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「とりあえずやってみる」が未来を動かす

源大さん源大さん

虫と魚に対する好奇心が進路の原点に

コー 本日は、法政大学生命科学部在学中にモデルとしてデビューし、現在はパリコレクションなどでもご活躍中の源大さんをお招きしています。さらに、当時源大さんが所属していた研究室の大井田先生にもご同席いただき、学生時代のエピソードを交えながら、進路や現在の活動にまつわるお話をうかがいます。それではまず、法政大学で生命科学部を選ばれたきっかけから教えていただけますか。

源大 小さい頃から虫や魚などの生き物が大好きだったので、大学でもそういった分野を学んでみたいと思っていました。魚に関しては海洋学部という選択肢がありますが、昆虫を専門に学べる学部は意外と少ないんです。調べていくうちに、農学系の「害虫」に関する分野であれば虫の研究もできると知り、その方向も候補に。そうしていろいろと比較しながら、最終的に法政大学の生命科学部を選びました。

コー 生命科学部ではどのような学生生活を送られていたのでしょうか。

大井田 寛教授

源大 1年生の頃は、友達とレポートを書いたり、学食でワイワイ過ごしたりと、想像していた通りのキャンパスライフを送ることができて、本当に充実していました。ただ、2年生からはコロナ禍に入り、3年生まで実験以外はすべてオンライン授業になり、大学に通う機会もほとんどなくなってしまいました。その後、休学を経て4年生から復学し、研究室に通い始めたのですが、週3日ほどキャンパスに通うようになって、久しぶりの学生生活が新鮮でとても楽しかったです。

コー 大井田先生の研究室に所属されていたそうですね。大井田先生、初めて源大さんにお会いになったとき、どのような印象を持たれましたか?

大井田 2年次の必修科目の一環として植物医科学研究センター(当時は植物医科学センター)でインターンを受け入れたときに私の担当コースに来てくれたのが、源大さんと着任初年度の私との最初の接点でした。初対面の印象はというと、かなりしっかりと自己アピールしてくれたので、「相当な虫好きだな」と思いました(笑)。

コー 源大さんが研究していたのは、どんな虫だったのでしょうか?

源大 「ヒョウタンゾウムシ」という飛べない虫です。ネギやキャベツ、落花生などの葉を食べてしまう害虫なのですが、スマートフォンの画面などに貼って使われる反射防止フィルム(昆虫の体表の構造を模して作られている商品には、反射防止以外に昆虫が滑落するなどの性能もある)を使って、ヒョウタンゾウムシが登れない壁を作れないかというアイデアをもとに、研究を進めました。

アルバイト先の休業を機に「思いつき」でモデルの道へ

コー 虫の研究に取り組んでいた源大さんが、現在はモデルとして活躍されているわけですから、ご自身にとっても予想外の未来だったのではないでしょうか。

源大 もちろん予想外でした。もしコロナ禍がなければ、おそらく私も周囲と同じように就職活動をして、虫か魚に関わる企業への就職を目指していたと思います。

コー どのようにモデルとしてのキャリアをスタートされたのでしょうか?

源大 大学に入ってからは飲食店でアルバイトをしていたのですが、コロナ禍で休業に。新しいバイトを探そうと思ったときに、洋服が好きで身長もそれなりに高いし・・・と、本当に思いつきで、アルバイト感覚でモデル事務所に応募したんです。

コー ランウェイでのウォーキングやポージングはどのように身に付けていったのでしょうか。

源大 モデルを始めたばかりの頃は、10ブランド以上のオーディションに落ち続けていましたが、その原因は明確で、歩き方でした。周囲からは「普通に歩けばいい」とよく言われたのですが、その"普通"が、自分にとっては一番難しかったんです。

コー そこからどうやって上達させていったのでしょうか。

源大 スマホで自分の歩き方を動画で撮るところから始めました。そこで映像を見て、「これは変だ。ロボットみたいだ」とようやく気づいたんです。そこからは自主練習をスタート。夜の駐車場で、ウォーキングの練習を重ねました。

コー そういった粘り強さは、研究の場面でも必要だと思いますが、大井田先生はどう感じられましたか?

大井田 虫に限らず、生き物を飼育しながらデータを取り続ける研究には、粘り強さが欠かせません。毎日コツコツと研究室に足を運び、継続的に観察や記録を重ねる必要があります。その意味では、源大さんがトレーニングを積んで成果につなげていく姿勢は、研究にも通じるものがありますね。実際に、彼はまめに通って信頼度の高いデータを取り、きちんと結果をまとめてくれました。

オーディションはスタンプラリーのように気負わず、楽しむ

コー 歩き方をマスターして以降は、様々なブランドに起用されるようになりましたが、モデルとして第一線で活躍するために、どんなことを意識していますか?

源大 自分なりに、そのブランドや着ている服が持つメッセージを解釈して、歩き方やポージングに反映するよう意識はしています。ただ、実際に出来上がった映像などを見て、「全然ダメだな...」と感じることも多くて。それでも、今の自分にできる限りのことはやっているつもりです。

コー ファッションの中心地であるヨーロッパでは、それこそ数え切れないほどのモデルがオーディションに参加していると思います。そのなかで源大さんは、どのようにしてオーディションを勝ち抜いてこられたのでしょうか?

源大 それは友人にもよく聞かれるのですが、正直なところ、「勝ち抜く」という意識は1ミリもないんです(笑)。大きなブランドになると、オーディションには世界中から数百~数千人が集まり、そのなかから選ばれるのは多くても60人ほど。似た体格のモデルがたくさんいるなかで、どういう基準で選ばれるのかなんて、正直さっぱりわからなくて。だから「勝ち抜いた」というより、「運よく選ばれた」というのが自分の感覚です。

コー 「絶対受かる!」と力み過ぎないようにしているんですね。

源大 自分の感覚ですが、30本受けて10本決まれば割と調子の良い方です。それなのに毎回「絶対受かりたい」と気負っていたら、心がもちません。だから僕は、過度な期待はせず、淡々と「呼ばれたから行く」というスタンスを大切にしています。「あのブランドのオーディションに行けるなんてラッキー!」と、子どもがスタンプラリーを楽しむような感覚です(笑)。

「 ルイ・ヴィトン 」2025年秋冬メンズ・コレクションのキャンペーンビジュアル

コー それは総長の仕事も同じですね。気負い過ぎず、楽しく取り組む。本当にそれが大切だと思います。

大井田 研究も同じですよね。「絶対に成果を出してやるぞ!」と気負いすぎると、うまくいかなかったときのダメージが大きくなってしまいます。だからこそ、まずは研究そのものを楽しむというスタンスが大切。自然体でいることが一番だと思います

。

コー 就職活動も似ていますよね。最終的に選ぶのは企業側なので、こちらが「落ちた」と感じる必要はなくて、単にマッチしなかっただけ。自分に合うところと出会えるまで、焦らず自然体でいられるのが理想なんだと思います。

本質を見極め、納得のいく選択を重ねていくことが重要

コー 大学4年生のときに、海外で挑戦するために休学されたんですよね。そのとき、周囲の反応はどうでしたか?

源大 家族は驚いていました。僕はこれまでの人生で、受験や部活動でも「上を目指そう」というような強い向上心をあまり見せたことがなかったんです。だから、休学の相談をしたときは「珍しい!」と、驚きの方が大きかったようで、反対されることもなく、送り出してもらえました。大井田先生にも快く背中を押していただいた記憶があります。

大井田 確かに研究とは畑違いのチャレンジではありますが、学生のやる気の芽を摘むのは私の本意ではありません。せっかくの機会ですし、自分が納得いくまでしっかり取り組んでおいで、という気持ちで送り出しました。

コー 大井田先生はつねに、学生に対してそういうスタンスで接していらっしゃいますよね。

大井田 そうですね。研究はもちろん、研究以外のことでも、自分の興味や関心があることには、恐れずに挑戦してもらいたいと思っています。研究では、分からないことや前例のないテーマに挑むときは、うまくいかないこともあると思います。でも、たとえ思うような成果が出なかったとしても、「なぜうまくいかなかったのか」を明らかにすること自体が、大きな前進になると私は思っています。失敗の中にも、必ず意味があるんです。

「リュウノスケオカザキ」2022年春夏東京コレクションのランウェイ

源大 今のお話しであらためて思いましたが、大きな枠で見れば、モデルの仕事と研究って、意外と共通点がありますよね。うまくいかなかったときに、まず原因を探る。そして「本来の目的は何だったのか」をもう一度確認して、その2つの視点から改善策を考えていく。それって実は、僕がウォーキングを練習していたときと同じですし、そのプロセスって、分野は違っても本質的にはすごく似ている気がします。

コー そのプロセスはもう、人生そのものかもしれませんね。では源大さんから、後輩たちに向けて、何かメッセージをいただけますでしょうか。

源大 僕が休学を決めたときもそうでしたが、「とりあえずやってみる」ことって大事だと思います。興味があることがあれば迷わず挑戦したほうがいい。もちろん失敗も想定しながら、挑戦の中で考え続けることも大切です。うまくいかなかったらどうするか、成功したら次に何をするか。それを考えながら進むことが、結果として自分の道を作っていく気がします。

コー 今後については、どのようなビジョンを持っているのでしょうか。

源大 モデルとして4年半活動してきましたが、この業界は入れ替わりが激しく、常に新しい顔ぶれが求められます。だからこそ今は、「もうやり切った」と納得できるところまで続けることが目標です。その考え方は、モデルの仕事に限らず、他の人生の選択にも通じると思っています。やらずに後悔するより、まずは飛び込んでみる。そして、うまくいかなかったとしても「なぜダメだったのか」を考え続け、納得できるまでやり抜く。それが僕の目指すところであり、将来への向き合い方です。

コー 「考え続ける」ってとても大事なことですよね。普段から意識されているのでしょうか。

源大 SNSが普及した今だからこそ、情報に流されず「本質を見極める力」が重要だと感じています。さまざまな情報や意見に触れながらも、自分の軸はぶらさないこと。その一方で、自分の考えが偏っていないかを確認するために、あえて反対意見にも耳を傾けるようにしています。情報はあくまで参考材料。そのうえで、自分なりの視点で本質をとらえる姿勢を大事にしています。

コー 本質を見極める力とは、まさに私が育てたい学生像そのものです。今日は源大さんからたくさんの刺激をもらいました。ありがとうございました。


ファッションモデル 源大(げんだい)

法政大学生命科学部応用植物科学科卒業。在学中は応用動物昆虫学研究室に所属し、農業現場で被害を及ぼすヒョウタンゾウムシ類を対象に、反射防止フィルムを活用した物理的防除に関する調査・研究に取り組んだ。研究を通じて観察力と実証的な姿勢を磨く一方で、独学でファッション表現を追求。
2021年、「RYUNOSUKE OKAZAKI」のショーでデビュー。その後、休学して海外に渡り、現地でのオーディションや撮影を通じて経験を重ねながら、活動の場をグローバルに広げた。以降、「フェンディ」「サンローラン」などトップメゾンのショーにも出演。生命科学で培った観察力と分析的思考を生かし、ファッションという表現の場で新たな価値を創出している。

法政大学 生命科学部 応用植物科学科 教授 大井田 寛(おおいだ ひろし)

2012年博士(農学)(千葉大学)。
千葉県農林総合研究センター病理昆虫研究室研究員、 同 最重点プロジェクト研究室上席研究員、千葉県立農業大学校病害虫専攻教室教員などを経て法政大学生命科学部応用植物学科教授。
主な研究対象として、農作物や都市緑化植物など、人と関わりの深い植物を加害する害虫とその天敵に着目し、種類や生態の解明、環境にやさしく持続可能な害虫防除技術の開発などに取り組む。

法政大学 第21代総長 Diana Khor(ダイアナ・コー)

1960年香港生まれ。1983年香港大学社会学科卒業 (B.Soc.Sc.)。同大大学院社会学研究科修士課程修了(M.Phil.)、スタンフォード大学大学院社会学研究科修士課程修了(M.A.)を経て、1994年スタンフォード大学大学院社会学研究科博士課程修了 (Ph.D.)。1999年法政大学第一教養部専任講師、その後法学部教授などを経て、2008年よりグローバル教養学部教授。2021年に法政大学常務理事・副学長(2025年3月まで)、2025年3月31日より法政大学総長。専門は社会学、ジェンダー・セクシュアリティ。