緑のソースが注がれるスペインのモダンな魚料理

ModernGastronomy

伝統と革新が織りなす、スペインの
モダンガストロノミー

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今、スペインでは、伝統的な食文化を大切にしながら、最新の技術や独創的な発想を取り入れたオリジナル料理を提供するレストランが注目を集めています。新たな料理を生み出すうえで、おいしさはもちろん、地域の食材や環境とのつながりを大切にすることも欠かせない視点です。伝統と革新が共存する、スペインのモダンガストロノミーに迫ります。

Locations

スペイン各地のモダンレストランにまつわるマップ
白い皿に盛られた独創的なモダン料理

世界が注目するスペインの食の最前線

美食の国として知られるスペインは、世界のレストランシーンでも存在感を示しています。世界各地の優れたレストラン50軒を選ぶ「The World’s 50 Best Restaurants 2025」では、スペインの複数のレストランがランクインしました。バスク州の「アサドール・エチェバリ」は、世界2位の評価を獲得したレストランで、薪火を巧みに操り、食材本来の味を引き出す料理で知られています。

4位を獲得したマドリードの「ディベルショ」は、マドリードで唯一、三ツ星を獲得しているレストランです。地中海料理を軸に、日本や中国などの食文化から着想を得た一皿を提供しています。

また、2024年の同ランキングで1位に輝いたバルセロナの「ディスフルタール」は、かつて世界の美食界をけん引した「エル・ブジ」出身の3人のシェフが手がける人気店で、連日世界中の美食家をうならせています。

ディベルショのレストランの様子

地方の各地にも、その土地ならではの料理を提供する名店があります。カタルーニャ州の三ツ星レストラン「エル・セリェール・デ・カン・ロカ」では、料理、菓子、ワインのそれぞれを得意とするロカ三兄弟が、互いの専門性を生かした食体験をつくりあげています。カンタブリア州の「セナドール・デ・アモス」は、地元ならではの食材を活かしつつ、グローバルな観点から伝統と革新を交えた料理を提供しています。

店ごとに表現は異なりますが、地域の食材と文化を大切にしながら、新しい技術や発想を柔軟に取り入れ、ここでしか得られない食の体験を生み出しています。スペインを訪れたら、職人たちの一流の腕と感性、そして料理に映し出された土地の個性をぜひ感じてください。

テラスで供される朝食のテーブル

環境と食をつなぐ、これからのレストラン

料理の質の高さに加え、環境や社会への配慮も、現代のガストロノミーを語る上で重要です。

「料理界のノーベル賞」ともいわれる「バスク・クリナリー・ワールド・プライズ(BCWP)」は、バスク州政府と食の教育機関「バスク・クリナリー・センター」が共同で創設した国際賞です。料理や食文化を通じて社会に前向きな変化をもたらしたシェフをたたえる賞で、料理の技術だけでなく、教育や環境、地域社会への貢献にも光を当て、ガストロノミーが持つ可能性を世界へ発信しています。スペインでは、こうした取り組みを通じて、豊かな食文化と、食の未来を切り開く姿勢を世界に発信し続けています。

そのなかでもぜひ注目してほしいのが、アンダルシア州のレストラン「アポニエンテ」です。オーナーシェフのアンヘル・レオン氏は、「海の料理人」という異名を持ち、海の恵みをテーマに、魚介類を中心とした料理を提供しています。海藻やプランクトン、これまで十分に活用されてこなかった魚介などに着目した料理を届けています。

スペインのモダンガストロノミーは、伝統を更新するだけでなく、これからの食と環境の関係を考える場にもなっています。

タパスとワインが並ぶテーブル

美食家・浜田岳文さんに聞く スペインの美食文化

スペインの美食文化の魅力は、ミシュランの星や世界ランキングだけでは語りきれません。そこで、世界各地のレストランを訪ねてきた美食家の浜田岳文さんに、おすすめのスペイン料理やスペインならではの食の楽しみ方を伺いました。

美食家・浜田岳文さん

スペインの魅力は、世界的なレストランから、地元の人が集うバルまで、価格帯もスタイルも異なる幅広い食体験ができることです。特別な一皿をじっくり味わうことも、タパスやピンチョスをつまみながら気軽に一杯を楽しむこともできます。どちらか一方ではなく、その両方が身近にあるところに、この国らしい豊かさがあります。

スペインは、多様な歴史や文化を持つ地域の集合体であり、同じ国の中でも文化が異なり、土地ごとの個性が食に色濃く表れています。海と山に恵まれ、肉や魚、野菜など食材も実に多彩です。地域を移るたびに異なる味と出会えるのです。

バスク地方の小さな村、アシュペには、日本とスペインの食文化が出合うレストランがあります。「チスパ」というお店で、日本人シェフの前田哲郎さんが、日本の感性や技術とスペインの食材、食文化を融合させています。なかでも、うなぎの蒲焼を思わせる一皿は、日本の皆さんにぜひ味わってほしいですね。

サン・セバスティアンを訪れるなら、できれば郊外にも足を延ばしてみてください。郊外には、薪火で肉や魚、野菜を焼く「アサドール」の文化を受け継ぐ店が点在しています。調理はシンプルで、食材そのものの味わいが楽しめます。都市部の観光客にはまだあまり知られていない店をはしごするのもおすすめです。

バルで食事を楽しむ人々

スペインと日本に共通しているのは、人との交流に食事が重要な役割を果たしていることだと思います。レストランやバルで現地の人と言葉を交わすことも、旅の大切な思い出になるはずです。料理だけでなく、その場に流れる時間や人とのつながりまで味わうことで、スペインの食文化をより深く感じられると思います。

美食家・浜田岳文氏のポートレート

美食家・浜田岳文氏

1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国イェール大学政治学部卒業。
これまでに世界128カ国・地域を訪問し、1年のうち5カ月を海外、3か月を東京、4カ月を地方で食べ歩き、国内外のメディアで食と旅に関する情報を発信している。2025年11月より「世界のベストレストラン50」および「アジアのベストレストラン50」日本評議委員長に就任。海外レストランサイトのレビュアーランキングでは8年連続1位を獲得し、世界的美食家として知られる。
2024年6月、『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)を出版。