日本の教育は「150年に一度」の転換期。
社会とともに、ワクワクする学びをつくりたい
和仁 達郎さん
「自分をつくっていく時期」に関わるため教員の道へ
コー 本日は、法政大学女子高等学校(現・法政大学国際高等学校)で教諭、校長を務め、2026年度から東京家政学院中学校・高等学校の校長に就任された和仁達郎先生をお迎えしています。まずは、中高教育に携わるようになった原点からお聞かせください。
和仁 実は、もともと教員になることはまったく考えていませんでした。両親が教員だったこともあり、むしろ「絶対に教員にはなりたくない」と思っていたくらいです(笑)。学校の勉強はあまり好きではなかったのですが、本を読むことは好きで、当初は社会科学系の研究者を志していました。ただ、大学院へ進む頃から、社会は結局、人間の行動によって形づくられていくのではないかと考えるようになりました。それなら、人がどのように育ち、行動するのかという「人間形成」に関わるほうが面白いと気づき、そこから教員免許を取得し、教員の道へ進みました。
コー 私自身、中学・高校時代に出会った友人は今でも親友ですし、その頃の経験が人生に与えた影響はとても大きかったと感じています。和仁先生は、中学・高校という時期の教育をどのように捉えていらっしゃいますか。
和仁 10代は、自分自身をつくっていく大切な時期だと思います。人との接し方や物事への興味の持ち方など、その後につながるもの多くが、この時期に自分が形成されていくのではないでしょうか。だからこそ学校には、生徒が自分をつくっていくための環境や、さまざまな刺激を提供する役割があり、多様な人や物事と出会える場であることが、中学・高校という学校の大きな意味だと考えています。
コー 英語に「formative years」という言葉があります。日本語では「形成期」などと訳されますが、今のお話を伺って、「自分をつくっていく時期」ということなのだと、腑に落ちました。
和仁 この夏、私自身も改めてそのことを実感しました。卒業から50年近く経って、高校1年生のときの同級生と久しぶりに再会したんです。最初は顔がわからない人もいましたが、話し始めると、忘れていた出来事まで次々とよみがえってきました。中には、文化祭で映画の音響を担当し、その後、アニメなどの音響監督になった同級生もいました。中学・高校時代の経験には、その後の人生につながるものが凝縮されている。改めて、この時期の大切さを感じました。
「150年に一度」の転換期に新たな学校づくりに挑む

コー 私自身、女子校の出身ですし、法政にもかつて女子高があり、その卒業生を何人も教えてきました。日本では今なおジェンダーギャップが存在する中で、女子校だからこそ果たせる役割もあると感じています。一方、和仁先生は法政大学国際高等学校の校長として、女子校から共学への移行を経験されました。女子校と共学校、それぞれの教育的な意義や、共学化によって生まれる変化をどのように捉えていらっしゃいますか。
和仁 法政大学女子高等学校(現:法政大学国際高等学校)は、いわゆる良妻賢母型ではなく、自主性や社会性を持ち、積極的に行動できる女性を育てることを大切にしてきました。共学化は、そうした教育を変えるというより、その延長線上で、さらに多様性を広げていこうというものでした。男子生徒が加わることで、異なる考え方や文化に触れる機会が生まれる一方、女子高時代から大切にしてきた自主性や積極性といった校風は、共学化した後も受け継がれていると感じています。
コー 共学化と同時に法政大学国際高等学校へと校名を変更し、IB(国際バカロレア)コースも設置されました。こうした改革を進めた背景についてもお聞かせください。
和仁 女子高時代から、生徒たち自身が制服の自由化などを求めて活動する中で、「もっと多様な人たちと一緒に学びたい」という声もありました。そこで、多様性を尊重するだけでなく、多様な人や価値観から学ぶ学校へと進化していこうと考え、共学化とIBの導入を進めました。共学化と国際化を同時に進めることに、「本当に大丈夫なのか」という声もありましたが、「みんなで頑張ればできる。やってみよう」と、一緒に進めていったという感じですね。
コー そうした改革を進めてこられた和仁先生が、今度は新たに法政大学の系列校となる東京家政学院中学校・高等学校の校長を引き受けてくださったことを、私たちも大変うれしく思っています。
和仁 私は決して、何もかもトップダウンで変えていくようなタイプではありません。ただ、今の日本の教育は、大げさに言えば「150年に一度」の転換期を迎えているという問題意識を持っています。明治以来の近代化を支えてきた人材育成のあり方を、今の時代に合わせて変えていく必要があるわけです。そうした中で、伝統ある東京家政学院中学校・高等学校が法政大学の系列校となり、新しい学校へと進んでいこうとしている。その思いと私自身の問題意識が重なるのであれば、皆さんと一緒に新しい学校をつくっていきたい。そのプロジェクトに推進役として参加できるなら挑戦してみようと思い、校長をお引き受けしました。
「自分ごと」の学びで、未来を切り拓く力を育む

コー 現在の東京家政学院中学校・高等学校では、生徒たちとどのように向き合っていらっしゃいますか。10代の生徒と接するうえで、校長として大切にされていることをお聞かせください。
和仁 大学生より高校生、高校生より中学生のほうが、自分の思いや、何をしたいのかを言葉にすることは難しいと思います。ただ、教員が知識を伝えることはできても、生徒が何かを理解したり、抱えている課題を解決したりするためには、一緒に考えることが大切です。校長であっても、中学1年生であっても、一人の人間としては対等です。最終的に答えを出すのは本人であり、教員にできるのは、そのためのヒントを示し、一緒に考えること。その姿勢は、校長になった今も変わっていません。
コー カリキュラムをはじめ、学校の特色についても教えてください。
和仁 これまでは、併設大学への進学も視野に入れたコースがありましたが、今後はコース編成を見直し、生徒一人ひとりが幅広く選択できるカリキュラムにしていきます。高校では法政大学との連携も取り入れていく予定です。また、自分の問題関心を出発点に、知識を「人ごと」ではなく「自分ごと」として身につけ、活用していく探究的な学びも重視しています。
コー 生徒が主体的に学び、成長していけるカリキュラムということですね。
和仁 そうですね。主体的に考え、学ぶ力と、新しいものを生み出す創造力を育て、その力で自分の人生や社会の未来を切り拓いていく。そうした教育を具体化するためのカリキュラムです。
コー 法政大学では、「自由を生き抜く実践知」を大学憲章に掲げ、付属校でも一貫教育の中でその理念を大切にしています。東京家政学院中学校・高等学校では、この理念を今後どのように教育に生かしていこうと考えていらっしゃいますか。
和仁 東京家政学院では、これまでも探究的な学びに力を入れてきました。例えば中学1、2年生では、千代田区内の店舗や事業所を訪ね、そこで働く人たちの思いを聞き、地域の課題や解決策を考えてポスターにまとめる取り組みを行っています。今後は、こうした学びをより幅広い教科へと広げ、自分の経験や問題意識と、実際の社会で起きていることを結びつけていきたいと考えています。高校では選択授業として「未来創造ゼミ」も設け、生徒が自分の関心に応じたテーマやプロジェクトを選び、探究を深めていきます。自分の問題意識を出発点に、社会と関わりながら考え、行動していく。そうした学びが、「自由を生き抜く実践知」にもつながっていくと考えています。
多様な個性が交わりながら、ともに学びを広げる
コー これから入学する生徒や保護者の皆さんには、どのようなことを期待されていますか。
和仁 学校や授業に対して受け身になるのではなく、生徒の皆さんにも保護者の方にも、学校というコミュニティに参加し、一緒に学びをつくってほしいと思っています。学校には「面倒見のよさ」も必要ですが、何でもやってあげるのではなく、自分の学びや生活を自分自身でつくれるように支えていく。それが私たちの考える「面倒を見る」ということです。ただ、「チャレンジ」といっても、活発でなければいけないわけではありません。「もの静かなコミュニケーション」もあります。いろいろな人が、それぞれのあり方で参加できる。そんな新しい学校を、一緒につくっていきたいですね。
コー 法政大学には現在3つの付属校があり、2027年4月からは東京家政学院中学校・高等学校も「法政大学千代田三番町中学校・高等学校」として系列校に加わります。それぞれに異なる特色を持つ学校が連携することで、今後どのような教育上の効果が期待できるとお考えですか。
和仁 系列校も「自由を生き抜く実践知」を目指していくという点では、3つの付属校と共通する「法政ファミリー」の一員だと考えています。その共通の理念をベースにしながら、それぞれの学校が独自の特色を持ち、交流や支援を通じて互いの特色をさらに磨いていくことが大切だと思います。目指しているものは共通していても、そこに至る方法や教育のあり方はそれぞれ違っていい。人と同じように、学校にも多様性や個性があっていいと思うんです。教員や生徒が大いに交流し、他校の取り組みから刺激を受けながら、「では、自分たちの学校ではどうしようか」と考えていく。それぞれが違う道を歩みながら、一緒に前へ進んでいく。そんな関係になれたらいいですね。
コー それは生徒にとって、とてもいいことだと思います。
和仁 そうですね。さまざまな刺激や交流の機会が増えることは、とてもいいことだと思います。一方で、中高生の時期は、興味を持ったことをどんどん伸ばしてほしいと思う反面、幅広い教養を身につけることも大切です。何に興味を持つか、何をきっかけに関心が広がるかは人によって違います。だからこそ、一人ひとりの興味や関心にできるだけ目を向けながら、そこから幅広い学びへとつながっていくような仕組みにしていきたいと考えています。
コー では最後に、これから新しくなっていく学校への思いを、一言で表すとしたらどんな言葉になりますか。
和仁 ワクワクする学びを、一緒につくっていきましょう。これから入学する生徒や保護者の皆さんに、ぜひこの言葉を届けたいですね。

- 東京家政学院中学校・高等学校校長 和仁 達郎(わに たつろう)
1959年、東京都 生まれ。1983年横浜国立大学経済学部卒業、1985年同大学院経済学研究科修士課程修了。
1988年法政大学女子高等学校(現・法政大学国際高等学校)教諭。2009年から2025年3月まで同校校長を務める。2009年から学校法人法政大学評議員を務め、2021年4月に同法人理事・常務理事に就任。2025年3月をもって同法人の役職を退任。2025年4月から法政大学HOSEI2030推進本部アドバイザー。2026年4月、東京家政学院中学校・高等学校校長に就任。
- 法政大学 第21代総長 Diana Khor(ダイアナ・コー)
1960年香港生まれ。1983年香港大学社会学科卒業 (B.Soc.Sc.)。同大大学院社会学研究科修士課程修了(M.Phil.)、スタンフォード大学大学院社会学研究科修士課程修了(M.A.)を経て、1994年スタンフォード大学大学院社会学研究科博士課程修了 (Ph.D.)。1999年法政大学第一教養部専任講師、その後法学部教授などを経て、2008年よりグローバル教養学部教授。2021年に法政大学常務理事・副学長(2025年3月まで)、2025年3月31日より法政大学総長。専門は社会学、ジェンダー・セクシュアリティ。





