人ーかお

「誰もが自分らしく生きることができる」社会のために

服部 咲(はっとり さき)さん/弁護士

1. 性的少数者からの相談

 私が弁護士として特に力を入れているのはLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった言葉)、いわゆる性的少数者の権利問題です。同性パートナーとの関係が法的に認められないことで生じる不利益、職場での差別的扱いやハラスメント、家族からの拒絶にまつわるトラブルなど、相談内容は多岐にわたります。弁護士と聞くと華やかな世界を想像するかもしれませんが、日々の仕事の大半は、相談者の話をじっくりと聞き、状況を丁寧に整理し、一歩ずつ解決策を探ることの積み重ねです。

 相談者から、「自分は社会に存在していいのだろうか...」そのような言葉を、今でも聞くことがあります。

 初めて事務所の扉を開ける相談者の多くが、それまで誰にも話せずに抱え込んできた苦しさを持っています。そのたびに、私はこの仕事を選んでよかったと思うと同時に、法律家としてやるべきことの責任の重大さを改めて感じています。

2. 弁護士を目指したきっかけ

 私が法律家を志したのは、知的障がい者の方の力になりたいという思いからでした。父が養護教員であったことから、知的障がいのある方と日々接することが多く、制度の壁や社会の無理解によって、当たり前の生活を阻まれている現実を目の当たりにしました。

 「弁護士として、彼らを支援できないだろうか」。その問いが、私を法曹の世界へと向かわせました。

 弁護士を目指すと決めてからは、司法試験の勉強と並行して、障がい者が加害者・被害者となってしまった刑事事件等を調査し、研究を重ねていました。

 研究を進めるうちに、性的少数者もまた法的な保護が十分に及ばず、日常のあらゆる場面で不利益を受けていることを知りました。障がい者の問題もLGBTの問題も、根底にある問題意識は同じです。社会の多数が「普通」と決めてしまった枠に当てはまらないというだけで、人の尊厳が傷つけられている。そのことへの怒りと、変えたいという意志が、私を突き動かしてきました。

3. 考え抜く力――中央大学法科大学院での3年間

 法科大学院での3年間は、私の法律家としての土台を作ってくれた時間でした。多様なバックグラウンドを持つ同級生・先輩や後輩と、日々、切磋琢磨しながら、「法律は誰を守るのか」を考えました。社会人経験を持つ方、海外での経験がある方、社会的弱者と呼ばれる当事者の方、それぞれの異なる視点から法律を紐解くことで、現在の法律や制度が社会的弱者に対して不十分なことが多いと実感しました。

 ゼミ室で裁判例を読み「この判決は本当に正しいのか」と考え込んだ日々が懐かしいです。障がい者や性的少数者をめぐる判例に向き合うたびに、法が当事者の現実に追いついていないことを痛感し、「いつかこの状況を変えなければならない」という思いをより強くしました。中央大学法科大学院での経験が今の自分の仕事の原点です。実務に出てからも、考え抜く――その姿勢は、あの3年間が培ってくれたものだと感じています。

4. 法律という道具を使いこなすということ

 私は、今年で弁護士10年目を迎えました。弁護士10年目を迎えて改めて思うのは、法律は「道具」だということです。使い方次第で、人を守ることも、追い詰めることもできます。その道具を正しく、そして温かく使いこなすためには、条文や判例の知識だけでは足りません。相談者がどんな痛みを抱え、何を本当に求めているのか、その声に耳を傾けることなしに、法律の力は活きません。

 忘れられない相談があります。ある女性が、長年連れ添った同性パートナーを交通事故で亡くしました。しかし、同性パートナーの家族には理解を得られず、「葬式に出席することができない」「長年そばにいたのにもかかわらず、最後に送り出すこともできない」と、彼女は泣いていました。

 そのような苦しみを抱えた相談者に会いに行き、話を聞き続けました。法的な手段をお伝えしながら、最善の道筋を探りましたが、彼女が本当に納得できる解決に至れたのかは今でもわかりません。

 それでも「話を聞いてもらえたことで、少し楽になれた」という彼女の言葉が、今も心に残っています。法律的な勝ち負けとは別の次元で、弁護士として存在できていることを実感した瞬間でした。

5. この先もずっと

 近年、日本社会のLGBTをめぐる状況は少しずつ変化しています。パートナーシップ制度を設ける自治体も増え、人口カバー率は90%を超えました。「結婚の自由をすべての人に訴訟(いわゆる同性婚訴訟)」でも全国6か所の高裁判決が出そろい、そのうち5件が「違憲」との判断を示しました。

 そして2026年3月、最高裁は審理を大法廷に回付することを決定し、早ければ2026年度中にも、15人の裁判官全員による歴史的な憲法判断が示される見通しです。まさに日本の法制度にとって歴史的な局面を迎えています。最高裁の判断がどのようなものになるか、固唾を呑んで見守っています。弁護士として、そして当事者を間近で見てきた一人として、この判決が多くの人の人生を変える力を持つことを実感しています。もちろん、変化は遅く、もどかしいと感じることも多いです。それでも、一つひとつの相談に向き合い、一人ひとりの当事者とともに声を上げ続けることが、大きな流れを作ると信じています。

 中央大学法科大学院で学んだ「考え抜く力」を私はこれからも手放さないでいたいと思います。誰もが自分らしく生きることができる社会のために、私は、この仕事を続けていこうと思います。

服部 咲(はっとり さき)さん/弁護士

北海道出身。1989年生まれ。北海道旭川東高等学校卒業。2011年3月中央大学法学部早期卒業。2014年3月中央大学法科大学院(未修)修了。2014年9月司法試験合格(68期)。都内法律事務所勤務を経て、2021年西池袋法律事務所入所。

LGBT(性的少数者)の権利問題に積極的に取り組んでいる。