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特別企画

鼎談

映画『きらきら眼鏡』が出来るまで

左から 映画監督 犬童一利さん(商学部卒業)、文学部長 宇佐美毅、脚本家 守口悠介さん(文学部卒業)

 7月13日、映画『きらきら眼鏡』の試写会が中央大学多摩キャンパスで開催されました。そこで、監督の犬童一利さん(中央大学商学部卒)、脚本の守口悠介さん(中央大学文学部卒)、宇佐美毅文学部長(フィクション研究者)の鼎談がおこなわれました。

映画『きらきら眼鏡』について
原作は森沢明夫の同名小説。主人公の青年・立花明海(たちばなあけみ=金井浩人)が、古本に挟まっていた名刺から年上の女性・大滝あかね(=池脇千鶴)と知り合い、人間の「生死」について深く考えさせられていく。9月7日からTOHOシネマズららぽーと船橋で先行上映、9月15日から有楽町スバル座ほか全国で順次公開。

映画『きらきら眼鏡』が制作されるまで

宇佐美 この映画の制作を、原作者森沢明夫さんから指名されたと聞きました。

犬童 4年ほど前に森沢さんの別作品を映画にしようして、悠介と二人で取材もしました。それは実現しなかったんですけど、『つむぐもの』(2016年)をすごく気に入っていただきまして。その時ちょうど船橋市が市政80周年で『きらきら眼鏡』の映画化の話があって。そこで森沢さんが自分たちの名前を船橋側に言ってくれて、企画が動き出しました。

宇佐美 制作費やその他の条件はどうでしたか?

犬童 今回は資金集めの段階から船橋市民の方々と進めています。なので、地域性という意味では、ほかの映画よりも踏み込んだ作り方になっています。助成金もあり、市長、副市長も全面的に協力してくれています。原作からの脚色に関する制約は一切なかったです。

守口 唯一言われたのは、「『つむぐもの』より面白くしてください」と(笑)。

犬童 答えづらいですけどね、映画の方向性も違うし(笑)。

宇佐美 それは一番難しい注文かもしれない(笑)。 小説が映像化される場合、時には原作者と摩擦が起きることもありますが、今回は全面的に任されたんですね。

文学部長 宇佐美毅

犬童 プロットをお見せした後は、決定稿まで見せなかったんです。キャスティングに関しても、何か言われることはありませんでした。

宇佐美 守口さんの立場だと、「任せる」と言われると、自由にできる半面、難しいこともあったのではないですか?

守口 そうですね。プロットを見せた後、船橋で決起会みたいなのがあって、その時強烈に気まずかったのを覚えています。「あ、プロット今朝観ました…」って(笑)。

犬童 プロットの段階でガラッと設定を変えてるんで。森沢さんも受けとめきれてなかった感じだったよね(笑)。

守口 でも、「信じて任せる」と言っていただけたので。原作の魂まで変わったらダメ、というのはあるので。観ていただいた時に、「良かった」と言ってもらったのは嬉しかったですね。

宇佐美 「こんなに原作と変わるんだ」って感じですか。

守口 出版社や船橋の方からもありましたね。

犬童 猫出てこないし(笑)。

学生時代からの犬童さん、守口さん

宇佐美 お二人は中央大学の学生時代、学園祭の実行委員同士だったそうですが、その頃のことを聞かせてください。

犬童 経営について学びたかったかというと、あんまり思ってなかったですね(笑)。

守口 僕は、人間の心理が面白いなって思っていたので心理学部を受けていました。他には、小説は好きだったので文学系も受けていたけど。

犬童 二人でよく旅行したんです。四国一周とか、大阪、名古屋、京都とか。ヨーロッパにも行きました。その移動中に悠介はずっと小説を読んでた。その時に借りた本が、僕の数少ない読んだ小説の一部ですね(笑)。ヨーロッパ10か国を2週間で周ったとき、全部手配は悠介がやってくれた(笑)。

守口 僕が旅のシナリオ書いて、みたいな(笑)。

宇佐美 うまい! 当時お互いのことをどう思っていらしたんですか?

犬童 僕と二人で旅行するのってけっこうなことだと思うんですよ。お腹空いたとか、暑いとかそういうことばっか言ってるんで。

守口悠介さん

守口 そうだね。僕じゃないとできないですね(笑)。

犬童 あと怒んないっていうイメージがすごいありますね。

守口 僕は保護者っていう感じ(笑)。

宇佐美 逆に言うと、犬童さんはよく怒るんですか?

犬童 僕は怒りますね。でも、今映画やってる時にスタッフの人たちからいじられる感じとかは、学生時代から変わんないと思いますよ。

守口 そうだね、どこ行ってもかわいがられる感じとかは大学時代から変わらない。今でもいつもいじられてる。それはもう才能だと思います。

宇佐美 お二人は、学生時代に10年後の自分をどんなふうに思い描いていましたか?

犬童 何も考えてなかったですね。もっと海外に行けば良かったな。水商売の仕事とかもしとけば良かった。いろんな人を見れるんで。仕事辞めてから実際キャバクラで働いたこともあるんです。

守口 僕はもっと勉強しとけば良かったなって思いますね。今だとあの授業しっかり聴いとけばっていうのがいっぱいありますね。

宇佐美 卒業後、お二人とも会社員となります。

犬童 入って2年目頃、このままサラリーマン続けるのが面白くないなと思って。そこで自己分析して、自分はみんなでモノをつくるが好きだって思って。でも、正直それまで全然映画観てなかった(笑)。

守口 僕が脚本を初めて書いたのは3年生の時にアメリカのカールトン大学に1か月留学した時。その時に英語で寸劇を書いたのが楽しかった。あと、卒業ちょっと前に映画『スパニッシュ・アパートメント』(2002年)の話を二人でした記憶があるなあ。

犬童 『スパニッシュ・アパートメント』は、もろに小説家になる話だもんね。

宇佐美 安定した勤めを辞めるというのは大きな決断だったと思いますが?

守口 何かやりたいと思ったときに、ネットで見つけた脚本家の人に「何でもやるので手伝わせて下さい」って連絡して、会社員やりながらいろんな人の企画を手伝ったり、プロットを書いたりして。そうやってくうちに、「もう辞めます」って言って1年弱で辞めました。

犬童一利さん

犬童 悠介は親に言わないで会社辞めたんですよ。僕はそれをすごい怒って。「大学まで行かせてもらったのにそれは筋が違うんじゃないか」って。

宇佐美 その時だけは犬童さんが保護者みたいですね(笑)。

守口 いろんな人の手伝いをしながら自分で盗むっていう形で脚本を書きました。その中の一人がピンチヒッターで深夜ドラマに呼んでくれて、デビューしました。

宇佐美 脚本家は、シナリオスクールに通ったり、シナリオ大賞を獲ったりしてデビューする人が多いと思いますが。

守口 僕は、何でも実際にやってみる方が学べることが多いと思うので、スクールに行くより直接プロの方に話を聞いてやった方が良いと思って。

宇佐美 犬童さんは監督になると決めて仕事をお辞めになったんですよね?

犬童 僕らが完全に一緒なのは、「何でもやります」と言って知らない人にもバンバン連絡するんですよ。社会人2年目の途中から営業の仕事をしながら土日だけ自主映画を手伝ったりしてましたけど、ほぼ丸2年たった時に会社を辞めました。

守口 あと、サラリーマンやってて、ちゃんと社会性も持ってるというのもあったと思います。

犬童 それは会社員やってた経験が活きてますね。敬語が使えるとか。きちんとしたメールが打てるとか。映画業界はそういったビジネスマナーで損している人もいるので。

宇佐美 守口さんは、そこからステップアップして、深夜ドラマから『相棒』にいくわけですよね。『相棒』は多くの脚本家の競作ですか。

守口 『相棒』はコンペで面白いプロットを書けた人が脚本を書かせてもらえるんです。 3か月でシリーズを全部観て研究しました。中大で心理学を学んだことも盛り込んで書いたのが認められて。そこから仕事が増えていきました。

犬童 僕は、最初は製作会社の連絡や映画祭の運営をしたり、アシスタントプロデューサーのような仕事をしていました。その後、悠介に脚本を書いてもらってミュージシャンの中編映画を作りました。そして、取材をしながらスポンサーを探して『カミングアウト』(2014年)を撮りました。制作費は会社員時代のお客さんやイベントで知り合った人、現場を手伝った制作会社が少しずつ出してくれました。配給も自分でやりましたね。

映画『きらきら眼鏡』に託したもの

犬童さん、守口さんのトークショー

宇佐美 『きらきら眼鏡』の話に戻ります。主人公たちの職業が原作と変わっていることは大きいと思います。

犬童 明海は人を見る仕事にしたいので、最初ハローワークに二人で取材に行ったんです。

宇佐美 小説は明海の一人称で書かれていますが、映画は基本的に俯瞰で撮られるものですから、そこが難しい。

守口 小説では主人公たちの心の声が地の文で書かれています。映画では画で表現する。それでハローワークの職員を考えたんですけど、途中で犬童が「やっぱりなぁ」となって(笑)。それで駅員に変わった。

犬童 職業はいろいろ案を出しましたね。「くもった眼鏡」をかけている明海という冒頭の描写をいかに画で伝えられるかが重要だった。一般の人との接点がある空間も欲しかった。今回は地元の協力もあって、地下鉄であれだけ撮影ができました。

宇佐美 あかねの職業も変更されています。

守口 人物像とゴミの画的なものの両方あって産業廃棄物処理場の事務員に。いろいろ案を出した中で、あかねはわりと早く決まりました。

犬童 同じ設定でやることも出来たんですけど、ゴミ山の前で「きらきら眼鏡をかけてる」と言わせたかったんです。

トークショー終了後に学生と

宇佐美 一番大きい変更は、明海の過去ですよね。猫が同級生の話に変わっているというのに驚きました。

犬童 主人公である明海の成長というのを、映画では強調したいというのが1番の理由でした。

守口 初期の打ち合わせから二人とも同じ意見として持っていました。小説には小説の魅力がある。でも映画にした時に主人公が何を抱えていて成長するか、死をどう扱うかというのがありました。

犬童 小説では、恋愛観の要素が死生観より圧倒的に強いと感じていて、映画ではそれを逆転させたかったのがあります。

宇佐美 私が村上春樹やテレビドラマの授業をしている時に、死を乗り越えるというのは大きなテーマなんです。身近な人の死を乗り越えるにはどうしたらいいか、という作品が多いのはどうしてかという。そういった現代的な課題にも結び付いてくるなと思いながら映画を観ていました。

犬童 自分の心に嘘をついていないようで、実は自分自身と向き合えずに心に蓋をしているという所が現代的なテーマだと思っていて。総論で言うと、日本は裕福な国なので、ちゃんと自分の心と向き合わなくても幸せでいられたりする。自分の心と向き合うきっかけを映画で作りたいと思っています。

(編集協力 有田綸)

犬童 一利(いぬどう・かずとし)さん
1986年生まれ。神奈川県出身。中央大学商学部卒業。映画監督作に、『カミングアウト』(14脚本・監督)、『早乙女4姉妹』(15/脚本・監督)、第11回大阪アジアン映画祭コンペティション部門正式出品、第19回上海国際映画祭パノラマ部門正式出品の『つむぐもの』(16)がある。
守口 悠介(もりぐち・ゆうすけ)さん
1985年生。神奈川県出身。中央大学文学部心理学専攻卒業。脚本を手掛けた映画は、『つむぐもの』(16)、『ラオス 竜の奇跡』(17)、『こはく』(2019公開予定)などがある。主なテレビドラマに、「土俵ガール!」(10/TBS)、「相棒」(11~/EX)、『世にも奇妙な物語』(14~/CX)、「警視庁・捜査一課長」(16/EX)、「フリンジマン」(17/TX) 、「オー・マイ・ジャンプ!」(18/TX)などがある。
宇佐美 毅(うさみ・たけし)/中央大学文学部長・教授
専門分野 フィクション研究、現代文化論

テレビドラマを学問する

1958年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。東京大学大学院博士課程満期退学。博士(文学、中央大学)。中央大学文学部専任講師・助教授を経て1998年より教授。2017年より文学部長。
村上春樹をはじめとする現代文学を歴史的観点から考察し、明治期以降の日本の小説史に位置づける研究をしてきた。加えて、近年は文学に映画・演劇・テレビドラマ等を加えた総合的なフィクション研究を提唱しており、特にテレビドラマ研究を重視している。 主要著書に『小説表現としての近代』(おうふう)、『村上春樹と二十一世紀』(共編著、おうふう)、『テレビドラマを学問する』(中央大学出版部)などがある。
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