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江川 章

江川 章【略歴

広域コミュニティの形成と農村振興

江川 章/中央大学経済学部准教授
専門分野 農業経済学

1.平成の大合併から20年

 平成の大合併(市町村合併)が進められて、2015年で20年になる。1995年の合併特例法改正、1999年の地方分権一括法等によって市町村合併は急速に進行し、1995年には3,234あった市町村数は2005年には2,395市町村、2015年には1,718市町村へと大きく減少した(市町村数はいずれも4月時点)。この間、地方の現場を歩くと、当初は見慣れなかった市町村名も随分馴染んできた感がある。

 市町村合併は行財政の効率化や職員能力の向上を目的としたものであるが、他方では合併による周辺部の衰退や行政と住民相互の連帯の弱まり、住民サービスの低下等といった問題点も指摘されている。こうした点は農村部において顕著にみられ、市町村合併による効率化の陰で地域密着型サービスが低下しているケースも生じている。

 このように、市町村合併は住民の暮らしを支える地域基盤をぜい弱にする恐れがあるものの、大半の農村地域では、高齢化が進行するなかでも急激な地域活力の低下までには至っていない。それは、農村部においては地域住民の活動拠点である農業集落が残っているからである。

2.農業集落の動向と集落機能の弱体化

 わが国の農山村に立地する農業集落は、農道・用排水施設や共有林の管理、農機具等の共同利用、労働力の相互補完、農産物の共同出荷といった営農面ばかりでなく、冠婚葬祭などの生活面にまで密接に結びついた生産および生活の共同体として機能してきた。こうした農業集落は、この20年間で140,122集落(1990年)から139,176集落(2010年)へとわずか0.7%しか減少していない。先にみた市町村数の動向と比較すれば、未だなお農業集落は強固に残っていることが確認できるだろう。

 とはいえ、今後一層の高齢化が進展すれば、市町村合併によって生じた周辺部である農村地域から確実に人口減少が進むことは想像に難くない。実際のところ、生産・生活条件の厳しい中山間地域を中心に、集落の小規模化(集落を構成する農家数や世帯員数の減少)に伴う集落機能の弱体化が進んでおり、多くの集落で農業生産活動の停滞はもとより、農林地等の地域資源の荒廃や定住基盤の崩壊が懸念されている。

3.集落再編における広域コミュニティ

 こうした事態を受けて、集落再編にかかる議論が2000年代に入ってから始まった。これまで農業・農村を支えてきた昭和一桁世代は2000年代に65歳以上となるため、中山間地域を主に人口減少と高齢化が急速に進み、集落機能の担い手が量的・質的に弱体化することが危惧された。その危機感の表れとして、2007年に国土交通省が発表した「消滅集落」を挙げることができ、それは当時大きな話題を呼ぶこととなった。また、2000年代に前述した平成の大合併をはじめ、中山間地域等直接支払制度[1]に代表される集落に影響を及ぼす制度が施行されたことも大きい。こうした農村内外の情勢変化が集落再編の議論を活発化させたといえるだろう。

 集落再編のなかで注目されるのは、複数集落にまたがる広域コミュニティの形成である。全国市区町村に対するアンケート調査[2]をみると、広域コミュニティは市区町村の約3割に設置されており、その多くは行政から財政的・人的サポートを受けながら小学校区単位で活動している。組織活動は地域自治にかかわるものから、実際の地域諸活動(イベント運営、環境保全活動、防災・交通安全活動等)への従事まで多岐にわたる。広域コミュニティは既存の集落活動を補完しつつも、これまでにない新しい事業を起こすなど、多様な事業に取組んでいる。この取組みは、地方創生の動きのなかでも「小さな拠点」の形成(集落生活圏の維持)として注目を集めている状況にある。

4.広域コミュニティの論点

 こうした広域コミュニティの特徴や性格は次のように整理をすることができる。第1に、広域コミュニティの組織構成についてである。広域コミュニティは、既存集落の自治機能を残しながら機能別に再編されている。その内部組織は多様な階層を有する部会制・委員会制となっており、それらが連合して広域コミュニティを形成している。この連合体は地域のマネジメントに携わり、実際の地域諸活動は内部組織の部会や委員会が担っている。これは、広域コミュニティがマネジメント組織であるとともに、実行組織でもあるという性格を示すものである。

 第2に、広域コミュニティの活動内容に関するものである。広域コミュニティは、様々な事業に取組む総合事業体として位置づけられる。取組む事業には事業性が追及される収益部門(物販、イベント等)と、社会性が求められる非収益部門(地域資源管理、生活互助等)があり、両者のバランスをとることが組織を持続させるうえで重要となる。なお、収益部門に関しては、組織自らが収益をあげることはもちろんのこと、行政からの財政支援も含めて考察する必要がある。行政支援は、単に広域コミュニティの財政基盤が弱いからではなく、広域コミュニティが社会的性格を有するがゆえの措置である。この点からみても、広域コミュニティの活動では事業性と社会性とを両立させることが重要となる。

 第3に、広域コミュニティを担う人材にかかわる点が挙げられる。組織に必要な人材には、組織マネジメントを担うリーダーと、地域諸活動を担う実行部隊とがあり、それぞれをいかに確保・育成するかが重要な課題となる。しかし、高齢化が進むなか、人材供給源という点で既存の集落単位では限界がある。そこで、広域コミュニティを形成することによって人材確保の範囲を拡大し、必要な人材を登用することが可能となる。なお、人材は内部だけでなく、外部からも確保していかねばならない。新しい価値観や考えを有する外部人材は、これまでにない活動を考案し、組織運営の新たな担い手となる可能性があるからだ。

5.広域コミュティの形成と行政支援

 組織(マネジメント組織と実行組織の二面性)、事業(収益事業と非収益事業とのバランス)、人材(リーダーと実行部隊、内外人材の確保)という点から性格づけられる広域コミュニティは、既存集落を補完し、地域活性化を担う新たな受け皿となることが期待されている。ただし、従来の農業集落を基礎とした仕組みが自動的に広域コミュニティに移行するわけではない。何らかの契機を作り、広域コミュニティの設立を主導する主体の役割が今後重要となるだろう。実際には、行政や農協、地元住民等が組織設立を主導し、立ち上げ後の組織運営においても様々なサポートを行っている状況にあるが、とりわけ、財政・事務支援という点で行政が果たす役割は大きい。

 平成の大合併から20年。合併に伴う周辺部の地域活力の低下を防ぐためにも、農村振興を担う広域コミュニティの形成を促すことが、あらためて行政側に問われている。

  1. ^生産条件が不利な中山間地域に交付金を支給し、農業生産活動を支援する制度であり、2000年から開始された(5年ごとに事業を見直しており、現在は第4期対策)。交付金の受給条件の一つの集落協定の締結があるため、集落を基礎とした活動計画を構築する必要がある。
  2. ^坂本誠・小林元・筒井一伸(2013)「全市区町村アンケートによる地域運営組織の設置・運営状況に関する全国的傾向の把握」JC総研レポートVol.27。
江川 章(えがわ・あきら)/中央大学経済学部准教授
専門分野 農業経済学
長崎県出身。1968年生まれ。
1991年九州大学農学部卒業。
1993年九州大学大学院農学研究科修士課程修了。
1995年九州大学大学院農学研究科博士課程中退。博士(農学)・九州大学。
農林水産省農林水産政策研究所、株式会社農林中金総合研究所を経て2014年より現職。
現在の研究課題は農業における人材育成と担い手構造に関する研究、地域資源管理と農村振興に関する研究などである。主要著書に『新規就農を支える地域の実践』農林統計出版、2014年などがある。