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佐々木 信夫

佐々木 信夫【略歴

“大阪都構想”ふたたび浮上へ

―大阪W選を総括する

佐々木 信夫/中央大学経済学部教授
専門分野 行政学、地方自治論

 行政学、地方自治を専攻する筆者は、日本の「新たなかたち」として分極型国土の形成と道州制移行、大都市の活性化、地方議会の立法機関化などを主張してきた。そのひとつの生きた改革をめぐる「大阪都構想」について、実践面でも関わってきたが、今年5月18日付の本学オピニオン「大阪都構想、実現ストップ」で住民投票の結果をまとめた。その稿に続いて、今回、大阪W選を総括する視点から論及してみたい。

ことし最も注目の地方選

「圧勝」「完勝」と見出しの躍った11月22日の大阪W選の結果。メディアの見出しと異なり、筆者には「地滑り的勝利」と映る。というのも出だしは、知事選は維新の現職優位、市長は自民候補の優勢との見方があったからだ。知事選は予想通りの一方的展開だったが、市長選は当初の予想と違い、前半互角、中盤追い越し、後半大差で抜け出す維新候補の圧勝だった。

 この大阪W選は4年前、橋下徹氏が府知事から市長選に鞍替え立候補し、大阪都構想の実現を争点に知事選、市長選が同日に行われた時からの因縁の対決。市長を1期務めた橋下氏が12月18日限りで引退する。その後継市長と、続投か否かの知事を決める2度目の同日選。今回の争点は、中央政界まで巻き込んだこの6年余にわたる改革派「維新政治」の継承かストップか、5月17日の住民投票で否決された「大阪都構想」の復活か否定かの2つが事由。

 いずれもが大きな争点で、西日本の拠点・大都市大阪の将来を左右する選択を求めての選挙だった。結果は市長、知事選とも大差で「維新」候補が勝利した(表参照)。

選挙結果
大阪府知事選 松井 一郎 大維現 2,025,387
  栗原 貴子 無新自 1,051,174
  美馬 幸則 無新 84,762
大阪市長選  吉村 洋文 大維新 596,045 
  柳本 顕 無新自 406,595
  中川 暢三 無新 35,019
  高尾 英尚 無新 18,807

 戦いの図式は単純明快。市長、知事選とも「維新」対「反維新」の有力候補の対決図式。地域政党「大阪維新の会」が推す候補に対し、反維新の連合体として自民推薦、民主、共産支援の候補者との戦い(公明は自主投票)。結果は、ポスト橋下の大阪市長に前衆院議員の吉村洋文氏(40)、大阪府知事に松井一郎氏(51)が再選され「維新」のW勝利となった。

 10月の「維新の党」分裂から、原点回帰、純化路線に転じて立ち上げた国政新党「おおさか維新の会」の帰趨を占う選挙とも言われたが、それより、彼ら大阪都構想を掲げて結成された「大阪維新の会」という地域政党そのものの存亡を掛けての戦いだった。2週間余の選挙中、橋下氏が前面に出て大阪市内を隈なく回って支持を訴えたのがその証左。特に5月の住民投票で負けた大阪南部地域を何度も回り、中盤から追い抜き、そして終盤引き離す形で維新の新人吉村氏を大差でゴールさせる戦術ぶり。この大阪維新の組織力、戦術をみると、その選挙はかつての首相田中角栄氏率いる「田中軍団」を彷彿させる戦いぶりだった。

 これでこの4年間、橋下・松井体制で進めてきた大阪の維新政治は、この先も4年間、吉村・松井新体制のもとで継続することになる。「過去に戻すか」「前に進めるか」を争点とした今回のW選、大阪の有権者は「前に進める」との維新政治を選択したことになる。

 ちなみに投票率は4年前のW選より10ポイント低く、市長選50.51%、知事選45.47%。知事選はこの4月の全国統一地方選の平均投票率45%に近く、市長選はそれを少し上回った。

何が橋下改革、維新政治なのか

 もとより何が維新政治か、定義があるわけではない。作家の堺屋太一氏が「長期下落に喘ぐ日本を根本から蘇らせるためには、抜本的大改革、つまり”維新”する覚悟と、”維新“する知恵が必要」(『「維新」する覚悟』、文春新書、2013年)と述べているが、選挙中の橋下氏の言葉を借りると「過去の既存政党の政治に戻すか、維新の改革を前に進めるか」、「僕が代表を務めた第1ステージは破壊的改革。天下り、職員給料の高さ、職員の不祥事、職員組合とのなれ合い、無駄なハコモノ行政、税金の無駄遣いなどがとにかくひどかった。特定の人たちへの巨額な不公平な補助金も固定化して誰も手を付けられない状態だった。」「これを変える大胆な改革」こそが、維新政治ということになろうか。

 もう1つの争点、いったん否決された大阪都構想を持ち出した点について、「この構想の狙いは大阪を副首都にし、大阪を活気のある国際都市にすること。中央省庁を東京と大阪の2つに分散させ、企業の本社機能も大阪に集める。これが可能となるよう東京と大阪をリニア中央新幹線で結ぶ。」「こうした大阪成長戦略の方向は、維新も自民もそう違わないが、決定的な違いはビジョンを実行する方法だ」。そこで持ち出すのが「広域権限を大阪都庁(府)に集中し、司令塔を一本化する。他方、身近な教育、福祉など揺りかごから墓場までの基礎行政は5つの特別区を設置し、そこに委ねる」というのが主張の骨子である。

 これに対し、反維新候補は都構想の実現に反対し、現在の府・市共存体制のまま、2重行政の解消は府と2政令市の長と議員の30人会議(大阪会議)で実現していくと主張。

 この主張を捉え橋下氏は、「住民投票のあと半年ほど、自民らの主張を入れて大阪会議をつくってみたが、実際は何も決められない会議と分かった。こんな方法では100年経っても何もできない」「大阪ポンコツ会議など当てにならない」と切って捨てた。

大阪都構想を再浮上させる意義

 大阪都構想は、機構改革という面では「府市の広域行政は大阪都庁(府)に一本化し、基礎行政は東京のような特別区に委ねる」というものだが、狙いは大都市政策の実現で大阪、関西の発展をめざそうというもの。先の住民投票では、狙いが語られず手段のみに議論が集中し、「大阪都構想は行革の話」というように矮小化され、住民投票で反対票が1万票上回ってしまった。

 再提案の大阪都構想に批判があったが、筆者は新聞インタビューにこうコメントした。

 ―住民投票の結果は誤差の範囲だ。これで大阪の将来を左右する都構想を葬るのは、正しい選択ではない。有権者が理解して投票したかは疑問が残る。都構想の理解には時間がかかるから、改めて問われるべきだ。

 政令市制度は誕生から約60年たつ(現在、大阪など20市)。都道府県の中で香川県に次いで狭い大阪府は、大阪市以外も大都市化が進み、区域を分けて大都市行政をする意義が薄れた。2重行政、2元行政の弊害が目立ち、益より害が大きい。大阪には古い制度なのだ。

 西日本の中核として期待される大阪は、もはや大阪市だけで経営する時代ではない。府域全体を大都市とみて広域権限を府に戻し、強い府をつくる一方、大阪市民270万人のかゆい所に手が届く特別区を導入すべきだ。

 行革は都構想の一面に過ぎない。狙いは副首都化など関西を発展させる大都市政策の実現だ。自民推薦候補が推す総合区や大阪会議と比べ、どちらが良いか判断してほしい。―(毎日新聞2015年11月14日夕刊、「ダブル選の争点」)

 ともかく、選挙の圧勝により、大阪都構想は息を吹き返し、もう一度、議論の俎上にのぼる。もちろん、今回の選挙は都構想のイエス、ノーを聞いたものではない。葬り去らないで、もう一度バージョンアップの方途も含め、議論を再開しようという話にとどまる。府、市の当局及び各議会で話がまとまっていくなら法定協議会が設置され、新市長、知事のもとで住民投票がもう一度実施され、最終結論を得ることになろう。それは2、3年先になるのではないか。

筆者の見た橋下評、改革挑戦の意義

 少し私事にわたる話を。筆者はそれまで橋下氏を知らなかった。4年前、氏が市長就任後、特別顧問を数人委嘱する際、友人の紹介で会ったのが初めてだ。最初の会話は「大阪は東京と同じ都制度を使おうとは思わない。もっとバージョンアップした独自の大阪都を創りたいので、よろしく」というもの。なかなか強気の考えだな、と思ったのが筆者の第1印象。ただ、いろいろな場面で会ってみると、「テレビでみた橋下さんは怖い」という人がいるが、全く違うのが素顔。スポーツも議論も好む好人物で、頭の回転、切り替えの早い、親しみやすいという人間観が浮かぶ。

橋下市長室でのツーショット写真、2015年10月15日大阪市長室で撮影

 今回の選挙の意義を改めて問い直すなら、もっと根本的、構造的な点に行き当たる。というのも、1970年の大阪万博以降、約半世紀にわたって長期低落にある大阪、関西圏を立て直すには、東京都と並ぶ大阪都をつくり西日本の拠点性を回復させ、日本の東京一極集中を解消に向かわせる必要があるからだ。迫りくる首都直下大地震、人口減少に伴う地方消滅、20年間で世界のGDP比率を18%から8%まで落としてしまった日本である。

 これを脱していくには、アベノミクスのような目先政策ではなく、大阪の副首都化はもとより、各圏域を元気にする道州制移行によって簡素で効率的な政府機構に再構築する、可処分所得をどんどん減らしてしまう増税をストップし、働ける者はいつでもどこでもいつまでも働ける社会を実現し、公共サービスの範囲を絞り込む、などの抜本的な構造改革が必要な段階にきている。これを日本維新と言うなら、明治維新に次ぐ大改革が必要となろう。

 たかが地方選挙、大阪の市長、知事選に過ぎないという醒めた見方もあろうが、それは違う。アメリカが西海岸から東海岸にかけて改革ウエーブが起こっていくように、日本の歴史を見ても、変わるのは「西から東に向けて」である。明治維新以後の日本の変わり方を見ればわかる。

 いつの間にか日本は、地方分権をめざしたはずが「再集権化」の動きになっている。政府の振るタクトばかり見ている。大学もそうだ。こうした中央集権型地方創生をいかに続けても、積もるのは借金だけ。そうではない。住民のやる気、地方が果敢に挑戦できる「地域主権型地方創生」への転換なくして日本再生はない。それに気づかせる選挙が、大阪W選ではなかったのか。

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佐々木 信夫(ささき・のぶお)/中央大学経済学部教授
専門分野 行政学、地方自治論
1948年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了、法学博士(慶應義塾大学)。東京都庁勤務を経て、89年聖学院大学教授、94年中央大学教授。2000年米カリフォルニア大学(UCLA)客員研究員、2001年から中央大学大学院経済学研究科教授、経済学部教授。現在、政府の第31次地方制度調査会委員、日本学術会議会員を兼務。この3月まで大阪市・府特別顧問(3年間)を務める。専門は行政学、地方自治論。著書に『新たな「日本のかたち」』(角川SSC新書)、『人口減少時代の地方創生論』『地方議員』(PHP)、『日本行政学』『現代地方自治』(学陽書房)、『道州制』『自治体をどう変えるか』(ちくま新書)、『東京都政』『都庁』(岩波新書)など多数。来年2月『地方議員は変われるか』(講談社新書)刊行予定。NHK地域放送文化賞、日本都市学会賞など受賞。