研究

AI就活面談練習システム「Chu活ボット」とは何か

鈴木 寿(すずき ひさし)/中央大学理工学部教授
専門分野 機械心理学、サイバネティクス、情報理論、人工知能、医用工学

1. 人工知能研究の多様性

 検索エンジンに「人工知能学会 WhatsAI」と入力して人工知能学会による人工知能のやさしい説明「What's AI」のページを探し「人工知能研究」をクリックすると[1]、AI(人工知能)の研究とはいっても、遺伝アルゴリズム、エキスパートシステム、音声認識、画像認識、感性処理、機械学習、ゲーム、自然言語処理、情報検索、推論、探索、知識表現、データマイニング、ニューラルネット、ヒューマンインターフェース、プランニング、マルチエージェント、ロボットなど多様な技術をカバーしていることがわかる。

 例えば近年流行のディープラーニング(深層学習)に代表されるニューラルネットは、その内部状態にあたる記憶の各層が観測できるという意味で「可観測」ではあるが、偏見を取り込んだりハルシネーション(幻覚、暴走)を起こしたりしないように学習を繰り返し試行することはできても、所望の出力となるように各層を自在に操作できるという意味での「可制御」では、ない。対照的に、職人技や専門家の知見を明示的に言語化してルールベースにまとめたエキスパートシステムは、可観測かつ可制御である。

2. AIに支配されるか、ツールとして使いこなすか

 例えば英語が母語ではない生身の人が英語を学ぶ際、典型的には語学として文法等を系統的に習得したのち語術として留学などにより実際のコミュニケーション・スキルを体得するように、実用的なAIは記憶学習かルールベースかの二者択一というわけではなく両者をバランスさせつつ運用するのが普通である。

 しかるに自分で考えることを怠けがちな我々人類は、自動翻訳があるから外国語を習得する必要はないと嘯いてみたり、自動車の運転支援機能を自動運転と誤認してみたり、レポート・論文やエントリシートを自力で作文せず生成AIに頼るので画一的になると決めつけてみたり、いずれにせよAIの制御を放棄した「機械に支配される」自分たちの姿をイメージしがちなように思われる。

 技術論的には、自律的に機能するAIの内部状態が観測可能か否かの問題とAIの内部状態を編集可能か否かの問題は連動していないし、連動する必要もない。商用AIのように内部状態が非公開だからといって、あるいは、コードの公開されているAIが可観測であってもユーザーが内部状態に関心ないからといって、AIによる出力に対しユーザーが自ら思考停止に陥らなければならない道理はない。乗物を使って長距離を高速移動したり、ショベルカーやマイクロマシンを使って力(ちから)のスケールを変換したり、あるいはエアコンを使って室内温度を一定に保つように、推論を含む分析的思考を支援するツールとして、個々の良心に従いAIを使いこなせばよい。

3. 規範に基づいて制御する客観的な意思決定支援

 例えば感染症や災害などの極限状況において、スタッフは心のすり減るようなトリアージを迫られる。内部状態として「重傷者である」「軽傷者である」「別の軽傷者である」「生き残る」「治療する」の肯定の程度を記憶するニューロンを想定し、機械学習により「重傷者は治療ありでも滅多に生き残れない」「治療なし重傷者は決して生き残れない」「治療あり軽傷者は必ず生き残る」「治療なしでも軽傷者はどちらかと言えば生き残る」「治療ありの別の軽傷者は必ず生き残る」「治療なしの別の軽傷者もどちらかと言えば生き残る」の肯定の程度を記憶し、救命資源の物理的限界を「重傷者を治療下、いずれの軽傷者も治療できず」「軽傷者一人を治療下、重傷者は治療できず」「別の軽傷者を治療下、重傷者は治療できず」のようにルールとして与えた場合において、AIはどのような意思決定を下すだろうか。

 あるAI[2],[3]は、ロボット三原則に類する簡潔な規範により制御できる。具体的には、例えば年齢などを理由とせず平等に「治療しなければ生き残れない被災者は治療されるべきである」とする平等主義をルールとして追加したうえで、一連の制約条件を満たすように各ニューロンの肯定の程度を準最適化したとき、意思決定は重傷者の治療を優先する傾向がある。また、生存者が最多となるように「どの被災者も生き残るべきである」とする功利主義をルールとして追加したとき、意思決定は軽傷者二人の治療を優先する半面、救命意欲がやや減少する。また、両主義を両立するトリアージ「治療しなければ生き残れない被災者は治療されるべきであり、同時に、どの被災者も生き残るべきである」をルールとして追加したときは、意思決定は平等主義寄りの功利主義的なものとなる一方、救命意欲の深刻な減少は現れない。

4. AI就活面談練習システム「Chu活ボット」

 このようにAIを設計し実験してみると、仮に重傷者から先に治療すれば生存者が最多にならない一方で、だからといって軽傷者から先に治療すればときに救命意欲が減少するという矛盾を抱える極限状況では、トリアージは救命意欲の減少を律する倫理規範の現実解たる方法論であることが、よくわかる。結局のところトリアージは、AIがなくとも運用できるが、もしそのことが救命スタッフの心の負担になるなら、意図的に意思決定をAIへ委ねる運用があってもよいかもしれない。以上は問題の本質を捉えやすくするため極限状況を想定したが、それ以外の日常的な状況においても、ブラックボックス化されたAIは信用できないとして一律に排斥するか、それともAIを少しばかり人間側の知恵が試される多様性受容ツールとして使いこなせるよう自らの情動を鍛え、経済活動を維持しつつ精神的に充実した人生を送ろうとするか、個々人が問われているようにも見える。

 中央大学キャリアセンターが導入しているWebベースのAI就活面談練習システム「Chu活ボット」(本記事発行時点でバージョン2.0)[4],[5]は、ユーザーが語るエピソード中に現れるコンピテンシー(後天的に獲得できる思考・行動特性)[6]の各項目のレベルを評価し改善の方法も教えてくれる。カウンセリングの常套技法であるバーナム効果やミラーリングなどを仕込んであるので、ユーザー自身の思考特性を鏡のように映し出す。AI世代の某ユーザーは、面接アバターと会話してみると自身に「気付き」があり就活を楽しめる気がする、とも語っている。一時の気分だとは思うが、そうだとしても、面接アバターを務める中央大学マスコットキャラクター「チュー王子」から上手にコメントされたら、頑張れる気がするのかもしれない。AIチュー王子は善良な友人であって、フェイクや偏見を武器に人類を攪乱しようと企む悪魔のエージェント、ではない。


[1] 人工知能学会, 人工知能研究, https://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AIresearch.html
[2] 鈴木 寿, 西川 敦, "ブール多値論理のヒューリスティクスに基づくトリアージ的意思決定の代数的再現", 信学技報, vol.124, no.426, NLC2024-30, pp.19-24, 2025年3月, https://ken.ieice.org/ken/paper/20250309uc90/
[3] T. Watanabe, T. Nishizaka, K. Suzuki, A. Nishikawa, H. Katai and H. Suzuki, "Algebraic Reproduction of Triage Decision Making on Simple Heuristics of Boolean Multivalued Logic," 2025 IEEE Symposium on Computational Intelligence in Health and Medicine (CIHM), Trondheim, Norway, pp.1-7, March 2025, https://doi.org/10.1109/CIHM64979.2025.10969480
[4] 中央大学, AI就活面談練習システム「Chu活ボット2.0」リリースのお知らせ, 2025年03月26日, https://www.chuo-u.ac.jp/career/center/science/news/2025/03/79437/
[5] 中央大学, 大学初!キャリアセンターにAI就活面談練習システム「Chu活ボット」を導入!, 2024年04月15日, https://www.chuo-u.ac.jp/career/center/science/news/2024/04/70786/
[6] 中央大学, コンピテンシー定義一覧, https://www.chuo-u.ac.jp/gp/competency_pro/competency/definition/

鈴木 寿(すずき ひさし)/中央大学理工学部教授
専門分野 機械心理学、サイバネティクス、情報理論、人工知能、医用工学

宮城県出身。1985年大阪大学大学院基礎工学研究科物理系専攻生物工学分野修士課程修了。1988年同機械工学分野博士課程修了。工学博士。大阪大学基礎工学部機械工学科助手、東京大学工学部計数工学科助手、同講師、九州工業大学情報工学部助教授、中央大学理工学部情報工学科助教授を経て、1999年より現職。

現在の研究課題は、ステレオ内視鏡3D再構成、トロリー問題に対する機械心理学的アプローチ、病理診断支援AIなど。

主要著書に『知識情報処理の基礎‐Cによる多値論理処理』(培風館、1999年)がある。