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コンフォートゾーンを少しだけ抜け出して
新しい景色を見に行こう

益子 陽介さん益子 陽介さん

「自主・自律」を求めて法政大学中学高等学校へ

コー 今日は、法政大学卒業後、商社やサイバーエージェントでベンチャーキャピタル業務などを経験し、ベトナムで「Pizza 4P's」を創業された益子陽介さんにお話を伺います。麻布台ヒルズにある「Pizza 4P's Tokyo」にお邪魔していますが、とても居心地がよく、思わず長居したくなる素敵な空間ですね。

益子 ありがとうございます。この東京店は「Earth to People ― Oneness(地球から人々へ―ワンネス)」というコンセプトで、例えばソファーのクッションカバーは、野菜の皮などの食品廃棄物で染めたものなんです。また、コースターにはベトナムのリサイクルブランドが使用済みプラスチックから作ったものを採用しています。料理だけではなく、空間やプロダクト一つひとつにもストーリーがあり、自然や地球とのつながりを感じてもらいたいという思いを込めています。

コー お店づくりにも、益子さんが大切にされている価値観が表れているのですね。その原点は、子どもの頃までさかのぼるのでしょうか。

益子 そうですね、確かにいろいろなことに興味を持ちやすい子どもだったと思いますし、その好奇心旺盛なところは、今の自分にもつながっているのかもしれません。ただ、小さい頃はその好奇心とうまく付き合う術を知らなかったので、今思えば「多動」のようなところがあったと思います。一つのことにじっと集中するよりも、次から次へと関心が移ってしまうタイプの子どもでした。そのため学校では先生に注意されることも多く、親が学校に呼ばれることもしょっちゅうで、本当に心配をかけていたと思います(笑)。

コー こうした経験があって、学校に行きたくないと思ったことはなかったですか?

益子 はい。小学校時代は、とにかく窮屈でした。それで中学受験を考えるようになりました。いくつか学校を見学する中で法政大学中学高等学校の文化祭に足を運んだのですが、高校生が私服で過ごしている姿を見て、「なんて自由な学校なんだろう」と驚きました。さらに学校について調べると、「自主・自律」をモットーにしていることを知り、「ここなら自分に合っているかもしれない」と感じました。

コー 実際に入学されてみて、学校生活はいかがでしたか。

益子 自分の勘は当たり、本当に自分に合った学校でしたね。中学・高校ともに自由に過ごさせてもらいました。ラグビー部に所属していたので、毎日部活動に打ち込んでいたのですが、顧問の先生が細かく指導するというより、練習メニューや試合のスケジュールも、自分たちで話し合いながら決めるなど、自分たちで考えて行動することが重視されていました。「自主・自律」の精神は、まさにそういう環境の中で身に付いていったのだと感じています。

目の前のことに全力 その積み重ねが今につながっている

コー 初めての海外経験もラグビーを通じてと伺いました。

益子 高校2年生のときにラグビー部のニュージーランド遠征に参加しました。そのとき、同じラグビーでも、考え方やプレーへの姿勢、暮らし方まで日本とはまったく違うことに衝撃を受けました。ホームステイ先がトンガ出身のご家族だったこともあり、「もっと海外を知りたい」という思いが強くなりました。その経験が、大学でも海外に行ける環境を求めるきっかけとなり、大学2年生のときにはラグビーを通じてオーストラリアへ留学しました。

コー 海外での経験も含め、法政中学・高校・大学で過ごした時間は、ご自身にとって意味のある時間だったのですね。

益子 そうですね。「縛られなくていい」という環境は、自分にとって本当に大きかったと思います。法政中学・高校・大学で「自分はどう生きたいのか」を自然と考えるようになりましたし、自分に制限をかけず、本質的なことを考える習慣が身に付いた気がします。それは今の自分の土台になっています。

コー その後、就職活動はどうでしたか?

益子 ええ、100社落ちました(笑)。しかも留年までしてしまって、親には「いい加減にしろ」と怒られました。ようやく紹介会社を通じて入社した商社では、2年間ほどカニを販売。当時は、その経験が将来役に立つなんて思ってもいませんでした。

コー でも、今につながっているんですよね?

益子 その通りです。今、ベトナムの「Pizza 4P's」で一番人気なのは、実はピザではなく渡り蟹のパスタなんです(笑)。振り返ると、そのときは意味が分からなかった経験も、あとになって全部つながってくるのだと実感します。

コー そのときにわからなくても、後になって振り返ると、それぞれの経験が一つの流れになって見えてくることがあるのですね。

益子 ただ、振り返ってみると、どのステージでも共通しているのは、目の前の人に対して無我夢中で、全力で向き合ってきたことです。ラグビーも、カニを売っていた頃も、今のピザも変わりません。その積み重ねが巡り巡って、今のご縁につながっているのかなと思います。

コー 益子さんは本の中で、ご自身の生き方を「無計画」と表現されていますが、今日お話を伺って、それとはまた別の一面も見えてきました。人との出会いやご縁を大切にしてこられたことが、これまでを通じる一つの軸なのかなと感じました。

「Pizza 4P's」はピザパーティーの延長線上にある

コー 商社やサイバーエージェントでのご経験を経て、「Pizza 4P's」を創業されるわけですが、その原点となる出来事があったのでしょうか。

益子 ピザに特別な思いを抱くようになったのは、知人に誘われて参加したピザパーティーがきっかけでした。当時は、友人が自ら命を絶ったことをきっかけに、うつ病を患い、自分自身も苦しい時期を過ごしていました。そんな中、自分たちで作ったピザ窯でピザを焼き、みんなで囲んで食べる体験をしたんです。

コー 私もアメリカにいた頃は、よくピザパーティーを楽しみました。引っ越しを手伝ってもらったお礼に開いたり、友人が集まると自然とピザを囲んだり。ピザは、みんなで分け合って食べる中で、自然と人を繋いでくれるものかもしれません。

益子 そうなんです。ピザって、とてもプリミティブな食べ物なんですよね。火を起こし、窯で焼いて、みんなで囲んで食べる。その一連の体験を通して、人や自然とのつながりを感じられる。だからこそ、年齢や国籍を問わず、いろいろな人が集まるほど楽しいんです。私自身も、その体験を通して救われたような気がしました。この感動をもっと多くの人に届けることができたら、世界は少しでも良い方向へ進むのではないか。そう思ったことが、「Pizza 4P's」の原点になっています。

コー なるほど。だから「Pizza 4P's」のミッションは「Make the World Smile for Peace」なんですね。

益子 会社として、売上や経済的な企業価値だけを高めること自体には、それほど興味がありません。原点にあるのは、目の前の人に喜んでもらい、その喜びが自分の幸せにもつながるという体験です。「Pizza 4P's」は、今でもピザパーティーの延長線上にあると思っています。だからこそ、その体験をより多くの人に届けたい。幸せとは何かを考えるきっかけを世界中につくっていくことが、私たちの目指すビジョンです。

コー とても素晴らしいビジョンだと思います。

益子 ありがとうございます。ただ、ビジョンを言語化するのは、とても難しいと感じています。例えば「Make the World Smile for Peace」という言葉も、「それは具体的にどういう状態なのか」と聞かれると、簡単には答えられませんし、あえて曖昧にしている部分もあります。言葉にした瞬間に、ある意味で可能性まで限定してしまうこともあるからです。だからこそ、どこまで言語化し、どこからは受け取る人の想像に委ねるのか。そのバランスはかなり意識しています。

アメリカ独立記念日にアメリカ1号店がオープン

ベトナムサイゴン Pizza 4p Saigon Vietnam

コー 今年の夏には、アメリカ1号店となるニューヨーク・ブルックリン店をオープンされましたね。

益子 はい。7月4日のアメリカ独立記念日にオープンしました。ありがたいことに、オープンから2週間ほどで1カ月先まで予約が埋まりました。驚いたのは、ニューヨークに暮らすベトナムの方々がたくさん足を運んでくださったことでした。今では店内もベトナムやアジアのお客さまでにぎわっています。

コー ベトナムから始まったお店に、ニューヨークに暮らすベトナムの方々がたくさんきてくださったのですね。ニューヨーク店には、どのようなコンセプトを込められたのでしょうか。

益子 コンセプトは「What the Earth Told Me(地球が私に教えてくれたこと)」です。自然の中で大切な人と過ごした時間や、そのときに感じた安らぎや豊かさを、料理やアート、音楽、空間を通して表現したいと考えました。一人ひとりが、その体験を通して「Peace」を感じられる場所にしたいと思っています。

コー 環境問題にも関心を持ち、さまざまな取り組みをされているそうですね。

益子 はい。例えばカンボジアでは、レストランから出る食品廃棄物を、できるだけ資源として循環させる取り組みを進めています。ピザ生地の端材をコオロギの餌にし、そのコオロギを使った料理を提供するなど、食の循環について楽しみながら考えてもらうための挑戦もしています。

コー まずは知り、考えることが大切なのですね。

益子 同時に、自分たちの現状を知ることも大切です。そのため、環境負荷やサステナビリティへの取り組みを数値で可視化し、「サステナビリティレポート」として公表しています。まずは自分たちの現在地を正しく認識することが、次の行動につながると考えています。

コー 自分から一歩踏み出し、何かを始めてみようとする姿勢は、まさに学生たちに育んでほしいものです。最後に、これから社会へ出ていく学生たちへ、メッセージをお願いします。

益子 今の自分を形づくった大きな要因の一つは、高校や大学時代の海外経験だったと思います。海外に出ることで、日本の見え方も、自分自身の見え方も変わりました。必ずしも海外でなくてもいいのですが、今いる場所から少し離れ、コンフォートゾーンの外へ一歩踏み出してみる。そうすることで、これまで気づかなかった価値観や可能性に出会えるはずです。学生の皆さんにも、ぜひそんな経験を楽しんでもらいたいですね。

コー 今日は楽しいお話をありがとうございました。予約を取るのはなかなか難しそうですが、ぜひ一度、ピザをいただいてみたいと思います。


Pizza 4P’s CEO 益子 陽介(ますこ ようすけ)

1978年、東京都生まれ。法政大学在学中にオーストラリアへ留学。卒業後は商社に入社し、その後、サイバーエージェントにて広告代理業務や投資育成事業に携わる。ベトナム・ハノイでの駐在経験を経て、2011年にホーチミンで「Pizza 4P’s」を創業。2014年には、『AERA』の「アジアで活躍する日本人100人」に選出された。
現在はアジアを中心に店舗を展開。「Make the World Smile for Peace」というビジョンのもと、レストラン事業にとどまらず、農業、環境、教育など、食の枠を超えたさまざまな挑戦を続けている。

法政大学 第21代総長 Diana Khor(ダイアナ・コー)

1960年香港生まれ。1983年香港大学社会学科卒業 (B.Soc.Sc.)。同大大学院社会学研究科修士課程修了(M.Phil.)、スタンフォード大学大学院社会学研究科修士課程修了(M.A.)を経て、1994年スタンフォード大学大学院社会学研究科博士課程修了 (Ph.D.)。1999年法政大学第一教養部専任講師、その後法学部教授などを経て、2008年よりグローバル教養学部教授。2021年に法政大学常務理事・副学長(2025年3月まで)、2025年3月31日より法政大学総長。専門は社会学、ジェンダー・セクシュアリティ。