記をする必要はないと規定されていました(より正確には、予定納税の減額の承認申請の却下(所得税法113③)、延納申請の却下(相続税法39④)の理由附記などもあります。)。ここにいう特定の納税者とは、適正な帳簿書類に基づく申告を行うことを宣言した上で税務署長の承認を受けた、いわゆる青色申告者のことを指します(旧所得税法155)。すなわち、青色申告者以外の納税者に対する行政処分に対しては、理由附記をすることなく行っても良いことになっていたのです。

 この点、1993年に制定された行政手続法において、行政庁に対し処分の理由附記が義務付けられていましたが(同法8及び14)、国税に関する法律である国税通則法は、国税の税務執行に関する諸手続につき、行政手続法の規定の適用を相当部分排除しており、同法の定める処分の理由附記の規定は、国税の行政手続には適用されないとしていたのです(国税通則法74の2①は行政手続法2章(同法5~11)及び3章(同法12~31)の適用を排除しています。)。

2 理由附記の趣旨

 ところで、行政処分に理由を附記するのは、①行政庁による恣意的な処分の抑制や、②不服申立ての便宜のためであると理解されています。

 例えば大阪高裁平成25年1月18日判決(判時2203号25頁)は、次のように説示しています。

「法人税法130条2項は、青色申告に係る法人税について更正をする場合には、更正通知書にその更正の理由を付記すべきものとしている。これは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨によるものと解される。

 また、更正の理由付記は、単に納税者に更正の理由を示すに止まらず、更正の妥当公正を担保する趣旨をも含むものであるから、更正の理由を納税者が推知できる場合であっても、その理由を納税義務者が推知できると否とにかかわりがなく、付記すべき理由の程度が緩和されるものではないというべきである(最高裁昭和38年12月27日判決・民集17巻12号1871頁参照)。〔下線筆者〕」

 行政庁の行った処分に不服がある場合には、国に対して処分の取消しを求めることができますが、その際に不服を申し立てる趣旨や理由を明確にしなければ、不服を申し立てることができません。つまり、行政庁の行った処分のどの点につき、不服があると主張すべきなのか、ということが分からなければ、不服申立てをすることができないわけです。これが、②の不服申立ての便宜という意味です。

3 2011年12月の税制改正

 さて、これら2つの理由附記の趣旨は、青色申告者にのみ意味を有するものではありません。そこで、全ての納税者に対して処分の理由附記をすべきという意見が議論されてきました。2011年12月の税制改正では、このような意見を踏まえ、全ての納税者に対する行政処分の理由附記が必要であると国税通則法に規定されたのです。

 この処分の理由附記については、何故そのような行政処分を行ったのかという行政庁における判断過程についての具体的な記載が求められているといえましょう。したがって、単に申告不足額とその根拠条文を示すのみでは、上記に示した①及び②のいずれの面でも満足させるような理由附記ではないと思われます。そのような意味では、冒頭で紹介した事例における国税不服審判所の判断(裁決)は、妥当なものであったと思われます。

結びに代えて

 2011年12月の税制改正によって、全ての行政処分について理由附記が義務付けられたのですが、行政庁はこの点につき研修機関での研修を充実させています。私も、政府研修機関において、その研修のお手伝いをさせていただいていますが、このような事例に触れると、法の趣旨を十分に理解した上でのよりしっかりとした法令遵守が現場において担保されなければならないし、そのための努力が続けられるべきであると再認識をしているところです。

酒井 克彦(さかい・かつひこ)/中央大学商学部教授
専門分野 租税法、税務会計
東京都出身。2006年 中央大学大学院法学研究科博士後期課程修了。法学博士(中央大学)
国士舘大学法学部教授を経て2014年より現職、
現在の研究課題は、租税法と私法との交錯や租税回避論などである。
また、主要著書に、『フォローアップ租税法』(2010)、『ステップアップ租税法』、『所得税法の論点研究』、『ブラッシュアップ租税法』(以上2011)、『クローズアップ租税行政法』(2012)、『クローズアップ課税要件事実論〔第3版〕』(2014)、『スタートアップ租税法〔第3版〕』(以上財経詳報社、2015)、『行政事件訴訟法と租税争訟』(2010)、『裁判例からみる法人税法』(以上大蔵財務協会、2012)、ほか多数の単著がある。