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松下 光司

松下 光司【略歴

「空気」を読む顧客のココロ:グループ消費における満足度形成

松下 光司/中央大学ビジネススクール(専門職大学院戦略経営研究科)教授
専門分野 消費者行動論、マーケティング論

 顧客がレストランなどでサービスの提供を受けた後、「今日の食事は良いものだったなあ」という気持ちになってもらえるかどうかは、企業にとって極めて重要なことです。なぜなら、このような気持ちは「もう一度このレストランやホテルを再び利用しても良い」(再利用意図)といった、サービス提供組織にとって望ましい行動につながることが期待できるからです。よく知られているように、この種の顧客の気持ちは、「顧客満足」と呼ばれています。私が共同研究者と取り組んでいるのは、この顧客満足の研究です。

空気を読むココロと満足度形成

 企業にとって高い満足度が重要だとすれば、それに寄与する原因探しが研究テーマとして重要になります。容易に想像できるように、その主な要因は、提供されるサービスの品質(例えば、食事が美味しかったかどうか、スタッフの対応が良かったかどうか)です。そのため、膨大な顧客満足度の過去の研究は、サービス品質と顧客満足の関係に注目してきているのです。

 しかし、例えば、顧客が、家族、仲の良い友人、会社の同僚や上司といったグループによってレストランで食事をしたとき(私たちは、これをグループ消費と呼んでいます)には、食事の美味しさにだけ注目していて良いのでしょうか。「十分ではない」はない、というのが私たちの主張です。その理由は、「グループにおける同伴者がこのサービスに満足したようだ。だから私も満足だ」といったような同伴者を意識した顧客の心理プロセスが喚起されると考えられるためです。私は、この心理プロセスは、「空気を読む」といった言葉で表される心の動きに似たものだと思っています。その意味で、私たちの研究は、「空気を読む顧客のココロ」を組み込んだ、顧客満足度モデルを構築していると言えるわけです。

日本人とアメリカ人のココロの比較研究

 私たちは、空気を読むココロが強く現れるかどうかは、顧客が持つ文化的志向に依存するのではないかと考えています。基本的なアイデアを言えば、「日本人の方がアメリカ人よりも、空気を読むココロを持っている」ということです。サービス消費の文脈に当てはめて言えば、アメリカ人のよりも、日本人の方が、グループにおける同伴者が満足している(不満足である)様子を見て、自分も満足して(不満足になって)しまう、というものです。

 このアイデアの理論的基盤は、近年の文化心理学と呼ばれる領域の研究に見いだすことができます。そこで示されているのは、東アジア文化圏の人々(例えば、日本人)は、西洋文化圏の人々(例えば、アメリカ人)と比べ、他者との関連の中から自らの感情を形成する、ということです。私たちは、この見方を顧客満足研究に援用し、仮説を立てたのです。少し難しい言い方になりますが、「西洋文化圏の顧客に比べて、アジア文化圏の顧客のほうが、同伴者の満足度の知覚が当該顧客の満足度の形成に与える影響が強い」というのが基本的な仮説です。

実際に空気を読んでいた!日本人顧客

 実はすでに私たちは、「日本人の方がアメリカ人よりも、空気を読むココロを持っている」というアイデアの妥当性を、日米顧客を用いた比較実験や調査により確認してきています。そこで明らかにされたことは、次のようなものです。

 第1に、東アジア文化圏の志向を強く持つ顧客のほうが、同伴者の満足度に強く影響を受けて満足度を形成することがわかりました (Matsushita and Tsuchihashi 2013; Matsushita et al. 2015)。私たちの基本的なアイデアが支持されたわけです。日本国内のデータを用いた調査結果からですので、確信を持って結論付けることはできませんが、確かに、日本人的志向を強く持つ顧客のほうが、「空気を読んでいた」のです。

 第2に、日本人は、米国人に比べて、同伴者があまり良くないサービス(ウエイターの望ましくない態度など)を受けたときに、空気を読むようなココロの動きを見せた、ということです。もう少し詳しくいうと、日本人の顧客は、とりわけ同伴者が低い満足しか得られていないと見えるときは、空気を読むココロが働き、同伴者に合わせて自らの満足度の高まりを抑制してしまっていたのです (Matsushita et al. 2014)。同伴者の浮かない表情に対して、とても気を使っている日本人の様子を思い浮かべてしまいます。

新たな顧客満足度モデルへの挑戦

 この研究の特色は、従来の顧客満足モデルが暗黙裏に含めていた仮定に挑戦していることです。従来のモデルは、「顧客の満足度は、他者の感情を参照することなく、自律的に顧客個人によって決定される」という仮定を持っていたと、私たちは考えています。この従来型のモデルは、「自律的な個人型の顧客満足モデル」と呼ぶことができるでしょう。一方で、本研究は、「アジア文化圏の顧客の場合、満足度という個人の感情的反応であっても、同伴者の感情的反応を意識して形成される」という視点を持った、「グループ共有型の顧客満足モデル」を提案していると言うことができるわけです。

 このような対比からわかるように、本研究の意義は、日本に代表される、アジア顧客の特徴を明らかにすることに留まるものではありません。従来の支配的見解を狭い範囲の特殊モデルと見なすことで、より一般的な顧客満足理論の構築を目指していると言えるのです。

次なる課題への取り組み

 さて、私たちは、「空気を読む顧客満足度モデル」を、より現実的なサービスの文脈に適応し、マネジメントへの示唆を導出することを目指しています。一例をあげれば、グループの人数が増えたときには、どのような反応が起こるだろうかということです。このようなときには、日本人であっても、空気を読むココロは見えなくなるかもしれません。たくさんの同伴者がいるときには、一人一人を細かく気にかける必要はなくなるからです。

 私は、この研究課題に、日本人と米国の研究者との国際共同研究として取り組んでいます。このような多様なグループで研究をしていると、ときより、グループ研究の「研究満足度」が高まるときは、どんなときかと考えてしまいます。やはり他の研究者の影響を受けるのかなと。共同研究者曰く、「それは簡単。文化は関係ないよ。他の人の満足も関係ない。論文になったときだよ。」それはそうだ。満足度を得るためにも、もう少し長い時間、粘り強くこのテーマに取り組んでいくことになりそうです。

参考文献
  • Koji Matsushita,Haruko Tsuchihashi,and Kaichi Saito (2015) “Customer Satisfaction Regulation in Group Service Consumption: Cross-Cultural Moderators.” Association for Consumer Research,Asia-Pacific Conference Program, June 2015, in Hong Kong,pp.45.
  • Koji Matsushita and Haruko Tsuchihashi (2015) “Effects of Perceived Other’s Satisfaction on Customer Satisfaction and Repeat Intention in Group Service Consumption: Moderating Role of the Interdependent Self.” 『慶應経営論集』、第32巻第1号、pp.149-160
  • Koji Matsushita, Akito Nakamura, Haruko Tsuchihashi, and Kaichi Saito (2013) “Effects of Perceived Other’s Satisfaction and the Role of the Interdependent Self in Group Service Consumption.” Association for Consumer Research,North American Conference Program, October 2013, in Chicago,pp.101.
松下 光司(まつした・こうじ)/中央大学ビジネススクール(専門職大学院戦略経営研究科)教授
専門分野 消費者行動論、マーケティング論
1971年東京都生まれ。2003年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了 博士(経営学)。南山大学大学院ビジネス研究科准教授などを経て、2012年より、中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授。研究テーマは、消費者行動論の視点に基づくブランド研究、および、サービス消費の文化比較研究。主な著書に、『消費者行動論―マーケティングとブランド構築への応用』(共著、有斐閣、2012年)などがある。