再エネと地域:なぜ対立が生じるのか、どうすれば共生できるのか
洞澤 秀雄(ほらさわ ひでお)/中央大学法学部教授
専門分野 行政法、都市法、環境法
1. 再エネをめぐる地域紛争
昨今、メガソーラーなどの再生可能エネルギーの開発をめぐる地域紛争のニュースを目にする。そうしたニュ―スでは、ひどい事業者によるひどい開発といった面が垣間見えるかもしれない。それには正しい面もあるが、それだけではなく、再エネ開発に適した立地調整の仕組みが十分になかったという法的背景も存在している[1]。
こうした立地をめぐる地域紛争は、これまでも火力や原子力などの発電所、最終処分場などの廃棄物処理施設、風俗営業施設などをめぐって、たびたび生じてきた。それらに対しては国や自治体が法制度的に対応をし[2]、一応の利害調整の仕組みが作られてきた。再エネ開発をめぐっても同様の状況が生じており、国・自治体が法的な対応をし始めている。そこで今回は、再エネと地域紛争について法的な観点から考えてみることとする。
2. 再エネ開発に関する既存の法と地域の視点
再エネ開発をめぐる地域紛争としては、太陽光発電施設(特にメガソーラー)と(陸上)風力発電施設に関するものが多い。これらの開発に関して、様々な規制が法律上存在するが、地域における適正立地や立地調整、地域住民の参加の機会が十分には用意されていない。
都市部であれば都市計画法の用途地域などを通じて立地の適正化が図られうる。しかし、大規模な再エネ開発は概ね、こうした規制の及ばない都市計画区域外に立地され、都市計画法を通じた立地適正化が図られない。都市計画区域外であっても、農地では農地法・農振法、森林では森林法の規制がある。また、盛土などの土地の形質変更については盛土規制法などがあり、不適切な立地での開発を制限しうる。しかし、これらの規制は農地や森林の保護、災害対策の観点からの規制であり、それを超えて地域環境の観点からの立地調整や地域の意見反映を可能にするものではない[3]。
さらに、一定規模以上の風力発電所や太陽光発電所の設置事業は環境影響評価の対象となり[4]、説明会や自治体・住民等の意見提出の機会がある。しかし環境影響評価は概ね立地場所が決まった後での評価で、事前に立地について調整する機能を果たしにくく、また、影響評価の方法や内容といった技術的な点に関わり、住民が実質的な意見を提出するには困難がある。それゆえ事業者に環境配慮を求める仕組みではあるが、地域の意向を踏まえた適正立地をなしうる仕組みではない。
3. 国・自治体による法的対応
こうしたなか、再エネ開発に係る紛争を受けて、国による一定の対応がなされている。それは、再エネ普及のための固定価格買取制度(FIT制度)などを定める「再エネ特措法」の改正を通じてである。同法は、再エネ発電事業計画について認定を受けた再エネ発電事業者に対して、発電した再エネ電気について市場価格よりも高い固定価格での買取りといった制度的な支援を定めている。この認定に係る法改正によって、地域紛争への一定の対応をしている。
第1に、再エネ発電事業計画の認定要件に、説明会の実施等の周知措置を行うことが盛り込まれ、一定の住民参加が制度化された(2023年法改正)。第2に、認定を受けた事業者が法令や条例に違反した場合に、認定を取り消すことが可能とされ(2016年法改正)、その後、違反の場合に支援として交付される交付金の一時停止や返還命令も規定された(2023年改正)[5]。次に見るように、自治体が再エネ規制条例を制定してきているなかで、条例に違反すれば法律における資金面での支援を失う可能性があるため、大きな抑止効果をもつ。
とはいえ、こうした国による対応は現状では立地調整等を可能にするものではない[6]。立地調整や住民参加に関しては、自治体の条例等の制度が役割を担っている状態である。
そうした再エネ規制条例について、都道府県、市町村ともに、制定する動きが年々広がってきている[7]。自治体ごとに違いはあるが、再エネ開発に関して、届出制や許可制、自治体との協議や住民への説明会、設置後の維持管理などが定められている[8]。
より精緻な規制として自治体独自のゾーニングを行う規制条例もあり、そのうち著名なものに「青森県自然・地域と再生可能エネルギーとの共生に関する条例」がある[9]。同条例は、保護地域(原則として事業が不可能)、保全地域といった規制の地域区分を定めるとともに、手続として、早い段階での意見交換会の開催、具体化した段階での説明会の開催など多段階的な参加機会を設けている。こうした独自の規制と手続によって、地域との調整を可能にし、また、条例違反については上の再エネ特措法での認定取消しなどの制裁もあり、条例の実効性も担保されている。
4. 地域と再エネ事業との共生
上の青森県条例のゾーニングでは、共生区域というものも用意されている。これは先の保護地域などの規制地域とは異なり、自然環境・地域との共生を図りながら再エネの導入を促進する区域として、良い事業を促進するものである(規制ではなく、より良いものを生み出すゾーニングとして、「ポジティブ・ゾーニング」と呼ばれる)。近年、こうした地域にとってより良い再エネ事業を誘導、創出するといった、地域共生型の事業に係る仕組みが注目されるようになってきている[10]。
こうした視点は国の法律においても見られる。2013年制定の農山漁村再エネ法では、関係農林漁業者、地域住民等を巻き込んだ協議会での協議を通じて策定された基本計画の下で、それに適合する再エネ事業を誘導することが可能となっている。また、地球温暖化対策推進法の2021年改正で設けられた地域脱炭素化促進事業では、類似した形で、地域共生型の再エネ事業の誘導ができるようになっている[11]。
以上のように、規制や誘導の手法を使いながら、再エネ事業を地域と共生しうる形としてゆくことが、今後各地域で取り組まれてゆくこととなろう。
5. 海まで視野を広げると
さて、話が終わったようななかで、最後に海へと視野を広げてみよう(最近の私の研究がこの分野であるため[12]、お付き合いください)。
再エネと地域ということでは、海における洋上風力発電所に関しては法状況がかなり異なっている。海での立地となると地域と直接関係がないように思えるが、沿岸に近い立地の場合には景観影響があり、また、地域の漁業者への影響もありうる。洋上風力については、そうした地域の都道府県・市町村や漁業団体を協議会の構成員として、手続の早い段階から関与する仕組みが、再エネ海域利用法(2025年改正で海洋再エネ整備法へと改称)において設けられている。この協議会は、法律上は、洋上風力の開発をする海域の指定に関わるものであるが、実質的には、事業者の選定において自治体や漁業団体の意見を反映させる形でも運用されており、地域の自治体の意向が立地や事業者を選ぶ際に反映されることとなる[13]。それゆえ、(洋上風力について地域紛争がないわけではないが)地域紛争が比較的生じにくい仕組みとなっている。
このように一口に再エネと地域と言っても、多様な形で法的対応がなされている。地域に一定の影響を及ぼし、地域の自然資源を利用する再エネ事業ゆえに、地域と共生する形で再エネの開発と事業が行われることが望ましい。脱炭素の実現において再エネ発電は重要であるため、再エネと地域の関係についての法制度のあり方について、法実務の進展と法学からの検討が今後も求められよう。そして私自身も、そうした観点から研究をしている。
[1] 総務省「太陽光発電設備等の導入に関する調査結果報告書」(2024年)
<https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/hyouka_240326000172382.html>。この「概要」の3枚目を参照。
[2] 多くの場合、自治体が条例を含む様々な手段で対応し、国が後追い的に法制度を整備する形での対応である。国の制度整備の後も、それが自治体にとっては不十分な制度であったりすると、自治体は独自の条例等で地域の利害調整を行うことを継続している(例えば、廃棄物処理施設の設置に係る自治体の手続条例)。
[3] 太陽光や風力の発電設備は、その設置について電気事業法の規制対象となるが、同法の規制は技術面を中心としたものであり、立地調整や住民参加の手続を設けるものではない。
[4] 太陽光発電所は2020年から対象になり、また、法律上の環境影響評価の対象外であっても、自治体の環境影響評価条例で対象となることもある。
[5] Solar Journal「経産省、FIT・FIP認定55件を取り消し 交付金返還命令を初適用」<https://solarjournal.jp/policy/63325/>
[6] メガソーラーについては複数の問題事案が大きく報道されたこともあり、2025年から大規模太陽光発電事業に関する関係閣僚会議が開かれ、法規制や運用変更などの検討がなされている。
<https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/megasolar/index.html>
[7] 参照、地方自治研究機構「太陽光発電設備の規制に関する条例」
<https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/005_solar.htm>
[8] 自治体は、景観の観点から、景観法に基づく景観計画や自治体独自の景観条例などを通じて一定の規制を行うこともできる。
[9] 青森県自然・地域と再生可能エネルギーとの共生に関する条例
<https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kankyo/kankyo/reene_kyousei_jyourei_seido.html>
[10] さらに、住民や自治会等が所有や出資をする「地域所有」といった形での地域共生を推進するものとして、飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例(地域環境権条例)がある。
[11] 但し、いずれも十分に活用されているとは言い難い。他方で、農地法の運用上認められている農業と共生する形での「営農型太陽光発電」は、多く利用されている。
[12] 例えば、洞澤秀雄「洋上風力発電と環境法」法学教室544号(2026年)44頁以下。
[13] 但しこれは領海に立地する場合であり、排他的経済水域(EEZ)での立地の場合には異なる仕組みであり、(漁業者は別として)地域主体の関与が法的には規定されていない。
洞澤 秀雄(ほらさわ ひでお)/中央大学法学部教授
専門分野 行政法、都市法、環境法1975年生まれ。1998年上智大学法学部国際関係法学科卒業、2003年早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学。札幌学院大学,南山大学での勤務を経て、2023年から現職。
都市と環境に係る法的課題を行政法の観点から考察し、近年は、都市分野ではエリアマネジメントや地域ルールといった狭域での法形成・適用、環境分野では再エネ(特に洋上風力)の適正立地や環境影響評価について研究をしている。専門演習(ゼミ)でも、都市・環境問題に関心のある学生とともに学んでいる。
著書に『当事者自治・当事者参画と行政法・都市法』(中央大学出版部、2026年)など。









