日本人の特性を踏まえた正しい肥満症の理解と向き合い方【PR】
完了しました
きょう3月4日は「世界肥満デー」。世界中の人たちが肥満への理解を深めて行動しようと、世界肥満連合が定めた日です。肥満症は様々な病気と関連していますが、国民の理解は十分とは言えません。近年では新薬も登場し、治療の選択肢が増えた肥満症について、日本肥満学会理事長で大阪大学教授の下村伊一郎先生、副理事長で琉球大学教授の益崎裕章先生、同じく副理事長で東京大学教授の山内敏正先生に話を聞きました。
肥満と肥満症、メタボの違いについて

――肥満症は、肥満とは違うのですか。
下村 肥満は、脂肪が体に過剰に蓄積し、単に太っている状態で、体重(㎏)を身長(m)で2回割った体格指数(BMI)が25以上の場合を指します。一方、肥満症は、肥満に加えて、他の健康障害や病気を合併している場合、あるいは内臓脂肪が蓄積しそれらの合併が予測される場合に診断され、医学的に減量が必要な病気です。
――メタボリックシンドローム(メタボ)とはどう違うのでしょうか。
下村 メタボは、BMIにかかわらず、内臓脂肪が蓄積して腹囲が大きくなり(男性85㎝以上、女性90㎝以上)、高血糖、脂質異常、高血圧のうち二つ以上が重なった場合を言います。この状態になると動脈硬化を引き起こしやすく(※1)、早期に見つけて予防するのが目的です。

肥満を放置することで高まる健康リスク
――肥満を放置しておくと、どのような問題が起こりますか。
益崎 肥満になると、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの代謝性疾患のほか、心臓の冠動脈疾患、脳梗塞など血管の病気になるリスクが高まります。他にも、変形性関節症などの運動器疾患や、女性の月経異常や不妊、睡眠時無呼吸症候群などを引き起こすこともあり、一部のがんのリスクも高めます。(※2)
――肥満の人は国内にどのぐらいいるのでしょうか。
山内 昨年12月に発表された国民健康・栄養調査によると、2024年に20歳以上でBMIが25以上の人は、男性の32.4%、女性の19.3%でした。
――「肥満になるのは生活習慣の問題で、自己責任ではないか」という意見もありますね。
益崎 肥満は、決して自己管理能力の低さや自己責任の問題ではありません。太りやすい遺伝因子など生来の個人差もあります。現代では24時間いつでも食べたい物を食べられるし、体を動かさなくても生きていける。夜間勤務や短時間睡眠で生活リズムが乱れ、ストレスフルな環境も食欲を増進させます。現代社会に生きていること自体が、肥満に陥るリスクが高い状態と言えるのです。
五つのアプローチで広がる治療の選択肢

――では、肥満の予防や肥満症の治療について教えてください。食事、運動、行動、薬物、外科(手術)と、五つのアプローチがあるようですね。
益崎 はい。まずは食事療法ですが、動物性脂肪や、砂糖・菓子類など血糖値が急激に上がりやすい「単純糖質」の摂り過ぎに気を付け、野菜や魚介類、海藻類などをバランスよく食べることが大切です。運動療法では、一週間に150~250分の有酸素運動が推奨されています。運動は肥満の予防に有効ですが、肥満症の改善という点では食事療法ほどの効果が出ない場合もあります。肥満症治療では食事療法を主軸に据え、運動療法を組み合わせる位置づけになっています。
――行動療法ではどんなことをするのですか。
益崎 食事の内容や習慣について質問に答える「食行動質問表」を活用し、自分の食べグセを把握する。「グラフ化体重日記」で、体重の変化をこまめに記録する。こうして自分の食生活のパターンに気づき、食行動を改善します。これら食事、運動、行動療法の三つをきっちり行っても改善効果が得られなければ、次の治療法を検討します。
――薬物療法と外科療法ですね。
益崎 はい。薬物療法としては食欲抑制剤や漢方薬が使われてきましたが、改善効果としては少し弱い場合もありました。そこへ近年、新しいタイプの治療薬が相次いで登場しました。減量の程度や肥満症の改善において期待ができる新たな選択肢です。外科療法は、胃の一部を切除して小さくするなどして、少し食べても満腹感が得られるようにします。

――肥満症ではない人が、新しい治療薬をダイエット目的など不適切に使っているケースも報告されています。
山内 一部の美容医療が、肥満症でない人に対し、安全性や有効性を十分に確認せずに薬を処方することは、健康障害を来すことにもなりかねず、医学的にも倫理的にも許されるものではありません。体重や体型に対する社会的な偏見とも関連しており、積極的に議論すべき問題だと考えています。
日本肥満学会の取り組みと今後の課題
――肥満と肥満症について、日本肥満学会ではどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。課題も教えてください。
下村 日本人は欧米人とは異なり、内臓脂肪が蓄積しやすく軽度の肥満から様々な健康障害が表われます。学会がそのメカニズムを科学的に解明し、世界に先駆けて発信したことは、誇れることだと思います。課題は、肥満症の正しい知識を、一般の方や医療者、国のレベルで認識し、対策を行っていくこと。そうなれば、多くの国民が重い病気にかからず、医療費も減り、医療経済的にも良い影響を及ぼすことでしょう。
山内 「肥満は自己管理の問題」とする誤った理解や偏見は、医療者の中にも存在し、結果的に肥満症の人が適切な治療を受ける機会を奪ってしまいます。学会は約25年前に、BMIに加えて健康障害の合併や内臓脂肪蓄積によるそのリスクを診断基準に組み込み、医療介入が必要な肥満を「肥満症」と明確に定義しました。「肥満症」の概念は、診療ガイドライン策定、公的医療保険における薬物療法の適用にも結びついており、肥満に対する社会的偏見を解消する上でも意義があったと考えています。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
下村 どうか、地域や職場でのメタボ健診や特定保健指導などの制度を活用し、医療の進歩に目を向けて、肥満症にならないための工夫をしてください。肥満症になった人は、一歩ずつ脱却するための意識を持ち、医療の恩恵を受けていただければと思います。
山内 例えば、膝が痛くて運動ができなかった肥満症の人が、治療薬でやせて膝の痛みが改善し、運動できるようになる。そうなれば、薬を使わなくても行動療法で理想的な体重を維持できる可能性が高まります。私たち医療者が伴走しますので、一緒に治していきましょう。
益崎 あなたは独りではありません。様々な職種の専門家が英知を結集して、肥満症に立ち向かっています。肥満症研究や医療の進歩に信頼を寄せていただき、私たち医療者とともに、幸せな人生100年時代を歩んでいただけたらと願っています。
引用
(※1)動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
(※2)肥満症診療ガイドライン2022
<略歴>
下村 伊一郎 氏
1989年大阪大学医学部を卒業。米国テキサス大学を経て、2005年より大阪大学大学院医学系研究科教授。日本肥満学会理事長、日本内分泌学会筆頭理事、日本糖尿病学会理事、日本臨床分子医学会理事長などを務める。
益崎 裕章 氏
1989年京都大学医学部を卒業。米国ハーバード大学医学部留学を経て、2009年より琉球大学大学院医学研究科教授。日本肥満学会副理事長、日本内分泌学会筆頭理事などを務める。
山内 敏正 氏
1992年東京大学医学部を卒業。東京大学大学院医学系研究科の助教・准教授を経て2018年より教授。日本肥満学会副理事長、日本糖尿病学会常務理事などを務める。
JP26SEMO00087





























