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目覚めよJAPAN2025
「中小企業、伝統工芸を次世代へ」
“ワザ伝”<前編>
中小企業の経営者や従業員をサポートする「あんしん財団」が、2017年から開始し中小企業や伝統工芸の技術を次世代につなぐ「“ワザ伝”プロジェクト」。そのワークショップが今年で13回目を迎えた。日本経済を支える中小企業は、卓越した技術で製品を送り出してきたが、伝統工芸の技術からもその影響がうかがえる。
連載の前編では、6月7日に開催した「“ワザ伝”プロジェクト」のワークショップからその一端を探る。
日本の産業の一端を担う市井のワザ
中小企業の技術者たちの力は日本の産業の土台となっている。高い精度が求められる宇宙開発事業において、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟では、中小企業を含め約650社の日本企業が開発・運用に関わった。
一方、伝統工芸も世界市場において存在感を高めている。世界最大級のインテリア・デザイン見本市である「Maison et Objet(メゾン・エ・オブジェ)」には、東京都が「東京手仕事」パビリオンを出展、活況を呈すなど、日本伝統の手仕事が世界で脚光を浴びている。
中小企業の匠の技や伝統工芸の技術は、世界に誇る日本の財産だ。
この貴重な財産を次世代に伝えるため、あんしん財団が主催し、日本各地で開催するワークショップが「“ワザ伝”プロジェクト」だ。対象は主に小学生で、技術者や職人に直接指導を受けながら、日本が世界に誇るものづくりの技術や熱意を体験できる。ケガへの補償や福利厚生サービスの提供などを通じ、中小企業を支える同財団の理念に基づいた取り組みだ。
伝統工芸を小学生が体験
今回、東京都足立区の複合施設にて開催された「“ワザ伝”プロジェクトinとうきょう2025」。東京で開催した理由について、あんしん財団の橋本修一常務理事は「最先端の情報が集まり、流行の発信地である東京においても、地域の歴史に根ざした伝統の技があることを子どもたちに伝えるために選んだ」と語る。
今回のプログラムは、経済産業大臣指定の伝統的工芸品である「江戸表具」のからくり屏風(びょうぶ)と、「東京手描友禅」のハンカチだ。
「江戸表具」とは、和紙や裂地(織物)などを用い、書画の表装や掛け軸、屏風などを仕立てる製品あるいは技術。江戸表具を使ったからくり屏風は縦横に開き、その方向によって絵柄が変化する。完成像のイメージと、柔軟な発想が必要なからくり屏風には巧みなすり合わせ技術が垣間見える。自動車や白物家電など日本の製造業は、精度の高いすり合わせ技術で世界をリードしてきた。日本文化が育んできた伝統工芸と通底する技術である。
「東京手描友禅」は、京都の友禅染めを発祥として江戸で生まれた染物だ。他地域の友禅染めでは下絵や塗りなどの作業は分業制が主流とされる。一方、東京手描友禅では一人の職人が多くの工程を担う。作り手の個性と想像力が試される点が特徴だ。経済の発展とともに変化するニーズに応じて職人の感性で作り上げられる東京手描友禅。白地に描くからこそ職人の想像力や美意識が問われる。訪日客が数々の“メイド・イン・ジャパン“に感動する所以がここにある。
「デジタルに慣れ親しんだ子どもたちに、実際に手を動かすことから生まれるアイデアの可能性に気づいてもらいたい」と橋本修一常務理事は期待する。
優雅な手さばきに目を輝かせる子どもたち
当日は参加した小学生約30名の緊張と期待が充満する両会場で、プログラムがスタートした。講師となる職人の自己紹介からはじまり、その優しい語り口に子どもたちの緊張は解けていく。
作業工程の説明に続けて、デモンストレーションが披露された。江戸表具の教室では、書画の裏に紙を張り付けて補強する「裏打ち」を実演。東京手描友禅の教室では、生地に線画を描く「下絵」と、生地に色を塗っていく「友禅挿し」が披露された。流れるような優雅な職人の手さばきに、子どもたちはじっと見入り、思わず質問の声を上げる。目の前で展開される匠の技に心を動かされていた。
子どもたちによる作品づくりが始まった。からくり屏風は、糊を塗る面を間違うと開かなくなってしまうため、講師に教えを乞いながら慎重に作業を進める。一方、友禅挿しでは、筆を置くとすぐに色が広がる布地に苦戦しながら、思い思いの色で生地を染めていく。
講師は刷毛などの道具の使い方や、作業のコツを分かりやすく解説する。子どもたちの手元では、それぞれの想像力が伝統工芸として形となっていく。1時間後、作品を完成させた子どもたちの顔には、充実の表情が浮かんだ。
子どもたちと向き合った職人たちは、こう語る。
「スマホなどのデジタル体験と異なり、手作業による身体的な創作体験は、最後までやり遂げることの喜びを通じて、忍耐力を鍛えてくれます。ものづくりをする場合に重要なのが感性を磨くこと。そのためには、たくさんの芸術や伝統工芸に触れることが大事。「“ワザ伝”プロジェクト」もその一環となるでしょう。ものづくりの仕事に興味を持ってもらい、将来その道に進んでもらえたら幸いです」
「こうした活動を通じ、伝統工芸品の存在とその価値を次世代につなげていくことが重要です」
子どもたちが中小企業や伝統工芸の技術に触れ、その奥深さを体感することで、日本のものづくり文化への理解を深めることができる「“ワザ伝”プロジェクト」。伝統の継承と創造の好循環を生むプラットフォームとなるだろう。