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連携強化から広がる、
これからの「家政学」と「大学」のかたち

鷹野 景子さん鷹野 景子さん

「家政学」は生活の側から社会を変革する学問

コー 2026年3月、学校法人法政大学と学校法人東京家政学院は連携強化に関する基本合意書を締結しました。2027年4月から法政大学が「東京家政学院 中学校・高等学校」を系列化するという具体的な動きもあり、大学との連携もいっそう深まっていくことになります。そこで今日は東京家政学院大学の鷹野景子学長をお迎えしました。提携強化の背景や今後の展望、これからの大学のあり方などについて、2人でお話しできればと思います。

鷹野 よろしくお願いいたします。東京家政学院大学は名前の通り、「家政学」を軸に、実践につながる学びの機会を提供してきた大学です。私は2021年4月より学長を務めていますが、専門は「理論化学」で、学問領域としては異なります。ただ、家政学の持つ幅広さや奥深さに驚かされることが多く、家政学に対する私の興味は日々高まっています。

コー 「家政学」と聞くと良妻賢母を育てるための学問といったイメージを持っている人がいまだに多いようですが、実際は生活に密着した応用科学であり、とても現代的で実践的な学問ですよね。

鷹野 その通りです。昨年度、本学町田キャンパスに生活共創学部が誕生しました。本学の教授が授業の中で話していたことですが、「すべての人が質の高い生活を維持し、生きがいを持って人生をまっとうするための方策を、生活者の視点から考え、提案することが家政学の目的」なのです。これまで「家政学」につきまとっていた固定的なイメージを払拭するためにも、家政学が「生活の側から社会を変える」学問なのだという点を、もっと発信していく必要があると感じています。

コー 生活共創学部の開設もその一つだと思いますが、鷹野先生は学長に就任されて以降、既成概念にとらわれず、さまざまなチャレンジをされていますよね。

鷹野 就職のためというより、まずは社会を知る機会として、一年生など早い段階から参加できるインターンシッププログラムを整備しました。私としては、ぜひ自分の専門とは異なる業界や企業にも足を運んでほしいという思いで始めた取り組みです。もう一つが、教員の研究活動をより活性化するべく挑戦した「学術系クラウドファンディング」です。3人の教員が挑戦し、いずれも目標額を達成することができました。

コー どのような研究テーマだったのでしょうか。

鷹野 2件の内容を紹介します。一つは、離乳過程にある子どもの「つかみ食べ」を通して、人間の豊かな食体験や発達のプロセスを探る研究です。もう一つは、「耳を澄ます経験」を保育環境に取り入れることで、子どもの多感覚的な認知がどのように育まれるかを明らかにする研究でした。クラウドファンディングは研究費の使途の自由度が高いことや、大学の研究を一般の方々に理解いただくよい機会であることが魅力です。

全学部が共学化 女子大の良さを保ちながらより開かれた大学へ

コー 東京家政学院は長い歴史を有する女子大学でしたが、近年では共学化が進んでいますね。いよいよ今回の連携について鷹野学長とご一緒にお話を深めていきたいと思います。はじめに、連携にいたった背景について聞かせていただけますか。

鷹野 本学は家政学分野に特化した小規模大学です。小規模だからこそ実現できるきめ細やかな教育については、多くの方から高い評価をいただいてきました。一方で、規模が小さいがゆえに、財政面では難しさもあります。また、学べる分野が限られていることで、受験生にとって選択肢として挙がりにくいという課題も抱えていました。そうした背景もあり、小規模大学ならではの良さを生かしながら、教育環境をさらに充実させるためにはどうすればいいのかを考え、今回の決断に至りました。

コー 法政大学と東京家政学院大学との連携は今回が初めてというわけではありませんよね。たとえば千代田区の徒歩圏にキャンパスを有する大学などで構成される千代田区内近接大学の高等教育連携強化コンソーシアムでは、御校とも以前からご一緒しており、単位互換なども行ってきました。そうした積み重ねがあったからこそ、連携強化をきっかけに、これまでの取り組みをさらに進化させていけるのではないかと感じています。

鷹野 急激に進む少子化もあり、将来を見据えた連携の動きは、今後、他の大学でもさらに進んでいくでしょうね。

コー 単に自分の大学だけの問題として対応すれば済む話ではないと思っています。こうした変化は、日本の将来や教育の国際競争力にも関わる問題です。だからこそ、大学同士が連携し、それぞれの強みを生かしながら、新しい教育のあり方をつくっていく必要があります。

鷹野 社会の変化とともに、まずは大学自身が変わっていくべきだというコー先生のお考えに、私も強く共感します。本学は女子大学として100年の歴史を歩んできましたが、2025年に町田キャンパス、2026年には千代田三番町キャンパスも共学化し、全学部が男女共学となりました。その背景として、社会全体でジェンダーフリーへの意識が高まってきたことも大きく影響していると思いますが、本学の共学化を単なる社会全体の傾向への適応としてではなく、ジェンダーフリーの先にある「性別の枠組みを超えた新しい協働の姿」をつくる教育上の好機であると、より積極的に捉えています。

コー 共学化によって、町田キャンパスの雰囲気に変化はありましたか?

鷹野 キャンパス全体に活気が増した印象があります。もともとあった女子大学らしい落ち着いた雰囲気は保ちつつ、新しいエネルギーが加わった感じですね。また、スポーツ系のサークルが増えたり、男子学生が料理クラブを立ち上げたりと、新しい動きも生まれています。そういえば食堂のスタッフから「男子学生って本当によく食べるんですね」と驚きの声が上がったこともありました(笑)。こうした変化を通して、大学がより社会とつながった、多様性のある場になってきたことを実感しています。

分野横断の交流から生まれる化学反応に期待

コー 今回の連携強化にあたり、高大連携という視点では、鷹野先生はどのような可能性を期待されていますか。

鷹野 家政学では、「生活者の視点」で物事を考えることを大切にしています。中学・高校の家庭科も、家政学を基盤に「生きる力」を育む教科だと考えていますので、法政大学の附属校における家庭科教育や探究学習の充実に、本学の専門教員たちが貢献できるのではないかと期待しています。

コー 探究学習でも、SDGsなど生活に密着したテーマを扱うことが多いですから、御校の知見が加わるのは心強いですね。

鷹野 そうですね。中高生にとっても大学生にとっても、「生活者の視点」で学ぶことは、とても大切だと思っています。日々の生活を見つめ直し、よりよく生きる。そうしたウェルビーイングにつながる学びに、本学の専門性を生かして貢献できればと思っています。

コー 学生だけでなく、研究者同士の交流にも大きな可能性がありそうですね。交流が盛んになればなるほど、新しい化学反応が生まれそうです。

鷹野 それぞれの大学には強みとする分野がありますので、お互いの活動に参加し合うことで、新しいアイデアや気づきが生まれるのではないかと期待しています。共通する部分もありますが、異なる分野も多いからこそ刺激になる。たとえば、法政大学の経済や福祉、本学の栄養・食、子ども教育など、それぞれの専門性を生かして協力することで、大きな相乗効果が生まれるのではないかと感じています。

コー 私も同感です。カリキュラムが違うからこそ、自分の大学では学べないことに触れられるのは大きな魅力です。ただ、それは単なる補完ではなく、お互いに刺激を受け合えるところに意味がある。たとえ同じテーマを学んでいても、大学ごとに環境や文化は異なりますし、そうした違いに触れること自体が、学生や研究者にとって大きな財産になると思います。今は、一つの専門だけでは課題を解決できない時代です。だからこそ、分野を越えて協力し合うことが、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。

専門分野や国境のボーダーを超えて自由に学べる場に

コー 今日、鷹野先生とお話しし、今回の連携によって家政学の可能性がさらに広がっていくことを実感しました。家政学は、人が生きていくうえで欠かせない学問である一方、これまでは女性中心のイメージで語られることも多かったと思います。だからこそ今後は、栄養学や心理学、公衆衛生など幅広い分野を取り込みながら、ジェンダーにとらわれない学問へ発展していく必要があります。その広がりを後押しするうえで、法政大学も役割を果たしていければと思っています。

鷹野 私たちは皆、「生活」を基盤に生きています。その意味で、「家政学」あるいは「生活科学」という学問は、あらゆる学びとつながるものだと思っています。本学の学生にとっては、総合大学である法政大学との連携によって、より広い教養や視点に触れる機会が増えるでしょう。一方で、法政大学の学生にとっても、本学の「家政学」の学びに触れることで、自分の生活や生き方を見つめ直すきっかけになるのではないかと思います。

コー ちなみに鷹野先生は、どのような学生を育て、社会に送り出したいとお考えですか。

鷹野 「どう生きたいか」は本当に人それぞれで、正解は一つではありません。だからこそ、自分自身の生き方を大切にしながら、周囲の価値観や生き方も尊重できる人になってほしいですね。そのためには、人を尊重し、自分も他者も大切にできるマインドと、社会課題を解決するための専門知識、その両方を身につけてもらいたいと思っています。

コー とても共感しました。専門知識を持ちながら、自由な発想と行動力で、他者や社会に貢献できる人は、いつの時代も大学が育てるべき理想の人物像なのでしょう。加えて、これからはグローバルなマインドセットも欠かせません。世界全体の文脈の中で、自分に何ができるのかを考えられる学生を育てていきたいですね。

鷹野 まったく同感です。たとえば家政学では、生分解性繊維という環境負荷低減をめざす繊維材料を対象とするような、工学分野とも重なる研究も行われています。学問に明確な境界はなく、すべてどこかでつながっている。家政学もまた、社会や世界と深くつながる学問ですし、そこから国際的な視野や新しい価値観を育んでいけると思います。

コー 東京家政学院大学のこれからに注目している受験生も多いと思います。最後に、若い世代へメッセージをお願いします。

鷹野 受験の時期には、自分の気持ちや感性を大切にしながら、「自分は何を学びたいのか」をしっかり考えてほしいですね。迷うこともあると思いますが、それは決して悪いことではありません。オープンキャンパスなどに参加しながら、自分の興味を確かめていってほしいと思います。そして最後は、自分で納得して進む道を決めてほしいです。

コー 本当にその通りですね。学生一人ひとりが自分らしい未来を描けるように、これから両大学で協力しながら、新しい学びをつくっていきましょう。


東京家政学院大学学長 鷹野 景子(たかの けいこ)

1956年静岡県生まれ。1979年お茶の水女子大学理学部化学科卒業。同大大学院理学研究科化学専攻修了(理学修士)。1988年理学博士(大阪市立大学)取得。1981年お茶の水女子大学理学部助手、助教授を経て、同大基幹研究院自然科学系教授。この間に、1992年アイオワ州立大学(米国)文部省在外研究員、1995年文部省学術調査官併任、2004年ルイ・パスツール大学(仏国)客員教授。2007年お茶の水女子大学学長補佐、その後教育研究評議会評議員、リーダーシップ養成教育研究センター長、副学長(2011―2015年)等を兼務。お茶の水女子大学名誉教授。2021年4月より東京家政学院大学学長に就任。専門は理論化学。主な所属学会は、American Chemical Society、日本化学会、分子科学会、理論化学会、日本コンピュータ化学会。

法政大学 第21代総長 Diana Khor(ダイアナ・コー)

1960年香港生まれ。1983年香港大学社会学科卒業 (B.Soc.Sc.)。同大大学院社会学研究科修士課程修了(M.Phil.)、スタンフォード大学大学院社会学研究科修士課程修了(M.A.)を経て、1994年スタンフォード大学大学院社会学研究科博士課程修了 (Ph.D.)。1999年法政大学第一教養部専任講師、その後法学部教授などを経て、2008年よりグローバル教養学部教授。2021年に法政大学常務理事・副学長(2025年3月まで)、2025年3月31日より法政大学総長。専門は社会学、ジェンダー・セクシュアリティ。