デジタルプラットフォームの法規制 ~検索エンジン 市場独占とスマホソフトウェア 競争促進法
「中央大学×大手町アカデミア」第12回
講師 中島 美香(なかしま みか)/中央大学国際情報学部教授

中央大学が歴史の中で培ってきた「価値ある知」を社会に還元する「中央大学×大手町アカデミア」。第12回となる今回は「デジタルプラットフォームの法規制 ~検索エンジン 市場独占とスマホソフトウェア 競争促進法」と題して2月12日に開催されました。中央大学国際情報学部の中島美香教授が、現在のデジタルプラットフォームの状況やスマホソフトウェア競争促進法の意義などについてオンラインで講演。その後のトークセッションでは、読売新聞東京本社編集局経済部・小林泰明記者との対話を通じ、テーマをより深く掘り下げた議論が行われました。
今、スマホに起きていること
中島教授はまず、デジタルプラットフォームについて説明しました。デジタルプラットフォームは、いわゆるGAFAと呼ばれるグーグル、アマゾン、フェイスブック(現メタ)、アップルなどの企業群が提供するサービスを指すことが多く、これらのサービスの共通の特徴として、「二面市場」と「間接ネットワーク効果」があると解説しました。
検索サービスにおける「二面市場」とは、利用者には無償でサービスを提供しながら、広告主からの検索連動型広告で利益を得るビジネスモデルです。そしてこのビジネスモデルでは、利用者がサービスを使うほどデータが集まると同時に、広告収益の増加により検索精度やサービスの品質が向上し、さらに多くの利用者と広告主が集まりやすくなるという好循環が生じます。これが「間接ネットワーク効果」です。
こうしたビジネスモデルについて中島教授は、「非常にイノベーティブなこと」としながらも、法律面から見ると市場を画定しにくい、違反行為を認定しにくいといった問題があり、従来の独占禁止法では十分に対処できていないと説明。これにより新たな法律の必要性が生じ、スマホソフトウェア競争促進法が制定されるに至った経緯を解説しました。
そして、同法は「事前規制」という特徴を持っており、プラットフォームで生じる弊害をあらかじめ想定し、予防的に義務付ける法律であると述べました。
また中島教授は、日本における検索サービス市場で現在グーグルのシェアが高いことを紹介。一方で、同法の施行により、iPhoneのサファリブラウザにおいて、これまでグーグルがデフォルト(初期設定)であった検索エンジンに他の選択肢も表示されるようになった具体例を挙げ、法律の効果を説明しました。
ここで中島教授は、競争の必要性について言及しました。グーグル1社がシェアをほぼ独占している状況は、利用者にとっては、1社のサービスで完結できるため便利で快適です。また、端末メーカーにとっても、自社端末にグーグル検索を搭載すれば広告収益の分配を受けることができるというように、一見すると「居心地がいい」状態です。しかし、市場独占下では、製品やサービスの価格上昇や品質の低下を招くおそれがあります。中島教授は、競争の価値は目に見えず実感しにくいものだが、手段を尽くして守らなければならないものであると強調しました。

検索のビジネスモデル
中島教授は次に、検索のビジネスモデルについて深掘りしました。現在のスマートフォンOS市場は、アップル社とグーグル社の2社寡占状態にあります。グーグル社は無償で端末メーカーにアンドロイドOSを提供し、より多くの端末でグーグル検索を利用してもらうことで、広告主から収入を得ています。また、端末メーカーとは、アプリストアである「グーグルプレイ」とセットでグーグル検索のプリインストールを求める契約を結んでいるとしています。
中島教授は、こうして常にグーグル検索が表示されることにより、利用者が深く考えずにグーグル検索を使い続けてしまう「現状維持バイアス」が働くという指摘を紹介しました。
また、グーグル社が、サファリのデフォルト検索エンジンでグーグルが採用されるよう、世界規模で2022年に200億ドル(約3兆円)をアップルに支払っていたという裁判資料を紹介。こうしてグーグル検索が圧倒的に利用される状況が作り上げられていると説明しました。

行政命令・司法判断と事前規制
中島教授は、日米欧の各法域における行政命令・司法判断と事前規制を比較しました。まず行政命令・司法判断について、米国は他の法域と切り口が異なり、対象としてOSや機器を限定せず、サファリのデフォルト検索エンジンにグーグルを採用していた問題も含まれるのに対し、EUと日本はアンドロイドの検索サービスのみを対象としていると違いを指摘。違法性については、EUおよび米国では訴訟が係属中ではあるものの、各法域ともグーグル社の一定の違法性を認定していると述べました。
そして、日本ではiPhoneの利用者が多いこと、サファリのデフォルト検索がグーグルに設定されていること、グーグル社からアップル社に多額の収益分配がなされている可能性があることを考慮すると、日本においても両社間の取引の違法性についても検討する必要があったのではないかと指摘しました。
次に中島教授は、EU及び日本の事前規制における検索独占の対応策を比較しました。事前規制を行う法律として、EUにはDMA、日本にはスマホソフトウェア競争促進法がありますが、米国には同様の法律はありません。条文の内容に関しては「デフォルト設定の変更を容易にすること・代替サービスの選択肢を提示すること」は日欧ともに採用されています。一方で、「検索に関連するデータの共有を行うこと」については、EUでは採用されていますが、日本では現状採用されていません。
独占を放置するとどうなるか
中島教授は、独占を放置することが、企業や利用者にどのような影響を与えるかについて話しました。まず検索エンジンがグーグルにほぼ独占されている状況では、生成AIなどの開発競争が公正な環境で行われなくなる可能性があると指摘。端末メーカーに対しては、革新的・多様な端末の開発が行われなくなり、端末製造から撤退を余儀なくされるメーカーもいるかもしれないと述べました。
利用者への影響については、情報選択の自由の問題を挙げました。中島教授は、「大手企業だから安心」と考える人は多く、たしかに、企業努力により、革新を生み出し、ブランドイメージを確立してきたことはよいこと。しかし、競争相手がいない(競争圧力のない)状況下で、製品やサービスの質が維持される保証はあるのか。そして、万一、(小さな国家予算を超える資金力を持つ)巨大グローバル企業のCEOが急に変わったとしても、私たちはCEOを選挙で選ぶことはできないと警鐘を鳴らしました。
講演の最後には、国家を超えて一部の大手デジタルプラットフォーム企業が情報流通や取引アクセスを事実上コントロールする状況において、独占禁止法やスマホソフトウェア競争促進法の果たす役割が大きくなっていると強調。事前規制制度を適正に運用し、競争促進の効果を発揮させるべきだと述べ、話を締めくくりました。

トークセッション
小林氏とのトークセッションでは、検索サービスを独占しているとされるグーグルの現状や問題点について、より具体的に議論しました。
グーグル社は、独占状態が問題視されていることに対し、「検索の品質が高く、利用者が自ら選択をした結果である」「競合他社の検索エンジンに簡単に変更することができる」と反論しています。中島教授はこれに対し、グーグル検索がプリインストール・デフォルト設定のうえ出荷されれば、利用者はスマートフォンを開けばグーグル検索という環境に晒されると指摘。さらに、「もし本当にグーグルが利用者に選ばれているのであれば、端末メーカーにお金を払ってライバルを排除する必要はないはずだ」と鋭く分析しました。
また、生成AI分野での競争については、グーグル社も技術革新による新たな競争に直面していると説明。これは好ましい変化だとしながらも、公正な競争環境を整えなければ、せっかくのイノベーションに水を差すことになりかねないと、改めて適切な法執行の重要性を語りました。
※2026年2月12日に開催した「中央大学×大手町アカデミア第12回 デジタルプラットフォームの法規制~検索エンジン 市場独占とスマホソフトウェア 競争促進法」の動画はこちら。
中島 美香(なかしま みか)/中央大学国際情報学部教授
専門分野 民事法、情報法(競争政策)修士(法学)(東海大学)
2007年東海大学大学院法学研究科博士課程後期満期退学。
㈱情報通信総合研究所法制度研究部主任研究員を経て、2019年より中央大学国際情報学部准教授、2025年より現職。
主要論文「米国グーグル反トラスト法裁判2024年8月判決と デジタル・プラットフォーム規制の意義」SOFTIC Law Review 3号(2025年)、「デジタル・プラットフォームに対する削除請求に関する2つの最高裁の判断――グーグル決定とツイッター判決の削除基準」国際情報学研究 5号(2025年)など。









