研究

人口減少時代における国内航空の役割

眞中 今日子(まなか きょうこ)/中央大学経済学部准教授
専門分野 公共政策、交通経済学

1. コロナ禍以降の本邦航空会社の経営環境

 日本は四方を海に囲まれた島国であり、国土の各地に数多くの離島を抱えています。こうした地理的特性を持つ日本において、国内航空ネットワークは単なる移動手段の一つにとどまらず、地域住民の生活維持、地域経済や観光業の振興を支える重要な役割を担っています。しかし、国内航空ネットワークを支える本邦航空会社の経営環境は、コロナ禍を経て転換点を迎えています。

 国土交通省『国内航空を巡る現状(令和7年5月)』によると、本邦主要航空会社の経営状況は全体として回復基調にあるものの、企業の規模によってその状況は異なります。国内線事業だけではなく国際線事業も担う全日本空輸(ANA)や日本航空株式会社(JAL)は国際線の回復・伸長もあり営業利益率はコロナ禍前の水準に近いものの、国内線専業の中堅航空会社(スカイマーク、AIRDO、ソラシドエア、スターフライヤー)では、コロナ禍前の半分程度にとどまっています。上記以外の地域航空会社(フジドリームエアラインズ、アイベックスエアラインズ、オリエンタルエアブリッジ、新中央航空、天草エアライン)は、さらに厳しい状況に立たされています。空港使用料減免や航空燃料税軽減といった政策支援を除けば、国内線事業の収益環境は厳しく、特に国内線専業の中堅・地域航空会社では、営業利益率はコロナ禍前を大きく下回っているのが現状です。

 また、ANAやJALは、主力の航空事業の復調に加え、長年蓄積した膨大な顧客基盤を活かし、マイレージプログラムを核とした金融やコマース(物販・EC)といった非航空事業を多角的に展開しています。これにより、人々の移動が制限されるような局面に陥った際でも、顧客の日常的な決済や買い物を通じて収益を確保できる強固な事業ポートフォリオを築いています。その一方、中堅航空会社や地域航空会社は、収益の大部分を航空運送事業そのものに依存する構造にあります。大手のような広範な経済圏を持たないこれらの航空会社は、旅客需要の変化に加え、燃料価格の高騰や円安といった影響を受けやすい構造にあります。

2. 国内航空の現状と課題

 同資料によると、2023年度の国内線旅客数は2018年度比で100.9%となり、コロナ禍前と同水準にまで回復しました。しかし、コロナ禍を契機としたリモートワークの定着や出張抑制により、比較的単価の高い出張・業務(ビジネス)目的の旅客がコロナ禍前の水準まで回復していないのが現状です。それに加え、世界情勢及び物価高や円安の影響による燃料費、整備費等の外貨建てコストの増大等を背景に、国内線事業の費用は大幅に上昇しています。

 結果として、単位あたりの収入が横ばいであるのに対し、単位あたりの費用は増加し、収支環境は厳しい状況に陥っています。コストが上がり続ける中で単価の高いビジネス需要が失われた今、国内航空ネットワークを維持するためには、観光や新たな移動価値の創造を通じ、より多くの航空需要を喚起していくことが求められます。今後の航空需要を考えるうえでは、観光需要の回復に期待するだけではなく、人口減少を背景とした国内航空の需要構造の変化を考慮する必要があると考えます。

3. 人口減少が地域交通に落とす影と「関係人口」への期待

 国内航空ネットワークの維持において、需要に直結する背後圏の人口減少は避けて通れない問題です。国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』では、2020年から2050年にかけて、東京都を除く46道府県で人口減少が予測されています。人口減少は地域経済の弱体化を招くだけでなく、交通事業者の経営悪化、ひいては廃線や減便という負の連鎖を引き起こします。

 こうした中、今後の航空需要の鍵を握るのが関係人口という概念です。定住人口の減少を完全に食い止めることが困難な現状では、観光による交流人口に加え、特定の地域と多様に関わる関係人口の増加を目指す必要があります。航空事業者には、単なる移動手段の提供にとどまらず、地域外の人々を地域づくりの担い手として結びつける架け橋としての役割が期待されます。そのためには、既存路線を維持するだけではなく、人々が地域間を移動しやすいネットワークの再構築という視点が重要になると考えます。

4. 航空と鉄道の競争・連携

 日本の都市間交通において、航空と鉄道は競争関係にあります。しかし、その競争関係は、乗換の有無によって変化します。 眞中ら(2024)は、鉄道での移動に乗換が発生する経路において、航空は高い市場優位性を獲得することを示しています。例えば、鉄道では乗り換えが必要な地方都市間の移動において、航空会社が直行便を就航させることで、既存需要の転移だけでなく、潜在的な需要を喚起できる可能性があります。

 航空と鉄道の関係は、競争だけでなく、連携・協力も不可欠です。航空だけでは目的地にたどり着けない場合は、鉄道との連携が移動の利便性を左右します。 ドイツの「Rail & Fly」やフランスの「TGV Air」のような航空と鉄道の提携事例を参考に、日本でも航空会社間にとどまらず、各交通事業者が足並みを揃え、空港アクセスの改善や移動利便性の向上を図る戦略が求められます。 こうした一体的な移動サービスの実現は、観光客の利便性向上にとどまらず、新たな関係人口の創出にもつながるでしょう。

 こうした他モードとの競争と連携の両面を踏まえ、人口減少時代の国内航空には、 地域間の交流や関係人口の創出を支えるネットワークとしての役割が期待されます。


参考文献

  • 国土交通省『国内航空をめぐる現状(令和7年5月)』
  • 国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』
  • 眞中今日子・橋本悟・後藤孝夫(2024)「乗換を考慮した航空と高速鉄道の競争関係に関する分析」『交通学研究』第 67巻, pp.101-108.

眞中 今日子(まなか きょうこ)/中央大学経済学部准教授
専門分野 公共政策、交通経済学

東京都出身。1990年生まれ。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科修了、博士(経済学)。一般財団法人交通経済研究所研究員、東京交通短期大学運輸科専任講師、流通経済大学経済学部准教授を経て2025年より現職。交通行動・安全や地域交通政策を中心に、人々の移動選択や交通政策に関する実証研究に取り組む。交通分野における人間行動の理解を通じ、持続可能で安全な交通社会の実現に貢献することを目指している。

編著には『インフラ・レジリエンス : 暮らしと環境を守るために』(中央経済社、2025年)、主要論文には”Competition between airlines and railways in Japan focusing on the travel time.”(Asian Transport Studies、2022年)等がある。